インバウンドコラム
2020年の東京オリンピックに向けて、国内のおもてなし環境を充実させる方法を模索する中で、国内在住の外国人、特に留学生活用に対して注目が高まっている。
福岡での取り組みを事例に、今後の方向性を探ってみよう。
目次:
1.留学生活用の現状
2.九州では中国、韓国対応のニーズが高い
3.留学生が交流と仕事体験できる組織
4.留学生視点の活かし方
1.留学生活用の現状
日本全国で留学生は約137000人になっており、中国の86000人を筆頭に、韓国16000人、台湾の4600人、ベトナム、ネパールと続く。
(出典/平成24年5月1日現在のデータ:平成24年度外国人留学生在籍状況調査結果独立行政法人日本学生支援機構http://www.jasso.go.jp/statistics/intl_student/data12 .ht
ml)
最近はベトナム、ネパールからの留学生が急増しているともいわれているので、最新の動向数には多少の変化があるかもしれないが、やはり隣国の中国、韓国からの留学生が多数を占めている。
地域別に見るとやはり関東が一番多く、全体の約半数を占めているが、我が福岡県だけで約1万人を抱える形になっている。
それによると、震災後観光庁による訪日外国人旅行者の受入環境整備サポーター事業などにおいて活用されてきたが、インバウンドの現場においては増え続ける個人旅行者に対して「(魅力や情報発信をする)プロモーション力」に加え、現地でのおもてなしを強化する側面が強くなってきているという。今回は、福岡を中心とした受入環境充実の側面を中心に留学生活用を考えてみたい。
2.九州では中国、韓国対応のニーズが高い
2008年から本格化し、2010年に152回とピークを迎えた九州への外国発クルーズ客船の寄港は、中国発の大型客船がメインだ。
一斉に2500人前後の乗客が団体ツアーを組み、観光や市中へ向かう際には、バス60台、バスに添乗する中国語案内が60人必要になった。
福岡市側のおもてなしとして、博多港での案内は地図の配布などには、福岡観光コンベンションビューローのウエルカムサポーターがあたっている。彼らの中には、大学や日本語学校に通う留学生が少なくない。
※ウエルカムサポーターについて
http://www.welcome-fukuoka.or.jp/about/285.html
これら急増するニーズに対して、平成25年に認定を受けた「九州アジア観光アイランド総合特区」では、国家試験を受けなくても、九州7県、福岡市及び九州観光推進機構が実施する中国語・韓国語の通訳案内に関する独自の研修を修了し、福岡県知事の登録を受けることにより、九州域内で、有償で外国語を用いた通訳案内を行うことができるようになった。2月から研修が始まったところだが、研修時間が長いため、学生の受講は難しさをともなう人も多いと予想される。
九州アジア観光アイランド特区ガイド育成研修の募集
http://www.welcomekyushu.jp/kaiin/files/NewsDetail_722_file.pdf#search=’%E7
%A6%8F%E5%B2%A1%E7%9C%8C+%E8%A6%B3%E5%85%89%E7%89%B9%
E5%8C%BA%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89′
2014年の春節は、日本全国に多くの訪日旅行者が訪れた。
特に、中国人は政府間の軋轢とはまったく関係ないかのように、1月31日以降街なかにあふれ、旺盛にショッピングや散策を楽しんでいた。
福岡でも外国人旅行者向けのおもてなしキャンペーン“FUKUOKA WELCOME CAMPAIGN”が開催されており、もとより福岡に多く来訪する韓国人に加えて、旧正月以降は中国人はぐっと増えた。商業施設の現場では「もっと言語対応できたら、売り上げは伸びるのに」というため息も多くきかれた。
2020年の東京オリンピック開催、および訪日外国人者数2000万人に向けて、グローバル人材や留学生への熱を帯びた視線は高まるばかりである。
3.留学生が交流と仕事体験できる組織
ここからは、私の個人的な事業の話ではあるが、留学生活用の実証例としてきいてほしい。
私は日本国内で留学生を多く抱える九州大学の学生とビジネスの仲間で、留学生の交流組織「Create Together」を有限事業組合という形で2013年6月にたちあげた。現在、九州大学に在籍する留学生は約2000人。その中の約60名が登録している。
「留学生同士だけでなく、日本人との交流」
「せっかく日本(九州)に来たなら、ならではの地域文化体験を」
「能力にあふれる留学生に充実した仕事体験を」
と「交流」と「仕事体験」を2つの軸としてスタートした。
Create Together HP
http://www.createtogether.org/
私自身が外国人向けのガイドブック作成やSNS、HPなどで海外に情報発信をするときに、その国の人の意見を徹底的にきくことから、モニター組織としても活用できると確信していた。
実際に福岡の伝統工芸を展示する「はかた伝統工芸館」への構成内容のアドバイスには、中国、韓国、ドイツ、ポルトガルなどの留学生が参加した。
先述の外国人旅行者向けキャンペーン“FUKUOKA WELCOME CAMPAIGN”では、福岡空港でのリーフレット配布や「はかた伝統工芸館」でのうどん振る舞いのサポート、商業施設への商品展開や展示のアドバイス、そしておもてなしイベントの実施などで大活躍をすることとなった。
今年は、地元メディアのインバウンドに対する注目度も高く、この春節向けキャンペーン自体にテレビ局の取材が5局も入った。その場にいる彼女たちは、外国人旅行者へのインタビュー依頼&通訳を行うことも多かった。
仕事全般を通じて、「非常に楽しい経験だった。また機会があればやりたい」と口々に言ってくれたのが印象的だった。
福岡空港国際線で台湾からの旅行者にインタビューする中国人留学生
4.留学生視点の活かし方
留学生と関わって何かをするということは、大変なことも多いとしみじみ痛感もした。
今年の旧正月時期はちょうど大学の試験時期と重なっていて、稼動できない学生がたくさんいた。そこは学業優先で当然なのだが、どうしても補充できない時間を埋めていく作業は予想以上に骨が折れる。
それに、日本人でも当たり前のことだが、各々の適性を把握したうえで、あった業務を体験するとより効果的である。
外国人旅行者が多いキャナルシティ博多より、春節時期にあわせて7日間、中国語、韓国語のインフォメーションをする留学生を手配することとなった。
質問されることも多種多様で細かく、特設デスクの前にある通常のインフォメーションのスタッフの協力を得ながらひとつひとつ答えていく。やはりショッピングが好きな女子留学生はコツを得るのが早いし、テキパキと案内につなげていく。
しかし、どの学生も真剣に回答に向き合って手を抜くことはなく、質問内容と回答を記録に残し、次へのステップアップとなるデータをまとめる一助になった。
手がすいたときには、旅行者にキャンペーンのリーフレットを手配りしていたのだが、中国人留学生が「中国人には大きく誰にでも書いて表示するのが一番!追いかけて渡していると不審がられて、かえって逆効果です」と提案してくれた。確かに、韓国人は気軽にきいてくれるが、中国人は拒否する人が多い。このような生の声を柔軟に取り入れていくことがおもてなし向上に必要なのだろう。
福岡の観光の目玉である「オープントップバス」をおもてなしイベントとして位置づけ、英語ガイド、韓国語ガイドで1回ずつ行った。
韓国語ガイドは、韓国人留学生が1周約60分の案内する原稿をすべて考えて、行った。
通常の日本語の案内では大河ドラマ「黒田官兵衛」を中心とした歴史的な話がメインだが、それでは韓国人の興味はひかない。
韓国人でも面白く、それでいて福岡の特徴がわかるような案内を考えて、人前でアナウンスする仕事に、約2ヶ月の準備期間を要し、最後は徹夜をして挑んでいた。
球場の紹介をするのに、ソフトバンクホークスに入団した韓国人選手、イ・デホ氏の話をして旅行者の興味をひいていたあたりはさすがだと感心!
「韓国語でなんていったらいいかわからない日本語で言った方が簡単なのに」
その感覚もまた私にはわからなかった。一つひとつが手探りだが、きっとこの積み重ねが観光立国への最初の一歩なのだと感じる。日本で仕事をするのか、母国や他国で活躍するかに関わらず、外国人留学生は「日本」を世界につないでいく大切な人材であることを改めて肝に銘じたい。
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