インバウンドコラム

【タイ人の本音】日本好きのタイ人は、制限下での訪日団体旅行に参加するのか?

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6月10日より始まった制限つきの訪日旅行再開からもうすぐ2カ月となる。JNTOによると、6月のタイから日本への入国者数はわずか2500人にとどまった。観光ビザの取得、ガイドの同行による団体ツアーなどといった厳しい制限が大きく影響している。タイから日本への送客が本格的に始まるのは7月以降とみられるが、多くの日本好きのタイ人にとっての「待ちに待った日本旅行」は近づいているのか、タイ人の本音にも迫った。

 

タイ旅行者の本音、自由に移動できるヨーロッパへ行先を変更

バンコク市内で日系の理容室を営むノンさん(40代)は、毎年の日本旅行を楽しみにしていたが、今の日本の観光規制など「自由な観光」が楽しめないという理由から、今年8月の海外旅行は友人のいるヨーロッパに変更したという。「日本は大好きで毎年行っていましたが、今の日本の観光旅行は自由がありません。今年に限っては、未体験のヨーロッパへの旅行に行きます」ヨーロッパもビザ申請が必要なのは同じだが、行動制限がなく自由な旅行を楽しめそうだという。もし、日本への観光入国の規制がなくなったら「和歌山高野山の宿坊に泊まりに行きたい」と日本旅行をあきらめた訳ではない。


▲入国規制の解除後の訪日に期待を膨らませるノンさん(提供:バンコクポルタ)

 

タイ旅行会社の期待、日本の更なる規制緩和。訪日回復は秋との見立て

タイ現地での訪日インバウンドPRを手掛けるバンコクポルタは、6月にタイで訪日を取り扱う旅行会社に対して以下の3種類の調査を行った。

「訪日旅行アンケート」(アンケート調査、6月1日~15日実施)
10問程度の選択式アンケートで、訪日旅行社200社に対して行い、回答社は、40社(トップエージェント29社含む)。訪日旅行の販売時期・回復時期・期待すること、今後のアクティビティなどのアンケート。

「7月以降一般向け商品販売状況」(デスクトップサーベイ、7月初旬実施)
75社のトップエージェントに対して、一般顧客に販売している商品を抽出。商品の属性などを調査。

「7月以降送客実績・予定」(サンプリングヒアリング、7月中旬実施)
代表的な訪日旅行社20社に対して、7月以降の実施・予定されている訪日観光ツアーについてのヒアリング調査を行い、時期・行先・人数などを聞いた。

この結果、タイ訪日旅行会社の多くは、「今回の観光再開を前向きに受入れながらも、今後更なる規制緩和を期待している」という意見が多く見られた。また、下の図にあるように、日本側に期待する協力支援として「観光地へのインスペクション(視察)」を希望するという意見が最も多かった。2年半近く日本の視察ができていない旅行会社が多いので、現地確認を経ての商品造成を考えていることが分かる。

タイ旅行社の訪日観光の販売再開時期については、2022年内とする旅行社が97%とほとんどだった。タイ旅行社の中には、規制緩和による観光再開とほぼ同時に、販売を可能としたいという気持ちの高さがうかがえる。

訪日造成を予定しているエリアについては、全社が北海道の造成を予定していると回答。人気の旅行先となった。つづい て、東名阪のエリアが同程度の数字であった。 エリア中位に、九州と東北がきており、四国の造成予定は50%程度だった。

販売を予定している造成商品の種別についての質問は、インセンティブ(法人旅行)が最も多く 83%の旅行会社が予定している。つづいて、家族向け・スモールプライベート約80%。VIP が73%と続 く。企画募集型旅行は53%程度だった。 医療・スポーツツーリズムも少ない数字ではあるが予定されているようだ。

また、販売状況と送客予定状況については、7月以降19社(75社中)が団体旅行の送客実施・予定であるとし、募集型団体旅行では、17社が累計249商品の販売を行っている。これらの送客の数字は、7月以降の結果発表を待つ必要があるが、秋口以降に訪日旅行が回復するという旅行業界の意見もある。7月22日にJNTOが発表した数字によると、7月~9月の3カ月の入国希望者数(7月21日時点)は、タイ国で1344人とあるが数字は少ない。2019年のタイからの訪日旅行者数139万人と比較すると現在は再開後の初期段階にある。

タイ旅行会社の友人の話を聞くと「ビザ取得や入国アプリmysosの事前登録などの間接業務に2週間以上時間をとられる」ことや、「制限された旅行に対して一般顧客が、時期を敬遠している傾向がある」としている。今後の個人旅行の入国規制緩和のタイミングで大きく観光入国者の数字が増加することが予測できる。

 

観光客受け入れ積極的なタイ、2023年はコロナ前比75%の3000万人目指す

2021年11月から本格的に海外客の受入れを再開したタイ国政府は、2022年初頭のオミクロン株の流行時でも、リスクは低いとして、外国人受け入れに関する今後の方針(段階的緩和のスケジュールなど)を変更しなかった。7月には段階的に進めていた緩和フェーズで、「タイランドパス」を廃止した。現在、ワクチン接種証明書または、72時間内の陰性証明書があれば飛行機に搭乗することが出来る。空港入国時の証明書の提示は、基本的に行われていない。

タイ観光・スポーツ省(Ministry of Tourism and Sports: MOTS)の発表によると、6月にタイへ入国した旅行者は、76.7万人。前月比50%増と好調に推移している。7月単月の推計値は、100万人を越えると予想されている。発表によると来年は海外からの入国者3000万人を目指すとしており、それが実現すると2019年の入国者3980万人の75%程度の回復率となる。

 

慎重さを貫く日本と気にしないタイ、観光回復のスピードの差はいかに?

日本は現状の入国規制により訪日観光が先に進まない状況であることは筆者も理解しているが、現状の感染規制と感染者数の増加に対する世間の不安との間で、次の意思決定のタイミングを見ていると推測する。日本的な意思決定のプロセスではあるが、もうすぐ動きがでると思いたい。

タイでの「マイペンライ(気にしない)」政策は、フィレキシビリティを生む。日本の「石橋をたたく」政策が世界的なスピードに出遅れないことを思うのである。


▲バンコク市中心部にある大型デパート。タイ人に混ざって観光客の姿も見え始めた(提供:バンコクポルタ)

 

BANGKOK PORTA CO.,LTD. 代表取締役
井芹 二郎

熊本県生れ。2008年タイ・バンコクにPR/企画会社バンコクポルタ設立。タイ訪日旅行会社200社以上・メディア・インフルエンサー500社以上を活用して日本インバウンドPRをする。インバウンドトラベルサポート、生活商材マーケティング、業務視察・サーベイ、イベント支援。地方自治体、観光協会などの業務実績多数。バンコク日本博 トラベルインバウンド専門員。食のコラムニストなど。
問合せ・調査依頼などは bangkokjiro@gmail.com

 

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