インバウンドコラム

【DMO研究】コロナ禍における大阪観光局の戦略 ~大阪を拠点に訪日客を日本全国へ送り出す、DMP構築やマイクロツーリズム推進~

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コロナ禍で、観光地経営の事業環境は大きく変化しています。その中核を担うDMO(観光地域づくり法人)も、本来の目的である受け入れ推進はもとより、財源や人材不足といった課題が深刻化しているところが少なくありません。

東京オリンピック・パラリンピック2020での海外観客受け入れが不可能となったいま、特に注視されるのが巨大マーケット・大阪を背負い、2025年の大阪・関西万博を控える「大阪観光局」のインバウンド戦略です。

そこで、地域連携DMOの一般社団法人秋田犬ツーリズムで事務局長を務める大須賀信氏が、DMOならではの視点で、地域連携DMOの公益財団法人大阪観光局デジタルマーケティング室室長の牧田拡樹氏にインタビュー。今後、不可欠となるデジタルマーケティングを含め、大阪の現状、課題、アフターコロナに向けた取り組みを浮き彫りにしました。

 

新型コロナウイルスによる財源への影響

自主財源の柱だった「大阪周遊パス」の販売が大幅減少に

—コロナショックが続くなか、日本を代表する観光地である大阪の現状はいかがですか? 同じくDMOに携わるひとりとして、組織を動かしていく基盤となる財源確保への影響が、非常に気になります。

残念ながら、道頓堀をはじめ、東アジアからの観光客であふれかえっていた観光スポットは閑散としています。大阪観光局における財源は、大阪府、大阪市からの分担金、賛助会員から会費以外に、自主財源として「大阪周遊パス」の収益があります。ただ、コロナ前には年間100万枚以上あった販売の大半が外国人観光客による利用でした。つまり、新型コロナウイルスによってインバウンドが絶たれたことで、億単位の財源が見込めなくなったということ。リストラをはじめ、組織運営に影響が出るほど枯渇しているわけではありませんが、DMOとして自主財源の柱を複数持つべきだったと反省しています。

—私も同意見です。大阪のような大都市とは違い、私が携わる秋田県北部は地域の急激な高齢化・人口減少も止められない状況です。ネットショップも含めた物産事業の収入など、さまざまな事業展開が不可欠だと痛感しています。

▲大阪周遊パスは、1枚で電車・バスに乗り放題のうえ、観光スポット40カ所以上が無料で外国人観光客に人気(提供:(公財)大阪観光局)

 

アフターコロナに向けた取り組み

マイクロツーリズム推進でインバウンドを見すえる

—コロナ禍で外国人観光客が見込めないなかでも、DMOの打ち手は決して少なくないと感じています。大阪観光局はどのように取り組んでいますか。

これまでの大阪は地の利だけでも、大阪市を中心に数多くの外国人観光客が来訪していましたが、コロナ禍で、インバウンドだけでなく、国内マーケットと真摯に向き合うことを学びました。流行りの言葉ではありますが、マイクロツーリズムに目を向けて推進しています。そのために、大阪府に点在する43市町村それぞれの魅力を改めて発掘し、磨く作業を地道に続けています。現時点では国内客に向けた取り組みですが、ゆくゆくインバウンドでも大化けする可能性を感じています。
また、府民向けの宿泊キャンペーンで気づきを得たのですが、大阪南部は温泉や観光地も多くポテンシャルが高い。周辺自治体はこれまで、関空から大阪中心部へと向かっていく外国人観光客の爆発的なパワーも間近に見ていますから、観光誘致にも積極的です。


(提供:(公財)大阪観光局)

 

データに基づく観光マーケティング戦略

DMP構築で43市町村のポテンシャル、課題を浮き彫りに

—大阪観光局はデータマーケティングにも注力していると聞いています。

おっしゃるとおり、大阪観光局では、観光施策のためにマクロとミクロでデータを整理しており、「大阪観光局DMP(データマネジメントプラットフォーム)」の構築を進めています。大阪観光局が持つ各観光施策データに台湾・香港・中国などのアジア6000万人の海外旅行者データ、さらにサードパーティデータを統合してデータベース化。大阪府域43市町村のインバウンド潜在マップ、観光施策の立案から各コンテンツ造成までのPDCAを回し、KPIごとにビジュアライズ化して現状を可視化する取り組みです。どの国・地域が43市町村に対し興味関心を持っているか。43市町村は、Who、What、How、すなわち誰に何をどう訴求すればいいかをあぶり出し、観光施策を展開しようとしています。観光誘致には受け入れ側の意識が不可欠。積極的な地域を応援するためにも、デジタルを通じた効果測定が重要だと考えています。

—大阪観光局が各市町村に対し、シンクタンクのような役割を果たしているわけですね。広域DMOにそう動いてもらうと、私たちのような地域DMO、地域連携DMOは大変助かります。

ただ、データをいくら構築しても、観光客を大阪への誘致につなげる施策を講じるコンテンツ、クリエイティブ、プロモーションが三位一体で動かないと、PDCAサイクルを回すことができません。データと聞くと専門性だとか難しく考えがちですが、組織の縦割りではなくいかに三位一体の横ぐし連携が出来るかが、DMP浸透の最大の鍵となります。実はアナログの要素もかなり踏まえていて誤解を受ける一つです。この三位一体を浸透させるためには、まず手本としてコンテンツ、クリエイティブ、プロモーションの3つをマーケティング戦略室が全部やって効果検証を見せていくことからスタートしましたので最初はパワーがいりました。

─組織の体制を変えるために、自らが横ぐしとなって刺さったわけですね。

もう一つデジタルマーケティングの成功事例はまだ数多くありませんが、絶対やめてほしいのは、データを集めてから読むのではなく、大切なのは何をしたいのかを考えてからデータを集めること。もちろん、見極めるのは大変な行為だと思います。しなしながら、単に集めることから始めてはその作業が無駄になってしまうことが多いし、組織としてもお金が持たないのではないでしょうか。

 

西の玄関口として、他地域との連携をどう考えるか

大阪・関西万博をショーケースに、全国各地の魅力を発信したい

—大阪観光局は昨年、高知県、高知県観光コンベンション協会と包括連携協定を結びました。国内自治体と協定を結ぶのは3件目だそうですが、広域連携については、どのように考えていますか。

大阪は2025年に万博を控えています。万博に向けて私たちが目指しているのは、日本のショーケースであること。万博に訪れるみなさんに日本の魅力あるスポットを紹介したり、体験プログラムを提案したりすることで、送客につなげることができたらと考えています。声をかけていただければ、大阪という場を通じてどんどん情報発信させていただきます。

また、コロナ禍であるからこそ、新しい観光の創出にも力を入れていきます。たとえば、2020年1月には「日本みどりのプロジェクト」が設立されました。日本の自然(みどり)を核に、都市と地方が連携し、国内外への発信を行うことで国民的活動とするものです。2025年大阪・関西万博で世界へのアピールを図るとともに、プロジェクトを通じて、旅行、スポーツ・アクティビティ、ワーケーションなど観光振興につながる持続可能なプラットフォーム構築を目指しています。大阪観光局は裏方という形で動いています。

▲大阪城北公園 緑化が進められている大阪。大きな池と菖蒲園のある大阪城北公園も人気のスポットだ(提供:(公財)大阪観光局)

—ほかの地域への送客も含めて考える発想は素晴らしいですね。

官僚出身で観光庁長官を務めながら民間での経歴を持つ大阪観光局理事長である溝畑宏の意向も強いですね。「大阪だけでなく、広い視野でやらないと世界に勝てない」「大阪の懐の深さが都市の魅力に変わる」というのが口癖です。

—ご存じのとおり、私が携わっているDMO「秋田犬ツーリズム」は世界的知名度のある「秋田犬」をフックに、交流人口増加、地域の価値向上により観光の産業化に取り組んでいます。幅広い連携という意味で、「土佐犬」をはじめ犬つながりでお互いに送客し合っても面白いかもしれません(笑)。

外国人にはそのようなアプローチが効果的かもしれませんね。

 

アフターコロナに向けたシナリオ、回復をどうみているか

2022年春節をキックオフに、足元を固めていく

—最後に、コロナの収束、アフターコロナにおけるインバウンドの変化について、どうみていますか。メッセージもお願いします。

変異株の流行など予断は許しませんが、期待値を込めて考えると、大阪は中国人観光客が多いこともあって、2022年2月の春節が変わり目になるのではと思っております。それまでを準備期間として、先ほども申し上げましたが、国内客向けのマイクロツーリズムで通用するコンテンツ開発を、インバウンドもみすえて進めていくとともに、コロナ禍で市場が急拡大するワーケーションについても、大阪を起点とした中国人研修旅行に応用できるとみています。
特別なことを考えているのではありません。43市町村の分析も進めながら足元を固めていきます。ただ、収束しても、元通りの姿に戻ることはないと痛感しています。大阪市内への一極集中を分散する必要があります。また、これまでのようなLCCで来る人も減るでしょうし、旅行形態が変わるのは間違いありません。いずれにせよ、量から質への転換を図っていきたいと思っています。

—やはり、前線で実務をされている方のお話は説得力があり、大変興味深いものです。ありがとうございました。

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