インバウンド特集レポート
観光案内所のJNTO公認数が500を超えた。未登録ではあるが、観光案内所機能を備えた施設も多くある。しかし、運営に関しては予算がかかり、閉めてしまう案内所もあるという。継続的にできるビジネスモデルは何だろうか。様々な取り組みを追った。
目次:
公認の観光案内所が増加している
認定の各案内所は、カテゴリー分けをして、機能を明確に
公認されると多くのメリットが!
新規参入によって活性化している
事例紹介
公認の観光案内所が増加している
観光地に行くと、最近みかけるようになった「i」(アイ)のマーク。これぞ、国が公認している観光案内所だ。かつては「?」のマークなど地域によってばらばらだった。2012年にスタートした認定制度で、2015年3月現在、528箇所が登録されている。
スタート時には、268箇所だったが、翌年の2013年の12月には、367箇所になり、1年後の2014年12月には、465箇所と着実に数を伸ばしている。
そして2015年3月に「道の駅」63件が加わり528箇所となった。
「観光立国実現に向けたアクションプログラム2014」に基づき、「道の駅」は、訪日外国人旅行者の観光案内機能の向上を求められている。
具体的な成果として、それ以前に認定されていた北海道の網走の事例を後述したい。
そもそも認定制度の趣旨とは何だろうか。
日本政府観光局(JNTO)の谷口善秀インバウンド戦略部次長によると、外国人旅行者が日本を旅行する際に不自由を感じることのないようサポート体制の構築がベースになっているという。
「“認定”によるブランド化と観光案内所のカテゴリー別の分類により、外国人観光案内所の機能向上を促進し、質を保証することになります。」
東京や大阪などの都市圏ばかりではなく、外国人旅行者を地方へ案内するというのが、国の「観光立国実現に向けたアクションプログラム」に入っている。認定の観光案内所という拠点があることで、地方へ安心して出かけられるというのだ。
質が担保されることにより、リピートにつながる可能性が高い。
認定の各案内所は、カテゴリー分けをして、機能を明確に
カテゴリー1~3と分かれ、案内する範囲が異なるのだ。3が全国の案内、2が県などの広域エリアの案内、1が目的地としての観光地の案内が可能。カテゴリー3は難易度が高く、認定数が少ない。一方、カテゴリー1は、難易度が低く認定数が多いが、利用者からすれば地元のコアな情報を教えてもらえ、なくてはならない存在だ。
下記にカテゴリーごとの要件をまとめた。
カテゴリー3:
対象は、外国人旅行者が日本のゲートウェイとして、最初に訪れる地域。または外国人旅行者が特に多く訪れる観光地だ。
条件として、フルタイムで英語、その他2言語で対応可能なスタッフが常駐していること。全国の公共交通利用や観光情報などを提供できること。
カテゴリー2:
外国人旅行者が、観光の拠点として多く利用し、ローカルな情報に加え、次の移動先などの広域的な情報の提供が求められる地域にある。
条件として、フルタイムで少なくとも英語で対応可能なスタッフが常駐している。電話通訳サービス利用やボランティアスタッフの協力を得て、英語以外の言語にも対応できる体制があること。広域エリア内の公共交通利用や観光情報などを提供できること。
カテゴリー1:
外国人旅行者の最終目的地となり、ローカルな情報の提供が求められる。
条件として、パートタイムで英語対応が可能なスタッフがいる。又は電話通訳サービスの利用、ボランティアスタッフの協力等により英語対応できる体制があること。また地域内の公共交通利用や観光情報などを提供できること。
さらに、「パートナー」というカテゴリーがある。専業としていない観光案内所のことだ。実例としては、後述する金沢のゲストハウスがある。
この認定制度、どういうプロセスで公認されるのだろうか。
JNTOが募集する期間に、観光案内所の認定を求める地元の団体や法人が、まず各地方運輸局に届け出をする。
その地方運輸局が、実際に推薦するにふさわしいところかどうかを判断し、申し分なければ、JNTOに推薦をする。
「やはり、どういう外国人旅行者が来られているのか、どういう質が求められているのかなど、地元や運輸局さんが一番実情をわかっていらっしゃいますから。」と谷口次長。
実質、認定の作業に携わっているのは、運輸局とJNTOということだ。そして、認定を受けた外国人観光案内所について、観光庁、運輸局とJNTOが実地の調査を行い、基準にあったサービスを提供しているか、設備が設置されているか、などを確認するという。また3年ごとに更新手続きを行い、その際には基準への適合性を改めて審査する。上手に補完しあっているのだ。
公認されると多くのメリットが!
ところで公認されると、どういったメリットがあるのだろう。以下にリストアップした。
・認定観光案内所としてJNTOサイトに掲載
JNTOのwebサイトにリストアップされることが大きい。外国人旅行者がその案内所、その地方へ安心して訪ねていくようになるのだ。
・会議・研修会でのサポート
1年間に2カ所程度、九州や東北といったブロックごとに研修会を開催して、案内所間の交流を深め、情報交換も行われる。何に苦労しているかを共有することによってボトムアップできるというのだ。さらに全国の案内所を対象として2日間の研究会も実施する。もっとミーティングの機会を多く持ちたいという意見もあり、盛況とのこと。
・メルマガの配信
毎月2回、案内所向けのメールマガジン「V通信(ビジット・ジャパン通信)」が発行される。JNTOから最新のトピックスを提供、また各地域の観光案内所の情報や対応事例を採り上げ、参考になりそうなことを共有している。
・言語のサポート体制
英、中、韓の各言語について、電話で通訳サポートを受けられる。東京丸の内のJNTOの観光案内所に常駐しているスタッフが対応。
・全国の観光案内所同士の連携
資本関係や上下関係はないが、「i」(アイ)マークを共有することによる連携をしている。管轄外地域の観光情報について問い合わせがあった場合、他の認定観光案内所と連絡を取り合い、情報収集したり、観光パンフレットを取り寄せたりと連携できる。
観光案内所があることによって、各地の連携によって、誘客につながるフックになっている。
「i」のシンボルマークを案内所の誘導標識として活用して、外国人観光客の来所が増えたという声も多いという。
特に、増加しているFIT(個人旅行者)が訪れ、幅広い質問があるそうだ。
旅程を決めずに来日して、観光案内所で相談されるケースも珍しくないと谷口次長。
例えば、
○○が食べたい、△△が食べたいけど、どこに行けばいいの?
ここに写っている画像の場所に行きたいけど、どうやって行くの?
ムスリム対応のお店を教えてください。
お花の情報について教えてください。
登山について教えてください。
そこでの丁寧かつ的確な対応は、外国人旅行者を喜ばせ、今後、リピーターとなって日本のファンへとつながる。
観光案内所は、まさにファンづくりの最前線となっているのだ。
口コミとなって拡散し、日本の良さを理解してもらえるきっかけになる。
カテゴリー1は、地元の情報を多く持っているからこそ、代案の提示ができるのも強みだと谷口次長は指摘する。
ヒアリングしたうえで、彼らが求めるものを的確に判断し、代案を提示する機能が他にない特長だ。
ところで、増加傾向にある観光案内所だが、スタイルが多様化しているようだ。
そしてもう一つ、観光案内所自体は、情報の中立、公平性を義務づけられている。特定の企業やサービスのみを推薦するのはNGだ。
重要なのは、観光案内所のカウンターとして独立していること。隣接して旅行商品やSIMカードの販売も可能ということ。免税店があってもよいのだ。 外国人旅行者が求めている事柄を丁寧に伺い、そのうえで案内するのは問題ない。
●新規参入によって活性化している
「O to O」(オー・トゥー・オー=オフライン・トゥー・オフラインの略)という視点で考えると、観光案内所はまさにインフラの拠点になる。隣接した場所で旅行者にアピールできるのだ。
観光インフラとしての拠点を、いかに活用しているか、その事例を追っていこう。公認ではないが、活発な観光案内所も含んでいる。
●着地型観光の販売拠点にする動き
<HIS>
今年の4月に、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が、大阪・心斎橋の商業施設「心斎橋オーパ」に国内最大級となる訪日外国人専用観光案内所を開設した。家電量販店やドラッグストアなども併設。
需要をくみとり、観光案内所を発展させていきたいと意気込んでいる。
<JTB>
今年の6月、京都タワーの3階に、JTB西日本は京阪電気鉄道と共同で、関西ツーリストインフォメーションセンター 京都(KANSAI TOURIST INFORMATION CENTER KYOTO)」を開設。オープン初日には京都市長もかけつけた。2016年3月までに、10万人の訪日旅行者の利用をめざす。 京都を中心とした日本各地の観光情報の提供に加え、ジェイティービー(JTB)の訪日外国人向け商品「サンライズツアー」や「エクスペリエンスカンサイ」の予約、各種交通チケットの販売、有料での手荷物配送などをおこなう。
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