インバウンドコラム

新型コロナウイルス:中国国内で何が起きているのか。観光業界直撃に日本政府も相談窓口を開始

2020.02.05

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中国・武漢市で発生した「新型コロナウイルス肺炎」の感染が拡大する中、日本でも訪日中国人客の旅行キャンセルが相次ぎ、インバウンド業界は大打撃を受けている。こうした状況において、インバウンド業界は今後どのように対策を進めていくべきか、中国側の視点と共に考察する。

 

新型コロナウイルスの影響により、中国国内で発生している変化

中国政府は1月25日、新型コロナウイルス対策で陣頭指揮をとる作業部会のトップに李克強首相を任命し、李首相は27日に現地を視察するなど、感染拡大阻止に向けた国家体制を整えている。武漢市は現在、感染拡大を阻止するために封鎖状態となっており、新型コロナウイルスによる肺炎患者を専門的に受け入れる専門病院も2月2日に完成した。

中国の市場調査や市場戦略のコンサルティングを手がける(株)中国市場戦略研究所(CM-RC.COM)の徐向東氏は、現在の中国の状況を次のように語る。「2003年に重症急性呼吸器症候群(以下、SARS)が流行した際には、自宅待機を余儀なくされた中国人の間でネット通販が普及しました。今回もストレスを発散するためにネットで“爆買い”する人が多く、中国全土の映画館が閉鎖されたことでネット系映像サイトへの需要も高まっています。また、衛生面での意識がさらに高まると思われます。新型コロナウイルス収束後も日本人と同じようにマスクの着用を心がけるようになり、消毒液、除菌スプレー、洗口液、洗浄液などへの需要が高まるでしょう」。

徐氏によると、今回の事態における日本の対応に、中国人は好印象を抱いているという。「日本政府は日本国内での感染者は国籍を問わず治療費を助成すると発表し、中国に100万枚のマスクを寄付しました。さらに直行便の取り消しで地元に戻れなくなった武漢からの観光客のビザを延長するといった措置が中国で大きなニュースとなっています。日本の一部のドラッグストアは、中国語で『中国加油(がんばれ!)』とPOPを掲げてマスクの販売数を増やし、割引価格でマスクを提供する店舗も現れるなど、日本に対する中国人の好感度が上がっています」。

 

相次ぐ予約キャンセル…。政府も相談窓口を設置

一方、日本のインバウンド業界は新型コロナウイルスの影響による対応に四苦八苦している。中国の団体客を受け入れている旅行会社では、500〜600本入っていた中国からの春節ツアーが全てキャンセルされた。売り上げの大半を中国市場が占めているだけに、今回の騒動で人員削減もあり得る状況とのことだ。売上の3割を中国からのインバウンドが占める関西のホテルチェーンでは、東南アジア市場を開拓することで挽回を試みているが、今回の事態でリスクヘッジの大切さを痛感したという。また、インバウンドを受け入れる大手居酒屋チェーンでは、中国からの観光客を中心に3,000件ほどのキャンセルが発生。ハラルやベジタリアン対応にシフトチェンジし、多様な外国人観光客の受け入れに奔走している。また、日本航空と全日空は中国本土への路線の一部を、3月28日まで運休することを発表。国内の事業者への影響も避けられない事態となっているが、政府は新型コロナウイルスの流行により影響を受けるおそれのある中小企業・小規模事業者への相談窓口の設置を決定、中小企業・小規模事業者を対象に経済産業省が、宿泊事業者を対象とした窓口を観光庁が実施している。

過去にSARSが発生した際には、感染の流行が収束した途端、中国人旅行者が堰を切ったように海外旅行を始めたという例がある。中国人の日本への好印象を指摘した徐氏は、「中国人の健康に寄与する日本製品に対するニーズの高まりは、日本国内における商機として捉えるべきでしょう。今後、商品の開発や売り方、情報発信などにおいて、こうした中国人の変化を意識していく必要があります」と語る。新型コロナウイルスの影響で打撃を受けている日本のインバウンド業界は収束後の状況を予測し、中国人旅行者を再び呼び戻すために必要な戦略を今から考えておく必要があるだろう。

 

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