インバウンドコラム

インバウンド客も満足のツアーが揃う屋久島、鹿児島の「アドベンチャー・トラベル」動向を探る

2022.01.14

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ウィズコロナ、アフターコロナの潮流として、全国各地で注力が進められている「アドベンチャー・トラベル」。九州のなかでも、特に鹿児島県は登録されて30年近くを経た「屋久島」、2021年7月に登録された「奄美大島・徳之島」と2つの世界自然遺産を有しているほか、「桜島・錦江湾」など3つのジオパークがあり、アドベンチャー・トラベル造成の機運が高まっている。その論議をする際に、ツアーや旅行商品を企画するプレーヤーが地元にいない、また案内できるガイド人材の不足が語られることが多い。今回は、世界自然遺産にフォーカスして、鹿児島の動向を取材。筆者が理事を務める(一社)九州通訳・翻訳者・ガイド協会に所属するガイドへのヒアリングも参考に現状をレポートする。

 

世界自然遺産登録から30年弱、屋久島で進むインバウンド対応

屋久島は1993年、白神山地とともに自然遺産として日本ではじめて世界遺産登録された。樹齢数千年のヤクスギをはじめ極めて特殊な森林植生を有し、海岸付近の亜熱帯植物から亜高山帯の植物が垂直分布するなど特異な生態系と自然美が登録の理由とされている。


▲スタジオジブリの映画「もののけ姫」の舞台のようと称され、外国人旅行者にも人気の「白谷雲水峡」コースは初心者〜中級者向け

筆者が初めて屋久島を訪れたのは2016年。在住外国人を連れての2泊3日のモニターツアーで、ヤクスギをみるトレッキングのほか、海や川でのSUPやカヌー、滝や灯台など島を一周するドライブやヤクスギでの木工体験などさまざまなコンテンツにトライした。コンテンツは総じて好評だったが、もっとも注目したのは、外国人を含めての旅行者への受入環境体制の充実。例えば、ヤクスギなどを体感するトレッキングコースは、初級〜上級まで4コースがあり、準備すべき装備のレンタルやガイド付きツアーが充実している。ガイドをつけて植生などをききながらトレッキングすると、多雨の気候と歴史が育んできた屋久島の魅力がよく理解できる。
縄文杉への登山は往復約9時間以上かかるため、登山のためのバスが朝4時から運行しているのにも驚いた。看板や標識などの英語表記対応もすすみ、旅行者がスムーズに旅をできる体制が整っている。

また、屋久島町が制作した「屋久島&口永良部島総合旅情報」は交通アクセスやみどころ、注意事項などが日本語ページと英語ページが対照に掲載されており、一般市民でも外国人に指し示すだけで理解してもらえるようになっている。


▲左が英語、右が日本語で誰もが説明しやすいようになっている

「一気に受入体制が整ったわけではなくて、一歩ずつです。少しずつ整備をしてきた結果ですが、まだまだです」と当時の役場の担当者が話していたのを思い出す。

 

縄文杉だけでない、訪日客をも魅了する屋久島のツアー

その頃から「“縄文杉”だけでない旅を楽しんでほしい」と町や観光協会のスタッフは話していたが、今や体験・現地ツアーのプラットフォームには、トレッキングだけでなくシュノーケリングやマリンスポーツ、SUPやカヌーなどの川遊びなど多種多様な商品が並び、ガイド付商品も多い。2泊3日の行程では足りないくらいだ。

2020年10月緊急事態宣言が解かれた間隙を縫うように訪問した際には、集落ごとに違う生活文化を地元の方にきく里山の文化も体験できた。
トレッキングのガイドをお願いした全国通訳案内士(英語)で、1998年からガイドをはじめ、2002年からプライベートでオリジナルのエコツアーを行う、株式会社自然のポケット会田淳一さんは、屋久島のアドベンチャー・トラベル(AT)についてこう語っていた。

「ヤクスギを目当てにトレッキングを楽しむツアーの他に、屋久島には外国人旅行者も満足できるクオリティのツアーはたくさん揃っています。2021年に北海道で行われた「アドベンチャートラベルワールドサミット」(オンライン開催)のために、屋久島でATに取り組む仲間と考えた5泊6日のコースはPSA(プレサミットアドベンチャー)を通過し、旅行商品として認められました(九州では屋久島と熊本の南小国の2つ)。AT業界最大の団体「ATTA」が示すターゲット層に寄せて造成、今まであまり外国人向けには入らなかった西部林道を盛り込んでいますが、もっとブラッシュアップしたいですね。それとは別にまだ知られていないルートやガイドブックに載っていない沢などを巡るコースも案内したいです。希望をききながらオリジナルの旅を作ることもお手伝いします」

屋久島は花崗岩が基盤になっているため、雨を長期にわたって蓄える場所がなく、樹木が大量の水分を蓄えている。また、苔が乾燥を防ぎ、種に必要な養分を蓄えるなど、次の世代を育むベッドの役割を果たして植生を守る。ヤクスギは標高500m以上に自生するスギを指すが、森の中には実に多くの種類の苔や杉以外の樹木が茂っている。400年以上前から建築用の木材として切り出されていたため、残っている杉は木材として利用されにくい形状とのことなど。ガイドをうけながらのトレッキングは、自分で歩くだけでは見えてこない屋久島の自然と歴史を深く知ることができる。
コロナ禍以前は、毎日予約が入り、屋久島全体としても数が足りないほどだったという多言語ガイド。他の地域に比べればやはり数も質も高く、今までの蓄積があると考えられる。

 

2021年世界自然遺産登録 エコツアーの整備をはかる奄美大島

2021年7月、アマミノクロウサギに代表される希少種を含む多様な生物が生息・生育していることが評価され、世界自然遺産に登録された奄美大島。
登録に向けての整備や調査がなされるなかで、原生的な自然環境の喪失や交通トラブルの増加等が懸念されていた。特に、生きた化石といわれる巨大なヒカゲヘゴなど天然の亜熱帯広葉樹が生い茂る「金作原(きんさくばる)」においては、2019年2月27日以降利用ルールが定められており、「奄美群島認定エコツアーガイド(以下、認定ガイド)」の同伴での利用を推奨している。これは、多人数利用等による自然環境への負荷を軽減するとともに,質の高い自然体験の提供を図るためだ。


▲金作原の原生林

「認定ガイド」は2017年度から育成が始まり、2021年4月で累計133名となっている。 奄美群島と各島の自然・文化、ガイド技術、安全管理等に関する講習会受講や各島のエコツアーガイド連絡協議会等の登録ガイドとして1年以上の活動実績などが認定要件で、3年を経たのちは更新制となっている。

鹿児島県では、奄美群島の住民に地元の自然環境の良さや魅力を再認識してもらうため、奄美大島ほかそれぞれの島において、「認定ガイド」による住民向けのエコツアーに対して、料金を負担する事業を2020年度に展開。エコツアー利用者1人あたり8,000円を上限に負担することで、通常は1万円を超えるダイビング体験やクルージングツアーにも低価格で体験できるようにした。

▲ナイトツアーでみたアマミイシカワガエル(奄美でしか見れない)

 

島出身の若手が作る、SDGsな「奄美大島」ならではの体験

2021年11月、鹿児島県観光連盟からの業務で、レポーターとしてプロモーション動画の撮影に携わった鹿児島市在住の通訳案内士(英語)の堀切美貴子さんは奄美大島のポテンシャルについてこう語る。

「認定ガイドを育成するという長期的な視点は計画的で素晴らしい。金作原のツアーでは、カエルなどの小さな生き物や野鳥、渡り鳥、いろんな植生を体験することができました。奄美大島では海のツアーも多く、それだけだと『沖縄がある』『沖縄でいいのでは』となってしまう。特に注目しているのは、奄美大島ならではのストーリー。「大島紬の泥染」もそうですが、島出身の若い方たちがSDGsなアイデアいっぱいの体験を考えています。サトウキビから100%の純粋な黒糖を作る体験や、目の前のビーチで塩を作るのですが、薪は自然の廃材を利用し、蒸気は別の部屋にまわして湿度の高いサウナに仕立て、その後に目の前の海に飛び込むという全く無駄のない循環型の体験もできています。唯一無二の魅力を打ち出す必要がありますね。また、外国人旅行者に対応する多言語の案内、ガイド人材の育成はこれからの課題といえるでしょう」


▲大島紬の泥染

 

火山とともに暮らす、桜島・錦江湾で「アドベンチャー・トラベル」に着手

世界を見渡すと、今も活動を続ける火山がある国や地域はそう多くない。ここ、2013年に日本ジオパークに認定された桜島には約4,000人が火山の麓で暮らし、その目の前には60万都市の鹿児島市の市街地が広がる。活火山の恩恵を受けた自然と生活文化が桜島・錦江湾でのアドベンチャー・トラベルの特徴である。

▲城山展望所からの桜島。鹿児島市街地が広がる

鹿児島市では、2020年度にコロナ収束後の需要回復を見据えた観光メニューを充実させる「Withコロナ新観光プロジェクト」を実施。旅行エージェントやOTAが各素材を組み合わせて旅行商品を造成できるよう、102以上の体験メニューや23のモニターツアー、31のオンラインツアーを掘り起こした。2021年度は、桜島と錦江湾のコンテンツ造成に向けたモニターツアーを実施し、魅力のブラッシュアップを通じて売れる商品を追及している。

あわせて、桜島・錦江湾エリアでは、観光CRMアプリを活用した地域マーケティングにより、リピーター(アプリ会員)確保や 観光消費額増を図る実証実験を行っている。

筆者も10月に「桜島GEOカヤックツアー」(かごしまカヤックス)に参加した。
3時間のコースで、参加者の状況、当日の天候や海の状況をみて、立ち寄る先が決定される。エンジン音もない静かな海の上で、代表の野元尚巳さんは実にいろんなことを教えてくれた。
2万6000年前に誕生した桜島は火山では若い部類であり、今でも噴火が起きていること。海からみて地層や植生から溶岩の年代の新旧がわかること。松などの樹木が育つので、年を経るにつれて緑が濃くなっていること。錦江湾は内湾にもかかわらず水深が200mを超える海で多様な環境が形成されていること。火山による鉄分やミネラルなどがヒジキなどの海藻を育み、その海草が海の中の森になること。島を一周すると1500年以上前からの植生をめぐることができることなど。


▲溶岩と軽石について教えてくれる野元さん

「いつみても同じ桜島はないんだよね」と野元さんがしみじみ話していたのが印象的だった。野元さんは、カヤックだけでなく、サイクリングやトレッキングなどさまざまなプログラムを提供してくれるスペシャリスト。奄美大島のトレイルを開発しているそうで、こちらも楽しみだ。

別日に体験したが、桜島には海岸を掘って作った温泉の足湯に入る体験のコースなどもある。


▲株式会社やまとごころ代表取締役の村山と体験。潮風に吹かれながら足湯でほっこり

外国人に対応する場合は、先述の堀切美貴子さんが英語ガイドとして入ることが多いそう。堀切さんは11月下旬に3日間 NEALネイチャー・エクスペリエンス・アクティビティ・リーダー講習(自然体験活動指導者)を受講。ネイチャーガイドについて、外国人旅行者に通訳する機会が多いため、「参加者の安全を保全しつつ、その活動のコンセプトや視点、専門家の方々が伝えたいと強く思っている事を五感で理解してお伝えする為に、この学びは必須でした」と語る。

ネイチャートラベルを推進していくのに、魅力を理解、体感するためにも、安全に実施するためにもガイドの重要性は増している。この分野こそ適正な料金設定で、ガイドを専業としている人も増えている。ガイド自身が外国語対応できるのが望ましいが、コンセプトを理解した通訳ガイドを活用する、地域通訳案内士を拡充するという方法で、今後の外国人旅行者の対応も可能になる。

鹿児島の屋久島、奄美大島、桜島・錦江湾とみてきたが、ツアーや体験、プレーヤーは揃ってきており、今後の発展を注視していきたい。

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