インバウンド特集レポート

20〜30代FIT層急増、ムスリム対応が成長のカギ。2025年のマレーシア訪日市場

2024.12.25

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訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。

 

インバウンド市場動向、2024年振り返りと2025年予測

 

Clozette Pte Ltd, CoolJP 事業部統括 桑島 千春

 

 

マレーシア市場、新たな可能性を探る3つのトレンド

2024年、11月末時点で累計43万5200人のマレーシア人旅行者が日本を訪れた。コロナ禍前の水準に迫り、近く更新するであろう数字の背後には、マレーシア市場のみならず日本のインバウンド観光全体に通じる新たな潮流が見えてきている。3300万人の人口を持つこの多民族多文化国家は、日本への親しみと相まって、観光市場としての潜在力を大きく膨らませている。特に目を引くのは、以下の3つの新しい流れだ。

1.FITの増加
まず、「自分らしい旅」を楽しむ個人旅行者の増加である。現在、日本を訪れるマレーシア人の約半数がリピーターで、特に20〜30代の若者たちが目立つ。彼らは日本のアニメや漫画といった文化に通じ、インターネットを駆使しOTAを活用しながら旅行を計画。公共交通機関やレンタカーを使いこなし、自由気ままに日本の街々を探索している。一方で、富裕層の間では、冬のニセコでスキーを楽しみ、春は京都で桜を愛で、東京では話題のレストランを巡るという、贅沢な周遊スタイルも定着している。

2.多様化する旅行者の楽しみ方
次に注目したいのは、旅行者の楽しみ方の変化だ。2023年の1人当たりの消費額は22万4078円と、2019年と比べて68%も増加している。もちろん買い物も人気だが、最近では地方での体験プログラムや文化体験にも関心が高まっている。お気に入りのお菓子や化粧品を買い求めながら、着物体験や伝統工芸づくりにも挑戦する。そんな多彩な楽しみ方が定着してきているのだ。

3.ムスリム旅行者への対応
そして最も大きな可能性を秘めているのが、ムスリム旅行者の市場だ。実は、マレーシア人口の60%以上がイスラム教徒。この層の訪日がこれから本格的に増加しようとしている。ハラール対応のレストランや、礼拝室を備えたホテルが増えれば、訪日者数は大きく伸びる可能性がある。特に地方都市での受け入れ体制づくりは、新しい観光スポットの発見にもつながるかもしれない。十分な情報発信を行うことで、その認知はかなりのスピードで向上するはずだ。

 

航空便増加で観光客増加に弾み

さらに追い風となるのが、2025年2月に予定されているマレーシア航空の新規就航だ。羽田〜コタキナバル線の再開や成田〜クアラルンプール線の増便により、日本への旅がもっと身近になる。マレーシアの経済発展で中間層が増えていることも、プラスの要因となるだろう。桜の季節や冬休みなど、人気の観光シーズンはますます賑わいを見せそうだ。

このように、マレーシアからの観光客は、単に数が増えるだけでなく、日本の観光の楽しみ方そのものを変えていく可能性を秘めている。特にムスリム旅行者の増加は、日本の観光業界に新しい風を吹き込むきっかけとなるかもしれない。これからの展開に是非注目したい。

 

著者プロフィール
千葉県出身。シンガポール在住25年。各種メディアのライターや編集者として経験を積んだ後、シンガポール本社のデジタルマーケティング会社Clozette GroupにてCoolJP事業部統括として在職中。東南アジアからの観光インバウンドや、日本ブランドの食や製品のアウトバウンド推進プロジェクトの企画や運営に携わる。

 

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