インバウンドコラム

【香港最新動向】帰境後の隔離規制も海外旅行ニーズ旺盛、訪日旅行の爆発的回復はいつ?

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コロナ前、2019年の訪日旅行者数は年間229万人を越えていた香港。1年に何度も繰り返し日本旅行を楽しむ人がいた香港市場では、半年先の家族旅行を検討する人もいれば、次の週末に日本で食事を楽しみたいと直前に航空券を検索する人までいたほど。日本を旅行することが当たり前になり、週に数回和食を食べる人も多く存在し、日々の生活に「日本」が根付いている。今回のコラムでは、日本の入国規制緩和を受けた香港市場の現状と、訪日旅行本格再開に向けた今後の動きを考察する。


▲香港の街並み(提供:コンパスコミュニケーションズ)

 

中国と足並み揃えゼロコロナ政策踏襲も、規制緩和を進める香港

香港は2022年初頭以降、オミクロン株で第5波が猛威を振るい、郵便局や銀行も部分的に閉まるなど、一時都市機能の半分程度が麻痺(まひ)するまでとなった。香港政府は、経済的に結びつきの強い中国との往来を重視し、中国政府のゼロコロナ政策「動態清零(Dynamic Zero Infection)」を踏襲し、事実上のゼロコロナ政策を採用してきた。

香港は、デルタ株までは世界と比べて新型コロナウイルスの感染拡大を抑えていたが、感染力の高いオミクロン株の感染拡大を許してしまい、ゼロコロナ政策は破綻。しかし、この感染拡大がワクチンを前提としながらも措置緩和の方向に舵をとるきっかけになったともいえる。8月8日現在、再び感染拡大期にはあるものの、7月20日から開催された旅行なども扱う香港の大型展示会「ブックフェア」には85万人を越えるほどの多くの人が集まり、ジャパンパビリオンにも多くの人が訪れ、待ちに待った訪日旅行への期待が高まっている。


▲香港ブックフェア/ジャパンパビリオンの様子(提供:コンパスコミュニケーションズ)

 

入店はワクチン接種が前提、徹底した管理体制を継続

香港政府は2月21日、ワクチン接種を基本とした新型コロナウイルス対策「疫苗通行證(Vaccine pass)/ワクチンパス」についての詳細を発表し、時期を3段階に分けての実施がスタートした。未接種者は多くの施設で入場が禁止されるなど、事実上、ワクチン接種が前提の社会になっている。

公共施設の多くでは、新型コロナウイルスの感染者と接触した可能性を通知するスマートフォン向けのアプリ「安心出行(LeaveHomeSafe)」を起動し、入り口にあるQRコードをスキャンしなければならない。アプリはワクチン接種記録と連動しており、QRコードスキャン後はスマホの画面にワクチン接種記録についての別のQRコードが表示される。レストランなどでは、このコードを店先のITデバイスで読み取り初めて入店が許可されるなど、徹底した管理でウィルスを初期段階で封じ込めようとしている。


▲レストランに入るにもワクチン接種が前提に(提供:コンパスコミュニケーションズ)

 

帰境後は隔離があるものの、着々と訪日ツアーが再開

6月に日本が外国人観光客の入国を再開させたことにより、香港の旅行会社も2年半ぶりに、訪日旅行を再開させた。6月22日に訪日大手の東瀛遊(EGL)、24日に縱橫遊(WWWPKG)のツアーが再開、その後、永安旅遊(Wing On Travel)も日本へのツアーを再開させるなど、まだ10人規模の小さな集団に限られているものの、隔離措置がありながらもいち早く動きだしている市場のひとつとなっているだろう。

一方で、海外から香港に到着した際の隔離措置は続いている。7月24日現時点では、過去14日間に中国本土、マカオ、台湾を除く全ての国地域(日本を含む)に滞在歴がある方が香港へ渡航する場合、ワクチンを完全接種(ワクチンの種類により異なるが現在のところ2回以上)した人のみ入境が認められる。加えて、出発48時間前以内に指定場所でPCR検査を受け、搭乗の際に陰性証明書を提示しなければならない。

短くなったとはいえ、香港到着後の最低7日間は、ホテルでの強制隔離が強いられてきた。しかし8月8日、いよいよ3日のホテル強制隔離と4日の健康観察期間に変更されることが発表され、8月12日から運用となる。隔離期間中は毎日自分で検査を行う必要があり、また、指定日にPCR検査を受ける必要があるものの、後半の4日についてはワクチン証明が必要なレストランやバーなどへの入店を除き、ショッピングモールやスーパーなどにも出入りができ、公共交通機関を利用することも可能だ。


▲香港到着時、空港での入国手続き時にPCR検査を待つ人々の様子(提供:コンパスコミュニケーションズ)

7月以降、感染が再び増加傾向にあるが、感染者数が増えたといっても、以前のようにすぐにレストラン規制を厳罰化するなどの措置が講じられていないこともあり、全体としては確実に緩和の方向に動いている。

まとめると、現時点で訪日旅行をする際は、航空券、香港に戻る際の隔離ホテルの予約および、日本国内の旅行手配の3要素がすべてそろわないと行けないという条件がついてまわる。

現在は廃止になったものの、香港到着時に行われるPCR検査で同じフライトから5人以上の陽性者が出たり、全乗客の5%が陽性であると判明すると、特定の国や地域からのフライトを禁止する「熔断機制」など、これまではさまざまな外的要因による負荷がかかることも多かった。

 

訪日需要を作り出すべく、競合の旅行会社が協力する動きも

また、価格面でも日本行きは他国と比べて高額に設定されている。コロナ前と比較すると2倍近い感覚があり、以前は6泊7日で、1万2000香港ドル程度で日本へのツアーに参加できたが、現在だと2万香港ドル以上になってしまう商品も多い。理由としては、日本と香港両政府で定められた水際対策に対応しようとすると、各種費用が増えるからだ。例えば、48時間以内のPCR検査費用、海外旅行保険、香港に戻る際の隔離指定ホテルの予約なども負担となる。そのため、多くのツアーが10人前後という結果になっている。

実際、旅行会社間での料金競争なども起きているが、まずは各社が送客人数を増やし、もともと就航していたエリアに定期便を戻すことが大事だ。8月4日出発の香港エクスプレスによる福岡便にはWWWPKGがツアーを催行し、EGLやWing On Travelもそれに続き九州のそれぞれツアーを複数展開する予定だ。各社実績を積みながら、少しでもツアーに参加しやすい料金にしていくことも求められる。

 

厳しい規制下のいま、日本のライバルは個人旅行が自由にできる欧米豪諸国

中国本土と比較すればまだ穏やかであるものの、厳しい措置が続く香港では、旅行した先では自由に動きたいという思いがある。もともと香港人は日本のみならず、海外旅行をすることが当たり前になっていた人も多い。

香港人マーケットを考える際、もちろん「日本への気持ちは特別だ」という人も多いが、競争相手は欧米豪など各国であり、他のアジア都市であるということを忘れてはならない。香港に久々誕生した大湾区航空は、その初便を7月23日にタイへと就航させた。タイへの航空券はLCCであれば97香港ドル~で販売するものもある。また、ツアーでも8〜9泊で7000~9000香港ドル程度の商品から1万5000~2万香港ドル台までが並ぶような形で、コロナ前と同じ水準にまで戻ってきている(この金額に隔離ホテル代は含まれない)。

ヨーロッパへの渡航には香港での3週間隔離があった頃からすでに、戻り日を決めずに旅立つ人もいたほどで、2021年6月頃には個人旅行の渡航が再開していた。もちろんどの国からであっても香港入境後の隔離は必要だが、相手国に渡航した場合に、個人旅行ができるという自由さは何よりもアドバンテージになっているだろう。

現在の商品価格はヨーロッパと日本がほぼ同程度となっており、それが日本が負ける理由にはならないものの、ビザが必要であること、個人旅行ができないという点では大きく後れを取ることになっているのかもしれない。

 

国際イベントが開催される11月には、香港でも入境規制緩和か?

香港政府による水際対策の緩和の流れを受けて、11月4日~6日に行われるラグビーイベント「香港セブンズ」も開催される予定だ。これと時期を合わせて開催される金融の投資サミット「国際投資峰会」では、海外から100~200人の金融関係者を招く予定で、これに合わせて政府指定ホテルでの強制隔離を廃止したい考えを示している。

隔離期間が3日となった場合、通常勤務の一般的な会社員でも休みを取りやすく、「訪日旅行への背中を押す要因になる」と話す人も多い。しかしそれ以上のハードルが「ツアーしか選べない」という点にあるという見方もある。コロナ前は9割以上がFIT市場であった香港では、香港人の性格もあいまって、特に交通の便が良いエリアでは個人で動きたいというのが本音だ。

そこで出てきた動きとして、一部の香港人たちが、家族、親戚、友達単位で旅行会社にテーラーメードのツアー造成を求めてくるケースがあると聞く。29泊30日、半分を東京、半分を大阪という希望や、10泊を東京のみでというオーダーなど、現在の日本での受け入れ条件に合うような形のツアーを造成してもらい、旅行に出かけ始めているようだ。

 

旅のニーズ、圧倒的人気のショッピングか、コロナ禍で流行のアウトドアか?

香港の面積は東京都の約半分、日本で一番小さい都道府県の香川県よりも小さく、札幌市とほぼ同じ大きさといえる。香港といえば、空まで突き刺すビル群を想像する人も多いだろうが、7割が緑に覆われており、残りの3割の住宅地に、人口700万人以上の人たちが密集して住んでいる。限られた土地の中で、遊びの選択も少ない中で我慢をして生きていると言っても過言ではない。

国内旅行の概念がない香港でも、この2年でキャンプや登山、ハイキングなどなんとか工夫をしながら自然の中で楽しむアクティビティが流行ったが、それでもまだ香港人の心の底にはショッピングやレストラン消費などの欲は強く、香港の中でもおまかせ寿司店が増えたり、日本をテーマにしたイベントをすれば多くの人が集まる。

訪日再開タイミングでの航空路線は主に成田着のものが並び、そこから北海道や昇竜道などの中部エリアなど、10年前から人気があったオーソドックスな観光地を改めてまわるツアーが並んだ。この夏には青森のねぶた祭をはじめとした東北の祭を体験するツアーも予定されている。

円安も背景に、安価に楽しむことができる「食」ももちろんひとつの魅力であるが、あらゆる日本食材が輸入されている香港では、お金を出せば本格的な日本を楽しむことはできるようになった。それ以上に日本でしか体験できないことを求める傾向があると思われる。

日本の国内事業社、自治体が今できること、それはコロナ前と変わらぬ直接的な情報発信だ。また香港の業界の構造が変わり、訪日で活躍していなかった小規模な旅行会社などが台頭してくる可能性も十分にあり、常に香港現地の様子を把握しておくことも役立つ。隔離があることにより香港市場の回復に時間がかかる見方をする人もいるようだが、香港市場はすでに動きだしている。今回の訪日再開でも各県で一番乗りを果たしているツアーも多いことからも、まだまだ魅力ある市場として検討する価値があるのではないだろうか。また従来のような自由に往来できる日が1日でも早く来ることを願う。

 

Compass Communications Managing Director
木邨 千鶴

東京都出身。広告代理店「クオラス」入社。2007年より香港に移り住み、香港フリー雑誌勤務を経て独立。コンパスコミュニケーションズインターナショナルを設立し、自治体や企業のレップ、また現地日系企業などの広告・広報業務に従事。自社メディア「香港経済新聞」を運営し日々街の変化を捉えながら、香港のメディアリレーションを軸に、幅広いマーケティング支援を行う。

 

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