インバウンドコラム
4年に一度欧州を熱狂させる代表チーム同士の戦い、サッカーの欧州選手権(ユーロ2020)は11日(日本時間12日午前4時)にイタリアとイングランドによる決勝戦が行われる。サッカーではワールドカップに次ぐ規模の大会で、本来なら名称どおり、2020年開催予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大で1年延期されていた。また前回大会までは、試合はすべて一国で開催されていたが、今大会はもともと複数の国、地域での分散開催が決まっており、グループリーグの試合は10カ国11都市で実施された。
東京五輪開催を2週間後に控えている日本でも、コロナ感染者数の増加が止まらず、観戦チケットの再抽選が延期となって波紋を広げているが、ユーロ2020は有観客で行われた。ここでは、コロナ禍で行われた今大会の状況を見ながら、日本の五輪開催における課題を考える。
分散開催で各国で異なる収容人数
ユーロ2020で最も大きな問題になったのは各スタジアムの収容人数だった。各国の感染状況が異なり、入国や移動の規制もばらつきがあったため、開幕まで3週間を切ってもスタジアムの収容人数などの詳細が決まらず、チケットを持つファンをやきもきさせた。
直前まで行われていた各国のリーグ戦はほとんどが無観客で行われたのだが、結局ユーロ2020では無観客試合はなく、開催都市のルールに従ってスタジアム収容人数の25%~50%前後を入れて行われた。そのため、購入していたチケットが取り消しになったり、応援したくても国外へ移動できずにキャンセルを余儀なくされたファンも大勢いた。にもかかわらず、スポンサー枠で招待観戦する人たちもいたため、サポーターからは不満の声が上がったという。
スタジアム外での感染者多く
さて、大会は6月11日に開幕したが、観客がまばらなスタジアムもあれば、かなり密状態に見えるスタンドもあった。マスクを着用している人は皆無に近く、感染者が出ても不思議はない光景だったが、果たして16日にロシアのサンクトペテルブルクで行われたロシア戦を応援に行ったフィンランドサポーターのうち300人が、帰国後の新型コロナウイルスの検査で陽性が判明した。
18日にロンドンで行われたイングランド戦にはスコットランドから大勢のサポーターが応援に駆けつけたが、そのうち約1300人に陽性者が出たことがニュースで大きく報じられた。その内訳をみると、400人近くはスタジアムで観戦したが、残りはパブなどスタジアムの外で応援していた人たちだという。
ビッグイベントによる人流の増加が欧州の感染者数増に影響
UEFA(欧州サッカー連盟)は、開催スタジアムでは各都市の「公衆衛生当局が定めた規制に完全に沿って」試合が行われたと説明している。しかし、WHO(国連世界保健機関)によると、6月の最終週には世界の新規感染者が10%増加しており、ユーロ2020開催に伴い、スタジアムやスポーツバーなどで観戦する人たちが増え、人流の多さが感染者数増に影響を与えたとみている。
決勝は7月11日に9万人が収容できるロンドンのウェンブリースタジアムで、6万人を入れて行われる。地元のイングランドが決勝に進む可能性があったことから、グループリーグまでの4.5万人から1.5万人入場者数を増やした政府に対して非難の声も聞こえたが、このまま実施されるようだ。新型コロナウイルス感染症の陰性証明書か2週間前までにワクチン2回接種を終了したことが観客のスタジアム入場の条件となる。
ソーシャルディスタンスとマスク着用で感染リスクを下げられるのか?
イギリスのイングランド地域では6月21日にロックダウンを全面的に解除する予定だったが、新型コロナウイルスのデルタ株の流行で感染が再拡大したため、それが1カ月延期された経緯があり、この状況下での6万人収容という大イベントの開催には懐疑的な声が上がっている。
なお、イギリスのジョンソン首相は7月5日の記者会見で、19日には日常生活に関する制限措置は全面的に緩和されると改めて表明している。
日本では7月6日に、萩生田文部科学大臣が国立競技場での感染リスクについて、スーパーコンピューター富岳による試算結果を公表し、1万人の観客に10人の感染者がいた場合でも、全員がマスクを着用し、観客の間に空席を設けることで、感染リスクを下げられると話したが、スタジアム内はともかく、試合を観戦しようと大勢が外を出歩くことで人流が増えること自体が、感染者増に影響を与えるのではないだろうか。
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