インバウンドコラム

【台湾動向】ウィズコロナ政策進む台湾、日本人気は圧倒的1位。海外旅行への意欲は?

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圧倒的に親日家が多く、コロナ禍前の訪日旅行者数は、中国、韓国に続き第3位を誇っていた台湾。ITの駆使やロックダウンに頼らないコロナ対策で長らく感染拡大を防ぎ、「感染拡大防止の優等生」として世界的に大きく注目されていたが、2022年3月末から市中感染が爆発的に広がり、初めての本格的な感染拡大を目の当たりにすることとなった。

現在は新規感染者数も減少傾向にあり、各種規制も徐々に緩和され、日台間の自由な往来に向けて一歩ずつ着実に前進している。今回のコラムでは、そんなコロナ禍の台湾における旅行市場の現状と、今後の訪日旅行再開に向けた業界の動向について紹介する。


▲台北中心部の街並み(提供:誠亞國際有限公司)

 

2022年以降、一足遅れで感染急拡大した台湾

台湾は2021年の夏以降、2022年3月までの国内感染者はほぼ一桁で推移するなど、ゼロコロナ政策が功を奏していた。しかし、2022年に入ってから労働力確保のために東南アジアからの外国人労働者の受入を再開、入境後の隔離政策はとっていたもののこれが突破口となり、3月末から市中感染が爆発的に広がることとなった。5月27日には1日あたりの新規感染者数がピークの9万4808人を迎えたが、その後は1日3万人台まで下降してきている(7月2日現在)。

このように、世界より一歩遅れてコロナの感染拡大を経験することとなった台湾だが、すでに世界的にウィズコロナへの移行が進んでいたことや、国内におけるワクチンの接種率が増加(3回目接種率約70%)していたこともあり、ウィズコロナ社会への移行は進んでいる。感染拡大期間中であっても台湾政府による各種規制は段階的に緩和を続けており、飲食業など一部業種に若干の影響は出ているものの、市民生活に大きな影響を及ぼすところにまでは至っていないというのが実情だ。

世論調査によると7割以上の人たちが「自分の家族に感染させるのが心配」としつつも、約66%が「ウィズコロナ政策を支持する」としている。

上:自分や家族の感染を心配するか? には、71%が心配と回答
下:ゼロコロナ政策とウィズコロナ政策、どちらの考えに同意するか?には、66%がウィズコロナと回答

 

 

現在も観光目的での往来が難しい台湾の入境規制の現状

現在の台湾の水際対策は、世界的に見ると日本同様厳しい部類となっている。原則外国人の入境は禁止されており、ビジネスや留学など特別なケースの場合に限りビザ取得の上で入境が許されているが、入境者数の上限は1週間で僅か2万5000人となっている。(7月14日から週4万人に増加)

また、入境翌日より3日間の隔離とその後4日間の自主健康管理が義務付けられている。ただ、こと隔離日数については2022年3月上旬まで14日間であった事を考えると、段階的に緩和しているということがお分かりになるだろう。今後はこの隔離政策と入境人数制限がいつ解除されるかが注目されているが、台湾政府は向こう1、2カ月の国内感染状況を見つつ総合的に判断していく、としている。

 

台湾で注目を集める新しい旅行スタイル

このように台湾では海外との往来が困難な状況が続いているが、その一方で、この2年間で新しいスタイルの国内旅行が流行するようになった。台湾鉄路局による新たなクルーズトレインの開発や、国内離島をめぐる大型クルーズ船のツアーなどが注目を集めたほか、キャンプやハイキングといった自然体験に対する需要が増えている。

今後こうしたトレンドは、訪日ツアーにおける新たなニーズの1つになる可能性もある。

ただ、台湾の面積は、日本の九州程度の大きさで、国土がさして広くないことから、もともと海外旅行に対するニーズはとても高かったため、旅行業界全体としてはインバウンド(外国人による台湾旅行)・アウトバウンド(台湾人による海外旅行)に頼っている部分が大きい。そのため、国内旅行需要だけで損失をカバーするのは難しく、一刻も早い往来再開が望まれている。

▲台湾鉄道で人気の豪華列車の旅、クルーズトレイン「鳴日号」(提供:誠亞國際有限公司)

 

海外への団体旅行禁止令が続く台湾、旅行意欲回復には時間がかかる見込み

コロナ前、2019年の延べ出境者数は人口2300万人に対して1710万人にも上っており、台湾人にとって海外旅行は主要レジャーの1つと言えるものだった。

前述の通り、現在台湾から出境する場合、「帰国後隔離3日+自主健康管理4日」が義務付けられる。筆者はもともと「隔離が3日まで短縮されれば、多くの国民が隔離覚悟で海外旅行に向かうのでは」と予想していたが、実際にはビジネス需要の出境が多少増えているだけで、観光目的の出境はほとんど見受けられない。

理由としては、1.台湾政府の「海外団体旅行催行禁止令」が依然として継続されており団体ツアーでの出境が不可能なこと、2.1週間2万5000人の入境規制により航空便数や座席数に大幅な制限があること、そして、3.新型コロナウイルスに対する心理的要因、が挙げられる。

特に3.コロナへの心理的要因に関する世論調査を見ると、「現時点でイン・アウトバウンドの解禁に賛成」と答えた人は約半数だったうえに、「現時点で海外旅行が解禁されたら海外に行きたい」と答えた人は約3割にとどまり、保守的な考えが見受けられた。旅先や帰国後の周囲への感染リスクや経済的理由、ビザや保険などの不確定要素に対する不安が主な理由だと考えられ、以前のように台湾からの海外観光旅行が本格化するまでにはある程度の時間を要することが予想される。

上:海外旅行の解禁に賛成するかどうか? 約50%が賛成、42% が反対
下:海外旅行解禁後に海外に行く意欲があるか?約30%が意欲あり、68% が意欲なし

 

旅行先としての日本人気、衰え知らず

アフターコロナ初期についてはビジネス需要から渡航が再開し、観光については「台北圏在住」「若年層」「ヘビーリピーター」「時間的・経済的余裕あり」「同居家族なし」などの条件を持つ層がターゲットになると考えられる。

なお、旅行先としての日本の人気は全く衰えておらず、今後の希望海外旅行先に関する調査では、いずれも日本が圧倒的に一位となっているので、この点については心配無用と言えよう。

海外旅行解禁後、もし海外旅行の機会があったらどの国に行きたいか?60%が日本と回答

 

国境開放に向け着々と準備を進める台湾の航空会社

台湾資本の航空会社各社については、日台路線の今後の計画について主に2つの取り組みを行っている。

1)主要路線の定期便再開および増便(第一優先:東京・大阪・名古屋・福岡 第二優先:札幌・沖縄)
2)地方路線のチャーター便(旅行会社買取)運航計画

特に1)定期便再開・増便についてはチャイナエアライン、エバー航空が積極的で、これは旅客のみならず貨物需要も見込める事や、日本の空港側の受入体制が他空港より整っていることが主要因。また、2)地方路線のチャーター便については、LCCのタイガーエア台湾が特に積極的で、余剰機材を活用し旅行会社のニーズに応えると同時に収入を最大限に確保すべく動いている。ただ2)の実現については、日本政府による地方空港に対する政策や、地上勤務要員の確保が非常に重要な要素となってくる。

 

訪日ツアー小規模化進むも、ニーズに大きな変化なしとの見立て

一方、旅行会社については、この2年間で多くの会社で無給休暇やリストラ、配置転換、営業休止などを余儀なくされた。ただ、今後の台湾政府による海外団体旅行禁止令解禁に備え、日本路線担当者が上記定期便やチャーター便を利用した訪日団体ツアーの商品造成に向けて動き始めている。

旅行会社担当者によると、アフターコロナ初期についてはいわゆるコロナ禍前の定番コースの商品を優先して販売していくが、団体人数は若干サイズダウンし25名程度になる模様。また、密を避けたい顧客によるオーダーメイド型の少人数ツアーも需要が増えるのでは、と見ている。いずれにせよアフターコロナにおいても継続して訪日ツアー商品を売る意欲は非常に高く、ニーズに関しても大きく変わる様子は見られないので、その点については安心要素と言える。

ただし、現時点での旅行会社が抱える悩みの1つに、日本のどの施設が外国人を受け入れているのかが把握できないことや、ツアー中にコロナ感染者が発生した場合の取り扱い、ビザ手続や保険の条件などの情報が安定しない事を挙げる担当者が多く見受けられる。

 

旅行再開に向け、訪日受け入れに積極的な施設情報の開示が必須 

団体市場については、旅行会社の商品造成ラッシュの波に乗れるよう、インバウンド団体受入を行う予定のある施設や観光事業者の情報を積極的に提供していくことが肝要である。もちろん、インバウンド特別料金や特典など旅行会社にとってプラスになる要素があれば更に望ましい。

また、FIT市場については、今後台湾人の旅行に対するデジタルの活用がさらに加速していくことが予想されていることから、OTA(Online Travel Agent)での商品販売展開や、インターネット・SNSを活用した情報発信を充実させることが肝要である。

台湾の人たちは訪日旅行を楽しめる日を心から待っており、引き続き、台湾からのインバウンド市場は、最重要市場の1つとなることは確実だ。今後も旅行を通じた日台交流が安定して継続し、良好な関係が維持されていくことを願ってやまない。

 

誠亞國際有限公司  代表 矢崎 誠

2004年に前職のJR北海道にて初代インバウンド営業担当として任命され、以来18年間訪日旅行プロモーション業務に従事。2014年に「誠亜国際有限公司」を創業し独立。香川県観光協会、高知県観光コンベンション協会、三重県観光局、神戸観光局の現地レップなど、主に自治体関連のインバウンドプロモーション事業サポートを中心とした事業を展開する。台湾在住歴14年。著書に『はじめての台湾マーケティング』(Kindle版)。

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