インバウンドコラム
観光庁が発表する2017年宿泊統計の確定値において、大分県に宿泊した外国人は延べ138万人泊。前年比+67.7%で、全国1位の伸び率となっている。なぜそこまで伸びたのか、大分県が実施する取り組みや要因について考察する。今回のコラムでは、11月25日まで開催されていた「おおいた大茶会」をテーマに掘り下げてみよう。
伝統文化と現代アート 誰もが楽しめるお祭り
おおいた大茶会の正式名称は「第33回国民文化祭・おおいた2018 第18回全国障害者芸術・文化祭おおいた大会」。国民文化祭は、国民の文化活動への参加機運を高め、新しい芸術文化を創造することを目的として、1986年より毎年開催されている国内最大の文化の祭典。開催地は、各都道府県の持ち回りになっていて、今年は大分県で10月6日〜11月25日の期間に実施された。大分県での開催は20年ぶり2回目で、期間中は、県内全域で160以上のイベントが実施された。
今年のテーマは「おおいた大茶会」。今回のイベントのために作成されたロゴは、野点傘の下に、人々や文化が集まり、新しい出会いと発見を通じて人と文化が成長することを表現していて、老若男女、障害のある人もない人も、海外の方も含めて誰もが楽しめる芸術文化の祭典を目指している。
大分県内の街角には、のぼりやポスター、フラッグが見受けられ、各地域の実施するイベントのポスターも掲示された。
大分のアートを語るうえで欠かせないNPO法人 BEPPU PROJECT
本文化祭の企画会議委員および市町村事業アドバイザーである山出淳也さんによると、大分県を分水嶺による5つのゾーンに区切り、それらを巡ることで文化+地域の魅力に出会う旅として「カルチャーツーリズム」を大きなコンセプトに掲げているという。アート、文化イベントとともに食文化や祭りなど地域独自の多様な取り組みを味わうことができるというわけだ。
山出さんが代表理事を務める「NPO法人 BEPPU PROJECT」の取組は、「アートを活用した地域づくり」として、日本全国のみならず、世界から注目を集めてきた。2005年の発足以来、「混浴温泉世界」「in BEPPU」などの芸術祭の開催や移住・定住に向けた環境整備、情報発信事業や商品開発、ブランディングなど多岐にわたる。実際に国内、海外のアーティストから別府や国東市、竹田市に関する移住の相談を受けることも多々あるほどの影響力を持っている。
本文化祭では、国際的に活躍するアーティストを招き、個展形式で行う芸術祭「in BEPPU」と絡め、「アニッシュ・カプーア IN 別府」を、市のリーディング事業として別府公園で展開。アニッシュ・カプーアといえば、ロンドンオリンピックの記念モニュメント制作(2012年)やヴェルサイユ宮殿での個展(2015年)などで知られる世界的に著名なアーティスト。今回は「別府」を題材にした3つのプロジェクトを展開。別府といえば国内有数の温泉地だ。本展は地球のマグマ活動のエネルギーや、地熱によって熱せられた地下水が空へと昇り、また地中へと還っていく循環を思わせる構成となっていた。広大な公園の中でじっくり時間をかけて鑑賞できる作品だった。
左:別府公園のエントランス 右:Photo by Nobutada Omote Courtesy of Mixed Bathing World Executive Committee © Anish Kapoor
取材当日は、ホーランドアメリカライン社が運航するクルーズ船「ウェステルダム」が別府港に寄港し、英語ガイドを伴った旅行者も多く見られた。また、11月25日までは、世界初公開作品『Void Pavilion Ⅴ』の撮影も可能になるインスタグラム キャンペーンも行われた。
海外向けに大分県は広報支援
文化祭の事業は事務局が担っていたが、大分県はインバウンド向けの広報を支援してきた。大きくは下記の3点になる。
まず1点目は外国語版チラシの作成である。
(1)簡易版 英語・韓国語・中国語(繁体)
日本語チラシに、簡単なメモ書き程度の翻訳を添えて。旅行博等で配布
(2)CULTrip(英語版)
大分県内の案内所や宿泊施設に配布
2点目は、台湾で人気のある日本専門のカルチャー系雑誌『秋刀魚』秋号(9月25日発売)や、韓国の『Art in culture』への出稿である。アートやカルチャーに関心が高い層へダイレクトに訴求している。
3点目は、上記で作成した外国語版のチラシや冊子を、6月の韓国のハナツアー旅行博覧会や7月の台湾の旅行博で配布したこと。
地道なプロモーションだが、ターゲットとする層にあうメディアでの訴求や、「早めの情報発信」を行っている。どれだけ届いたかはこれからの検証になるが、各事業者からの発信、宿泊施設など旅ナカでの訴求もあわせて、一体となったプロモーションがなされているといえよう。
各地域の取り組みが今後につながる
その他、江戸千家が盛んな杵築(きつき)市ではデザイン集団grafによるお茶会「きつき大茶会」、中津市では市内の数千人の子どもたちが、未来のともだちに手紙を書くライティングプロジェクトなどユニークなプロジェクトが開催された。外国人旅行者がどのくらい参加し、楽しんだかはこれからの集計となるが、地域の住民が取り組んだ「自分の地域をアート、文化でこんな風に発信して楽しむ」という記憶が国内外に向けてイベントやお迎えする際の自信になると確信できる「国民文化祭・おおいた大茶会2018」だった。
▲杵築のまち全体で開催された「きつき大茶会」お茶会の他にさまざまなイベントや出店が楽しめ、外国人旅行者の姿も多く見受けられた
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