インバウンド特集レポート
今年の春節や桜シーズンに、中国客が最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったという。その背後には、台湾のドラッグストア研究家の書いた購入ガイド書があった。同書は中国本土でも刊行され、それを持って来店する中国客も現れている。著者の鄭世彬氏が語る「台湾で日本のクスリが愛される理由」とは。
目次:
人気は日本の定番家庭薬
中国ネットに現れた「神薬」リスト
日本のクスリはよく効き見た目もおしゃれ
台湾客が中国客を先導する
おかしな中国語表示が氾濫している
財務省が今月13日に発表した2014年度の国際収支によると、日本と海外のお金の出入りを示す経常収支の黒字幅が4年ぶりに増加。その要因のひとつが、訪日外国人旅行者の消費(朝日新聞2015年5月14日)だとメディアは報じている。
一方、春節や桜のシーズンの中国“爆買い”報道はもはや恒例だが、今年彼らが最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったと中国メディア(レコードチャイナ2015年3月25日http://www.recordchina.co.jp/a104841.html )は指摘している。
その時期、都心のドラッグストアに連日大挙して押しかける外国人観光客の姿が見られた。彼らの“爆買い”ぶりはどれほどのものなのか。どんな商品が人気なのか。まずは関係者の話から始めよう。
人気は日本の定番家庭薬
東京と関西を中心に店舗を展開するOSドラッグチェーンの國米実支社長によると、外国客が目立って増えてきたのは去年からという。
―昨年10月からの免税改正の影響でしょうか。増えたのは秋からですか。
「いや、どっと増えたのは去年の春先から。消費税導入前に3月特需があって、4月以降はドスンと売上が落ちるかと思っていたら、そうでもなかった。これは外国客のおかげ」。
―だとすれば、外客効果は本物ですね。どこの国の客が多いですか。
「うちの場合は、売上でいうと、いちばんは中国。全体の4割。次いで台湾客が2~3割、そして韓国、マレーシア、シンガポール、タイという順。欧米客も多いが、彼らはそんなに買わない。必要なものをちょこっと買う感じ。やっぱり買い物はアジア客。
最近ではキットカットが1日100ケース(12個入り)売れる。マレーシアの人に聞くと、向こうでは1個700円らしい。抹茶味やわさび味など、日本にしかないものを買っていく」。
―中国客はやはり“爆買い”?
「彼らは値段も聞かないで買っていく。たとえば、『救心』(救心製薬)。一度に2、3箱、お一人様お買い上げ3~4万円はよくある」。
―他にはどんな商品が人気ですか。
「肝油のドロップ。中国は一人っ子政策だから、子供が大事。風邪薬やかゆみ止めなど、子供用のクスリを買っていく。ベビー用品も多い。
大人向けなら、胃腸薬の『強力わかもと』(わかもと製薬)や『エビオス錠』(アサヒフードアンドヘルスケア)、疲労回復薬の『アリナミン』(武田薬品)など。人気は日本の定番家庭薬。みなさん商品の写真をコピーして何枚も束にして持ってくる。欲しい商品の画像をスマホで見せられることも多い」。
日本チェーンドラッグストア協会によると、全国のドラッグストアの総店舗数は1万7953店(2014年)。前年より390店舗増加し、総売上高も6兆679億円(前年比101.0%)と伸びは鈍化しつつも成長している。一方、1店舗当たりの売上高は3億3799万円(前年比98.7%)と微減傾向にある。それだけに、売上に貢献してくれる外国客の消費が注目されるのは当然だろう。
中国ネットに現れた「神薬」リスト
昨年秋、中国のネットに以下の記事が掲載されたという。
日本観光、この「神薬」は買うべし!中国人の心をつかんだ日本の優れもの―中国ネット(レコードチャイナ2014年9月5日)
http://www.recordchina.co.jp/a93733.html
そこには、頭痛薬の『EVE』(エスエス製薬)や『口内炎パッチ』(大正製薬)など、日本で購入すべき12種類のクスリが紹介されていた。ドラッグストアで販売されている市販薬である。でも、いったいこの情報元はどこから来たものなのか。
そのひとつの手がかりとなるのが、昨年刊行された『東京コスメショッピング全書』という中国書だ。日本の優れた医薬品や健康・美容商品、化粧品をジャンル別に選んでカタログ風に分類し、解説した案内書である。まさにいま訪日する中国人観光客が最も知りたい情報が一冊にまとめられているというのだから、驚きだ。
『東京コスメショッピング全書(东京美妆品购物全书)』(中国軽工業出版社 2014年)
著者は台湾出身のドラッグストア研究家の鄭世彬氏。彼が台湾で書いた本が、中国の出版社の目にとまり、簡体字版として刊行されたものだ。ドラッグストア関係者の話では、同書を手にして来店する中国客の姿も見られるという。
「フリーの翻訳家だった私のもとへ日本で買ったクスリを持ってきて何が書いてあるか教えてほしいという問い合わせがよくあった。知り合いの出版社と相談し、2012年2月、日本のOTC医薬品を解説する購入ガイドを出版した」(鄭氏)。
その後、読者から化粧品のガイドもほしいとの声があり、同年11月に刊行したのが、中国版の原本である『東京藥妝美研購』だ。これが好評で、日本の5分の1以下の人口の台湾で約1万部売れた。
『東京藥妝美研購』(晶冠出版社 2012年)
日本のクスリはよく効き見た目もおしゃれ
3月上旬、訪日していた鄭世彬氏に話を聞いた。
―この本の読者はどのような人たちですか。
「OTC医薬品の本は20~60代までの男女で、コスメガイドは20~40代の日本好きな女性たち。台湾では読者を集めて日本のコスメセミナーも開いている」。
鄭氏が主催する台湾のコスメセミナー会場は若い女性であふれる
―本を書いたきっかけは、知り合いから日本のクスリに関する質問が多かったからだそうですが…。
「私が日本に行くというと、家族や知り合いから必ずクスリを買ってきてと頼まれる。台湾では、日本のクスリをお土産として配る習慣がある」。
―台湾の人たちは、どんなクスリをお土産に買うのですか?
「たとえば、かゆみ止めの『ムヒ』(池田模範堂)や『ウナクール』(興和)。台湾は日本に比べて暑いから、虫が多い。胃腸薬では『キャベジンコーワ』(興和)が人気。私の母は胃腸が悪いので、いつも買ってきてほしいと頼まれる。台湾のおばさんたちの間では『キャベジン』はすごい薬だという噂が口コミで広がっている」。
―なぜ日本のクスリは人気なのでしょうか。
「効き目もそうだが、日本のクスリはパッケージがおしゃれなこと。一見クスリに見えないのがいい。それに台湾で買うより断然安い。たとえば、目薬『サンテFX』(参天製薬)は台湾では350台湾元(約1000円)くらいだが、日本のドラッグストアなら300円前後で買える」。
―そんなに値段が違うのですか。まとめ買いにしてお土産としてみんなに渡せば、喜ばれそうですね。
「化粧品も日本では台湾の半額に近い気がする。もうひとつの理由は、台湾の薬事法の関係で、同じ日本のメーカーの商品でも、台湾製では一部の成分が添加されていないケースがけっこうある。
たとえば、台湾製の『キャベジンコーワ』には脂肪を分解する酵素のリパーゼが添加されていない。いちばん肝心な成分なのに、台湾では市販品に添加してはいけない。
頭痛薬の『EVE』に含まれているイブプロフェンも、ようやく今は台湾でも解禁されたが、少し前まで禁止だった。この成分はよく効くので、『EVE』は台湾の20代~30代の若いオフィスワーカーに人気がある。男女関係なく、オフィスのデスクの引き出しに入っていると思う」。
『EVE』(エスエス製薬)は台湾の若い世代に人気
―クスリ以外ではどんなものがありますか。
「たとえば、『休足時間』。台湾人はバイクに乗る人が多く、ふだんあまり歩かない。でも日本に行くと地下鉄に乗るので、いつもの倍以上歩くから、足が疲れる。そんなとき、ホテルでひんやりしたシートを貼ると気持ちいい」。
ドラッグストアの店頭に置かれる『休足時間』(ライオン)
台湾の都市部に暮らす人たちは、日本と同じような現代的な生活を送りながら、気候や風土、習慣が違うため、さまざまなニーズがあるようだ。パッケージがおしゃれなことのポイントが高いというのも、なるほどである。
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