インバウンドコラム
日本政府観光局が発表した7月の訪日外国人数は14万4500人で、4カ月連続で10万人を上回ったものの、コロナ禍前の2019年同月のわずか4.8%に留まっている。このうち、英国からの訪日客数は2900人で、コロナ禍前の2019年同月の約10%程度だ。英国では旅行需要が急速に回復し、英国のアウトバウンド旅行は2024年までにコロナ禍前の水準を超えると言われている。今回は、旅行需要のリバウンドが引き起こした英国国内の混乱や、英国発の訪日旅行の現状などについて紹介する。
ブリティッシュ・エアウェイズ、バンクホリデー期間に約900便キャンセル
英国では、旅行需要の高まりと航空業界全体の慢性的な人手不足により、航空便に影響が及んでいる。航空データ会社のCirium(シリウム)によると、英航空大手のブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は、バンクホリデーを含む8月26日(金)〜30日(火)までの5日の間に英国を出発する予定だった約900便のフライトをキャンセルした。単純計算すると、1日180便が欠航となったことになる。これにより、夏の書き入れ時であるバンクホリデー期間中のアウトバウンドの便数は2019年の水準を21%下回ったという。BAを含む英国着のインバウンド便全体も約900便キャンセルされたため、何百万人もの旅行者の計画に影響が出た。
同期間中、英地域航空会社フライビーは、スケジュールから130以上のアウトバウンド便を、LCCのイージージェットは約90便をそれぞれ削減したという。英国の一部空港では出発数に上限を課し続けているために混乱が生じ、航空運賃は急騰している。
ロンドンのヒースロー空港、出発旅客数の制限を延長
ロンドンのヒースロー空港は8月15日、空港での混乱を避けるために実施している出発旅客数の制限措置を10月29日まで延長すると発表した。当初は9月10日までの予定だった。
ブリティッシュ・エアウェイズは8月22日、ヒースロー空港発着の10月末までの運航本数を一段と削減し、冬季運航スケジュールも調整すると発表した。10月末から来年3月までの運航本数も8%減少させ、ヒースロー空港発着の短距離便を約1万便削減するという。同社は10月末までの欠航便について、多くが同じ行き先の便が毎日就航されている路線であるため、予約客に大きな影響は出ないと説明している。
英国全土でストライキが多発。鉄道やバスの移動で混乱
英国ではここ数カ月で、鉄道、バスなどの業界で従業員のストライキが発生し、全土で広範囲にわたる移動の混乱が生じている。
英国の鉄道運行各社の職員は8月18日〜20日に、大規模なストライキを実施した。これに伴い、運行本数は通常の約20%程度に削減され、半数以上の路線が運休になった。4万5000人以上の鉄道職員が、賃上げや雇用の保護、年金と労働条件の改善などを求めてストライキに参加した。
8月28日、29日には、バス会社ロンドン・ユナイテッドに所属する約1600人のバス運転手が、賃上げ率がインフレ率の加速に伴っていないことを理由にストライキを実施。これにより、8月28日と29日に西ロンドンで開催された大規模なストリート・フェスティバル、ノッティング・ヒル・カーニバルにも影響が出た。
訪日ツアーの需要、回復の一方で「添乗員付き団体ツアー」「マスク着用」がネックに
旅行業界の情報を発信する「Travel Weekly」によると、英国の旅行会社インサイドジャパンツアーズは、6月に再開された小グループの訪日ツアーに対する需要が回復していると報告した。同社は、日本が6月に国境を再開して以来、6月と8月にはコロナ禍前の2019年同月を上回る売上を記録し、7月の予約はコロナ禍前の水準に近い売上だったと発表している。これまでに50人以上の訪日を手配した同社の共同創設者サイモン・キング氏は、訪日ツアーに参加した顧客から「非常にポジティブなフィードバックがあった」「旅館やレストランのオーナーの歓迎ぶりに誰もが感動していた」と語り、日本のさらなる水際対策の緩和に期待を寄せているという。
ただし、日本政府は今年6月より外国人観光客の受け入れを解禁したものの、観光ビザの取得や、陰性証明書やワクチン接種証明の提示を義務付けるなど、現在も厳しい水際対策を続けている。添乗員付き団体ツアーに限定し、屋内でのマスク着用を義務付けている日本旅行は、早い段階でマスク着用義務を撤廃し、個人旅行を好む英国人にとって未だハードルが高いのも事実だ。
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