インバウンド特集レポート
訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。
株式会社ジェイ・リンクス 代表取締役 金馬 あゆみ
中東からの訪日リピーターの増加とともに強まるローカル志向
一年前、「中東市場は、一言で言うと『夜明け前』。これから確実に伸びていく市場だと思う」とここで述べたが、2024年は夜が明け始め、今後の伸びを確信する年となった。JNTOによると、2024年11月の中東地域からの訪日客数は2023年同月比140.2%増の1万9100人、1月~11月の累計でも、2023年同期比50.2%増の15万3700人となっている。
筆者では湾岸諸国(アラブ首長国連邦、サウジアラビア、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン)の取り扱いが多いが、最近は現地インフルエンサー主催のツアーや、若い世代だけでなく母親、祖母世代が含まれる女性のグループツアーも増えてきた。以前は桜や夏季休暇など特定の時期に来日が集中する傾向があったが、最近ではそれ以外の時期も含め通年で増えてきている。予約のタイミングも他の地域に比べれば直前ではあるが、以前より早めに入るようになってきている。
彼らの消費の大部分を占めるのは宿泊施設だが、体験や買い物、美容など様々なニーズがある。お土産に関しては、最近は少子化が進んでいるとはいえ、特に40代以上は兄弟姉妹、親戚が多く、必然的に購入数も金額も大きくなる。帰国時は荷物の数が人数の数倍に増えることも多く、空港へ送迎する車とは別に荷物運搬用の車が必要となったり、チェックイン時に荷物がバケツリレーのように運ばれたりすることが多々ある。
リピーターも着実に増えており、訪日回数が増えるにつれローカル志向は更に高まる。「なぜそんなところへ?」と日本人が首をかしげるような場所が選ばれることもある。当初は東京以外は京都や大阪もほぼ分からないという現地旅行事業者や旅行者が多かったが、今はリクエストにピンポイントで地方都市名が入ることも増えた。この背景にはJNTOドバイ事務所の存在も大きいと感じている。
スピードと柔軟性が旅行者受け入れのポイントに
中東市場を狙うならば、スピードと柔軟性は必須条件である。予約が前もって入るようになってきたとはいえ、やはりアラブ人は直前かつ急な依頼が多い。特に長期休暇では、東京と京都、あるいは大阪で宿泊施設を1~2週間押さえ、来日後にそこを拠点に日帰り~2泊3日程度のショートトリップの提案および手配を要求されることも多い。失注の理由の多くは返事の遅さのため、全て確実にしてからというよりも、とりあえずYesと答えて後から帳尻を合わせる方が受注率は上がる。
地方においては自然や、都市部ではなかなか見られない日本人の本当の暮らしを見たいというニーズがあるが、単体で良いところはあっても周辺環境(宿泊施設、移動手段、飲食店など)が十分でなければ諦めることが多い。周辺の施設やコンテンツをカテゴリー別にまとめて一緒に紹介してもらえると旅行者に提案しやすくなる。また、追加料金が発生しても良いので待ち時間の短縮、貸切など特別対応、体験のオーダーメイドなども可能であって欲しい。
富裕層、高付加価値旅行者といえば欧米豪に目が向くことが多いが、中東市場の旅行者は彼らに比べると食事など一部を除き許容範囲は広いと感じる。受け入れにあたり宗教の戒律とその対応について不安を感じられることも多いが、予想されていることを伺うと、そのほとんどが稀有であることが多い。
早起きは三文の徳。夜が明け始めた中東市場は、今しっかりチャレンジを始めるところには見返りも多いことを約束できる市場である。
著者プロフィール アルゼンチンでの日本語教師や帰国後の貿易商社での海外営業を経て、2008年に株式会社ジェイ・リンクスを設立。湾岸諸国を中心とした中東地域を主な対象とし、インバウンド事業、輸出事業、イベント事業などを手掛ける。近年は現地でのプロモーションや、現地ネットワークと現場の一次情報を生かした現地調査サポートおよびアドバイザリー業務なども行っている。 |
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