インバウンドコラム
昨年12月20日に訪日旅行者1000万人突破し、新たなステージに入った日本のインバウンド。2000万人、それ以上とさらなる高みを目指す際に「ショッピングツーリズム」はどう発展しなくてはならないのか。12月から始まった「ジャパン・ショッピング・フェスティバル」、FUKUOKA WELCOME CAMPAIGNをはじめとした取組を俯瞰してみよう。
目次:
1.オールジャパン体制でトライする「ジャパン・ショッピング・フェスティバル」
2.日本のショッピングの魅力とは
3.心からの満足を得るショッピング現場になるために
4.「おもてなし」と「売りぬく」テクニックの両立を目指す
1.オールジャパン体制でトライする「ジャパン・ショッピング・フェスティバル」
2013年12月20日に達成した「訪日外国人客数(年間)1000万人突破」は、新聞やテレビのニュースでも大きく取り上げられた。一般の国民が「インバウンド」という言葉は知らなくても、2003年に小泉首相が観光立国を目指し「ビジット・ジャパン」を掲げ、国家戦略として促進していることを知る人が多くなってきた。
2001年からインバウンドに携わってきた私にとって随分自分と仕事の内容を説明しやすくなったものだと隔世の感がある。
2020年に「東京オリンピック」開催が決定して以降、「日本に海外の旅行者が大挙してやってくる」事態に、受入体制などを検証するメディアも多く、日本全体でインバウンドの機運が盛り上がっていることは明白だ。
そんな中、2013年9月3日に一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(以下JSTO)が発足した。
①世界に日本のショッピングツーリズムの魅力を伝え、より多くの訪日ゲストを迎えるためのPR事業
②おもてなし事業者の外国人に対する受入環境を向上し、訪日ゲストにより快適な環境を提供する「おもてなし事業者支援」
③官公庁、民間企業、地方自治体などの業種や、東京や地方などのエリアの垣根を超えたオールジャパン体制
の3点が主な事業概要だ。
※詳細、構成団体などについては下記HPを参照
http://www.jsto.or.jp
具体的には、年に2回、7月~8月、12月~2月を「ジャパン・ショッピング・フェスティバル」(以下JSF)として、各地域や施設が開催しているキャンペーンを同一名称として開催。商業施設などおもてなし事業者からの情報を公式ホームページやリーフレットで海外へ発信、現地旅行会社とのタイアップなどプロモーションを行い、共同懸賞を掲げて「日本のショッピング」を盛り上げていく。
韓国や香港、シンガポール、タイ、デュバイなどは随分前から国を挙げてのショッピングキャンペーンを観光の目玉として行っている。
○韓国 コリアグランドセール:
http://www.koreagrandsale.co.kr/jp
○シンガポール グレートシンガポールセール:
http://www.greatsingaporesale.com.sg/2014/index.html
○デュバイ:
http://www.dubaishoppingfestival2013.com/
日本では観光庁主体で2011年から「メガセール」を行ってきたが、2013年度はJSFを観光庁とJSTOの主催で実施する形となっている。2013年の12月1日からすでにJSFはスタートしている。
Japan Sopping Festival HP:
http://www.gojsf.com/
2.日本のショッピングの魅力とは
『食』と『ショッピング』は旅行中必ず行う活動であり、パッケージツアーのゲストでも日本人や日本の日常文化に触れられる機会である。奇しくも、「和食;日本人の伝統的な食文化」が世界無形文化遺産に登録され、その魅力を日本人が再認識すべき事態になっている。それでは日本ならではのショッピングの魅力とは何だろうか?
「訪日旅行が増えてきた」というテレビニュース番組の特集では、JNTO(日本政府観光局)のHPで発信されている動画が報じられていた。祭りや食などのコンテンツの中で、その番組がとりあげたのは、きめ細やかな包装や丁寧な接客を伝えるものだった。
「ショッピングツーリズム」というのは、実は奥行きが深い。日本のショッピングのよさは、前述したような繊細なサービスだけでなく、商品が多彩であり、こだわりによってセレクトされた品揃えもそのひとつ。また、地方にはその地方にしかない伝統工芸品や食品があり、農業、水産業という第一次産業やプロダクトデザインが光る工業製品など第二次産業にもおよぶ。匠と呼ばれる職人の工房見学なども魅力的なコンテンツだ。
このような観光に大切な「物語」、つまりモノにまつわる「ストーリー」、「日本でしか買えないモノ」「この商品が生みだされたシチュエーション」などはまったくといっていいほど発信されていない。日本の強みを、日本人自身があまり認識していないといってもいい。
ショッピングツーリズムでは、この強みを十分に踏まえて海外に向けて発信し、受入環境を向上させていくことで促進される。
12月からスタートしたJSFは、東京、関西、福岡で開催。12月14日には「Japan Shopping Festival in Kansai ~関西メガセールおもてなしイベント」が関西空港で行われた。
KIXのウエルカムボードを使ったカウントダウンオープニングと到着した外国人旅行者をお迎えしてリーフレット配布などが行われた。本拠地・大阪からゆるキャラ、東京から外務省認定ポップカルチャー発信使『カワイイ大使』の木村優さんなどのゲストが登場。
我が福岡からは、福岡市の仮想の行政区であるカワイイ区区長、ミカエラ・ブレスウェートさんが駆けつけた。カナダ人である彼女はカワイイ区長になる前から、YouTube上に日本語字幕をつけた日本の文化紹介動画がユニークで、海外からの再生回数の多さも有名だった。私自身も好きなお土産や定食文化、お寿司講座など日常の生活文化を楽しく視聴していたが、今見返してみると『福袋、不幸袋』などショッピングシーンの紹介も本当に面白い。
○ミカエラさんの動画
http://www.yoshidamasaki.com/member/member17.html
○福岡市カワイイ区
http://kawaiiku.jp/
JSFのPR事業で、タイと台湾からパワーブロガーを招待し、関西を巡るツアーも当日から3泊4日の日程でスタート。台湾ブロガーたちのグランフロント大阪取材に同行したが、日本人では通常撮影しないような角度と頻度でどんどん撮影をしていく。やはり「グルメとショッピングに興味がある」とのこと。
外国人の視点で伝える口コミ的情報発信がなければ、ショッピングの楽しさを知る術はない。実際に、日本を訪問した旅行者がどんな体験をするかが重要になってくる。
3.心からの満足を得るショッピング現場になるために
それでは日本はショッピングを十二分に楽しめるところなのか、検証してみよう。
先に結論から言うと、便利なシステムが整っていない「不満足」環境であるといわざるを得ない。
【3大不満足ポイント+α】
①言語対応が不備
②カードが使えない、両替がすぐにできるATMがない、決済システムが不備
③免税対応ができる店舗が少ない
※フリーWi-Fiの環境がないため、本国に確認しにくい
①言語対応
これは完璧である必要はまったくない。むしろ、海外において流暢すぎる日本語で説明されると興ざめである場合も多い。ただし、電化製品などは自国で使えるものなのか、機能がわかりにくいと購入に不安がある。雑貨などの商品でも説明を加えた英語や多言語のPOPがあると購入促進につながる。これについては次章で。
②決済システムの不備
韓国人はコンビニエンスストアでのちょっとした買い物にもクレジットカードを使う。中国人が銀聨カードを利用するのはよく知られている。
クレジットカードが使えない店舗が多いなら、近くに両替ができる場所があるか、ATMでキャッシュが引き出せることが必要になるが、日本はまったくそうではない。
③免税対応の店が少ない
観光庁は2014年10月から外国人旅行者向けに、消費税免税品を家電品などに限定せず、化粧品や食料品、衣類などを含むことを決定した。しかし、国内小売店舗数約100万店に対し、免税対応できる店舗は現在4000店舗という現状だ。
これは外国人旅行者に対しての販売姿勢にかかわってくるものと思われる。これについても次章で。
※フリーWi-Fiの環境の不備は、売り損じの原因
海外からの旅行者はiPhoneなどのモバイルを所持し、LINEやSNSなどで常に本国の家族や友人とつながることができる環境にある。腕時計やバッグ、衣類など嗜好性が高いものは、写真画像をLINEで送り、現場でどれにするかきいている場合が多く、即座に購入につながっている。
記念写真を撮影した直後、コメントとともにFacebookなどSNSで発信し、口コミで広めてくれるというPR効果も期待できる。
よほどの事情がない限り、「写真撮影禁止」という行為はやめた方が得策である。
4.「おもてなし」と「売りぬく」テクニックの両立を目指す
インバウンドの課題は、自分が海外旅行に行ったときを想定すると見えやすくなる。
1990年代後半、タイが「amazing Thailand」を掲げて観光プロモーションを盛んに行っていた頃に、私自身も当時手がけていた旅行雑誌の取材で各地を訪問した。
そのころタイ国政府観光庁が仕掛けたのか、自然と口コミで広まったのかわからないが、ふたつのアイテムが日本人キャビンアテンダントのおすすめとして、タイに向かう日本人OL女性の中で急速に広まった。
ひとつがリボンバッグ、もうひとつが日本の女性下着メーカーの下着だった。
前者のリボンバックはサテンの生地やプリント柄で大きなリボンが配された布製のバッグやポーチ、高めのブランドなら“ジム・トンプソン”、お手ごろなら“Naraya”といった風にガイドブックでも紹介されていた。ショップでは英語のPOPがわかりやすく表記され、小さなポーチなどはお土産用として5個セット、10個セットで販売されていて、値切るとさらに安くなった。
下着に関しては、「タイにその日本ブランドの工場があるので、同じ品質の商品が日本より半額ほど安く買える」という噂により、地方の小さなデパートでもかなり売れていた。
『タイしかないもの』『タイで買うとお得』といったモノのストーリーがきちんと構築されていたし、女性誌や旅行雑誌でブームは広がっていった。
ショッピング現場での環境も15年ほど前でも整っていた。
英語がある程度通じたし、日本人が増えてくれば片言の日本語で売りこみをかけてくる。
カードは小さな店でも使えたし、例え使えなくても両替がすぐ近くにある。免税のシステムも年々便利に拡充されていた。何にせよ、売れるとわかったときのタイ人のやる気もすごかった。
誤解を恐れずに言うと、日本に不足しているのはこの「やる気」なのではないだろうか。
「外国人旅行者に(これを)売りたい」という強い気持ちと売りぬく覚悟が欠けている気がする。
もちろん奥ゆかしい「おもてなし」は日本の魅力であることは言うまでもない。
「お客様」であることに日本人でも外国人でも変わることはなく、日本人に人気がない店が流行ることは考えられない。
しかし、ちょっとした外国人向けの工夫が、相手の心に届き、売り上げ増やリピーターにつながることは間違いない。外国語のPOPで内容を説明することや、人気ランキング1位~3位を明示することなどは何ら難しいことではないのに、効果は大きい。
(JSTOにおいて、おもてなし事業者支援を担うやまとごころでは、こういった売上げアップのセミナーも開催しているのでチェックしてほしい。手前味噌のようだが、私自身も目から鱗の内容である)。
JSFのひとつ、FUKUOKA WELCOME CAMPAIGN(以下FWC)は1月15日~2月9日、旧正月の1月31日を真ん中に挟む形で開催される。2013年は、参加施設、企業からの協賛金のみで実施したことは私のコラムの第7回(https://yamatogokoro.jp/column/2013/column_110.html)で触れているが、第2回目の今年こそ、実際に売り上げもあげて、成功例を多く生み出さなければいけない。16施設、約250軒のショップが割引やプレゼントなどの特典、オリジナルの福袋、限定キットなどで外国人旅行者をお迎えする。
ロゴマークをデザインしたウエルカムバッジを観光案内所で配布、2月1日、2日は、500円で「英語、韓国語ガイドによるオープントップバス」や「英語でまち歩き」などタウンセールス的な事業を、商業施設の連携で実施できるのが福岡の底力だと思っている。
FUKUOKA WELCOME CAMPAIGN
http://yokanavi.com/welcomecampaign/
留学生を入れてのアドバイスなどを行っているが、本当にうまくいくか壮大な実験はこれからである。
「やらなければいけないインバウンド対策」から「売れて、お客様も満足」のお互いにハッピーなショッピング現場が、福岡に、全国に、ひとつでも増えるよう、祈るような気持ちの2014年の幕開けである。
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