インバウンド特集レポート

サステナブルツーリズムを目指し、観光庁「持続可能な観光推進モデル事業」で変わる日本各地の地域づくり

2025.01.30

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持続可能な社会への関心が世界的に高まる中、観光業においても「持続可能性」をテーマとした取り組みが活発化している。地域の未来を見据えた適切な観光地マネジメントの重要性が注目され、日本でもこの課題に向けた取り組みを実践する地域が広がってきた。

持続可能な観光推進における足掛かりの一つとなったのが、2020年に観光庁が策定した「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」だ。観光庁はこのJSTS-Dを活用し、持続可能な観光地マネジメントの導入を支援する「持続可能な観光推進モデル事業」を通じて、地域の多様な取り組みを後押ししている。ここでは、こうした事業を活用しながら、観光客と地域住民の双方に配慮した「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを目指す地域の姿を紹介していく。

 

地域の道しるべとなる「日本版持続可能な観光ガイドライン」

2007年に施行された観光立国推進基本法で、政府は観光を日本の重要な政策の柱として位置づけ、翌年には観光庁が発足。インバウンドを中心とする観光政策を推進しながら、地域経済の活性化を図ってきた。しかし2018年頃から、急増する外国人旅行者を一因として、一部地域でオーバーツーリズムや環境負荷、住民生活への影響といった観光によるマイナスの側面が浮上するようになる。

そこで観光庁は、観光立国を目指す上でこうした課題の改善は不可欠と捉え、地域の持続可能性を高める取り組みに着手した。一時的な利益だけを見るのではなく、地域全体が観光の恩恵を永続的に受けられる仕組みを作ることが大切であり、そのためには、中長期的な計画を立てて地域自身が観光地を総合的に経営していく必要があると考えたのだ。

観光地を対象とした持続可能な観光地づくりの指標となる国際基準「GSTC-D(Global Sustainable Tourism Criteria for Destinations)」に着目し、2020年に国連世界観光機関(UN Tourism)駐日事務所とともに「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を開発・公表した。このガイドラインは、GSTC-Dに準拠しつつ、自然災害リスクやオーバーツーリズムといった日本の実情に即した項目が反映されており、地方自治体や観光地域づくり法人(DMO)が持続可能な観光地マネジメントに取り組むための指針となる内容が盛り込まれている。

▲観光庁が開発した日本版持続可能なガイドライン(JSTS-D)

 

「持続可能な観光推進モデル事業」の活用で、地域の課題解決へ

JSTS-Dの実践を通じた持続可能な観光地域づくりの優良モデルケースを作り上げることを目指し始まったのが「持続可能な観光推進モデル事業」である。観光庁はこの事業を通じて、環境負荷の少ないクリーンエネルギーへの転換(グリーントランスフォーメーション:GX)や、自然や文化といった地域資源の保全・活用など、地域の観光に関するサステナブルな取り組みを推進。また、データに基づく中長期的な観光地マネジメント体制の構築も支援し、地域課題の解決を図りながら、持続可能な観光地域づくりを進めている。

さらに、「Green Destinations」や「Best Tourism Villages」といった国際的な認証や表彰を取得しうる地域のモデルケースを創出することも目的の一つだ。2023年に発表された「観光立国推進基本計画」では、「持続可能な観光地域づくり戦略」が基本方針の一つとして掲げられ、2025年までに100地域(うち国際認証・表彰地域50地域)以上が取り組んでいる状態を目指している。国内の各地が、地域資源を保全・活用しながら地域経済を循環させる持続可能な仕組みを構築し、その取り組みが国際基準に基づいたものであることによって、世界に選ばれる観光立国となることが狙いだ。

 

地域の意識変化による、持続可能な観光の広がり

「持続可能な観光推進モデル事業」は、地方公共団体やDMOが主な応募対象で、採択された地域には専門家が派遣され、地域の取り組みに対する伴走支援や必要経費の支援を受けられる。これ以外にも、JSTS-Dの具体的な活用方法に関するアドバイス、先進地域での研修、GSTC公認トレーニングプログラムの提供等がある。

持続可能な観光に取り組む地域の裾野を広げ、世界に誇れる地域を輩出するべく、観光庁では複数年にわたり様々な地域の課題解決に取り組んできた。採択された地域では高い水準で取り組みが進んでおり、国際認証や表彰を取得するなどの成果も現れている。

コロナ禍を経て、急速に回復したインバウンド需要を背景に、持続可能な観光の推進が、地域の観光従事者にとってますます重要な取組として認識されるようになってきたことは間違いない。

 

トップランナー創出を目指す2024年の取り組み

2024年度は、国際認証・表彰の取得を狙いうる地域への支援を視野に、JSTS-Dロゴマークの使用許諾を受けている地域、またはそれに準じる地域を対象に応募を行った。具体的なロードマップを作成して持続可能な観光の継続した取り組みを図ることを念頭に、6地域が実証に取り組んでいる。

神奈川県箱根町では町内の可燃ごみのうち80%を事業系が占め、その48%が食品廃棄物を占めている。こうした状況を受け、箱根町では以前から、どのように対応を進めるか地域内での合意形成を図り、具体策の検討を進めてきたが、今回の事業を通して食品廃棄物の削減に向けて具体的な一歩を踏み出した。今回の事業を通じて、箱根町、事業者、廃棄物運搬業者、リサイクル事業者などで構成される協議会を立ち上げ、宿泊施設における事業系食品廃棄物の再資源化に向き合う。まずは湯本エリアの施設を対象として、食品廃棄物の発生量及び組成調査を行い、実態を把握した上で、食品リサイクルの実証実験を実施。分別や収集・運搬、リサイクルに係るコスト面やオペレーション面での課題を抽出し、リサイクルスキームを検討するほか、他エリアへの取組拡大も視野に入れた実装ロードマップを作成する。

三重県明和町は国史跡「斎宮跡」を有する史跡の町であるが、観光に対する住民の理解が十分でないという課題を抱えている。そこで、「花」をテーマにした様々な活動を通して観光活用に対する住民理解を深めながら、史跡の活用と保全の持続可能な循環のあり方について検討を行う。
住民参加型の環境改善チャレンジとして、生ごみ処理ケースの作成や二次処理講座、花を植えるイベントなどを開催。地域へのヒアリングを行いながら、史跡内の耕作放棄地の活用やオープンガーデンによる観光まちづくりの実現可能性も模索する。さらに、こうした取り組みに関心のある住民や事業者を対象にサステナビリティコーディネーターを育成し、持続可能な観光の担い手の拡大を目指す。

鹿児島県与論町では2021年より「持続可能な観光地域づくり」に体系的に取り組んでいるが、取り組みを持続するための安定的な財源確保が課題となっている。そこで観光財源の確保に向けて法定外目的税の導入を視野に検討会を立ち上げ、協議を実施している。これまで税徴収のためのデモアプリ開発や事業者アンケートを通じて検証を実施。また、サステナブルなニューツーリズム商品の販売、島内の宿泊・飲食事業者自らによるアセスメントやアクションプランの策定にも取り組んでいる。

残る3地域の宮城県東松島市、山形県鶴岡市手向地区、岐阜県高山市については、続く記事で詳しく紹介していく。各地域が抱える課題や取り組み、目指す姿を知ることは、他の地域が持続可能な地域づくりを進めるにあたっての貴重なヒントとなる。また、地域ごとの課題解決に向けた実践的なアプローチを学ぶこともできる。

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