インバウンドコラム
民泊マーケットを大きく拡大させてきたAirbnb(エアビーアンドビー)が、従業員の大幅削減を発表したニュースが世界を駆け抜けた。航空機に搭乗する際のマスクの着用や検温チェックなど、旅行の際の新しい安全基準が確立されそうだ。渡航禁止解除に向け生まれた新しい言葉「トラベル・バブル」などと共に、アメリカ、オーストラリアを中心とした動きを紹介していく。
エアビー最高経営責任者が、今後の民泊に厳しい見解
民泊仲介プラットフォームのAirbnbは5日、全世界の従業員約7500人の25%に当たる約1900人を削減すること明らかにした。
2008年設立のAirbnbは世界的な旅行ニーズの高まりの中で成長を続け、192カ国で300万件以上のリスティングを抱えるまでになっていたが、新型コロナの影響で民泊利用が激減し、大きな痛手を受けている。4月にはプライベートエクイティ(PE)を通じ10億ドルを調達、手元資金を約40億ドル(約4300億円)に増加させた。
ブライアン・チェスキー最高経営責任者(CEO)は従業員宛てにメッセージを送り、今年の売上高は前年の半分以下になりそうであることや、旅行が再開されるようになっても、旅行者が旅に求めるものが「これまでとは異なるものになるだろう」として民泊の見通しは厳しく、従業員削減を決意するに至った経緯を説明。共に歩んできた従業員を切らねばならぬ無念さも同時に伝えた。
アメリカ:ウイルス検査、マスク着用など、新しい旅の基準
トランプ大統領は4月29日に行われたフロリダ州知事ロン・デサンティス氏との会合で、国際線に乗ってアメリカへ到着する人々を対象に、新型コロナウイルスの検査を義務付けることを検討していると述べた。アメリカ政府は体温チェックと検査の両方を採用する考えだという。
オレゴン州の観光促進委員会であるトラベル・オレゴンは、新型コロナウイルスの影響で急減する収益に対処するため、大幅な予算削減を実施した。同組織の資金は州の宿泊税でまかなわれているが、州全体のホテルの稼働率は前年同期比で63%低下した。また、ホテルの宿泊費は1/3程度に引き下げられているため、部屋ごとの収益は75%減少しているという。そのためトラベル・オレゴンは6月30日までの四半期に、予算が800万ドルから300万ドルとなり、収益の2/3が削減されると予想されている。すでに6月1日からは64人の従業員のうち、17人を一時解雇し、3人を無期限解雇、2人の採用を取りやめると発表した。およそ1/3の人員を削減することになる。
フロリダ州サラソータのDMO「Visit Sarasota County(以下VSC)」の理事長バージニア・ヘイリー氏は、地元紙「The Ledger」の取材に対し、先行き不透明なこの時期に観光の回復戦略を立てるためにはバランスが大切だと答えている。危機への対応として、VSCは即座にコストの削減と人員削減を行なった。また、それだけでなく、将来のプロジェクトに向けた資産の構築、デジタル広告と印刷広告の新たな戦略の確立、ウェブサイトやSNSのコンテンツの監査と編集、数年後の会議やスポーツイベントの確保などに取り組み、消費者の動きに基づいて回復戦略を立てているという。今後は適切なタイミングで適切な観光客を呼び戻すこと、そして量より質を目指すことがこれまで以上に重要であると語っている。
アメリカン航空とユナイテッド航空は、新型コロナウイルスの感染拡大により、合計で約40億ドルを損失したと発表した。アメリカン航空は、2020年第一四半期に22億ドル以上の損失があり、ユナイテッド航空も第一四半期で17億ドルの損失があったという。アメリカでは過去2カ月で航空旅客数が95%減少し、全ての航空会社が打撃を受けている。アメリカの航空会社グループによると国内線の旅客数は1便あたり平均10人、国際線は1便あたり平均25人だという。デルタ航空も第一四半期に5億3400万ドルの損失があった。
ユナイテッド航空は、新型コロナウイルス対策で全ての客室乗務員にマスクの着用を義務付けると発表した。これは、アメリカの主要航空会社の中では初めての試みとなる。同社は全てのスタッフと顧客の安全を守るために積極的な措置を講じたと述べている。一方、アメリカのLCCジェットブルーは5月4日より、顧客にマスクの着用を義務付けるという。同社はすでに客室乗務員のマスク着用を義務付けている。ジェットブルーのジョアンナ・ゲラーティー最高執行責任者(COO)は「マスクの着用は自分だけでなく、周囲の人々を守るために必要であり、今後航空業界の新たなエチケットとなる」と語っている。
オーストラリア:ニュージーランドとの「トラベルバブル」検討開始
オーストラリア商工会議所の観光部門は、新型コロナウイルスによって影響を受けた観光を回復させるため、新たな業界諮問委員会「観光再開タスクフォース(Tourism Restart Taskforce)」を設立した。オーストラリア商工会議所の前会長が議長を務め、政府観光局、観光宿泊施設、フライトセンターなど、主要な業界団体の観光リーダーたちが参加する。
オーストラリア政府観光局は360度カメラで作成した18本の観光映像を作成した。オーストラリアを象徴する美しいスポットを見ることができ、自宅でくつろぎながらヴァーチャル休暇を体験することができる。
オーストラリア政府観光局は、観光の再建を推進する上で、まずは国内旅行から回復させていく意向を示している。これまで政府観光局は、世界に向けてオーストラリアの観光市場をアピールしてきたが、今後はオーストラリア人に向けて自国を見つめ直すことを促す、国内旅行向けのマーケティングキャンペーンを開始するという。オーストラリアのサイモン・バーミンガム貿易・観光・投資大臣は、自国の安全を守るために「海外への渡航制限は、来年以降も続く可能性がある」とし、「まずは国内旅行からスタートさせる」と述べている。
オーストラリアとニュージーランドは、独自の「トラベルバブル」の導入を検討している。「トラベルバブル」とは、新型コロナの感染が収束し安全だと認め合った国同士での渡航制限解除を、他からの空気は入ってこないように安全な空気のバブルをつないだ中でのみ人の行き来を再開させることに例え、表現している。その他に“通り”を意味する「トラベル・コリドウ」も同様の意味で使われている。
オーストラリアとニュージーランドは、現在、レジャーでの両国間の渡航を停止し、必要不可欠な渡航のみに制限している。しかし、オーストラリアのスコット・モリソン首相とニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、両国間のみで渡航を再開するための最初のステップ「トラベルバブル」の検討を開始した。オーストラリアのモリソン首相は、「我々が最初に渡航制限を解除できる国があるとすれば、間違いなくニュージーランドとなる」と述べている。また、ニュージーランドサイドも、両国間の旅行「バブル」がすぐに作られることへの希望を表明している。
ニュージーランド観光局のクリス・ロバーツ氏は、オーストラリアとの渡航規制が解除されるには、12カ月から18カ月掛かる可能性があることを示すとともに、さらに台湾や香港、中国、韓国のような新型コロナウイルスとの戦いで成功を収めている他の地域も「トラベルバブル」を広げていく場所として注目していると述べた。
カナダ:アメリカとの国境を開くことに不安感
オーストラリアとニュージーランドは両国間で旅行ができるようにする「トラベルバブル」を検討しているが、感染症専門家はカナダとアメリカが国境を再び開くことは、まだ難しいと警告している。アメリカは現在、世界で最も新型コロナウイルスが流行する地域のひとつで、アメリカの人口はカナダの約10倍だが、新型コロナウイルスによるアメリカの死亡者数はカナダの22倍となっている。そのため、国境が再び開かれた際のカナダ人の不安は払拭できない。
(やまとごころ編集部 外島美紀子)
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※最新版も更新されました
7/7 更新【新型コロナ:各国入国規制まとめ 】
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