インバウンドコラム
2013年9月11日は日本の尖閣国有化から1年。
ここ数年のギクシャクした日中関係は、インバウンド、アウトバウンドにも壊滅的といえる影響を与え、未だ改善されているとはいえない。
そんな状況を未来に向かって打破しようとする草の根の交流イベント「日中未来の子ども100人の写真展覧会」。今回は、日中両国で開催されている4都市のうち、福岡展を中心にレポートする。
目次:
1.中国発ソーシャルウェブサイトプロジェクト“Billion Beats”からスタート!
2.開催費用からすべてボランティアで! 福岡展開催の高いハードル
3.20名以上の中国人留学生も参加! 学生でつながる日本と中国
4.触れあいがいっぱいの「旅」は関係改善の一歩
1.中国発ソーシャルウェブサイトプロジェクト『Billion Beats』からスタート!
この展覧会は中国発のソーシャルウェブサイトプロジェクト『Billion Beats(ビリオン・ビーツ)』で、日本と中国のフォトグラファーが連載してきた「日中の子どもたち100人の写真」とインタビューで構成されている。
中国では北京や上海の11歳前後、日本では東京近郊、福岡や佐賀などの小学生をメインに、一般家庭の子どもたちの自宅や勉強部屋を訪ねてインタビュー。特に中国では「好きな科目」「たくさんお金があったら何が欲しい」「将来の夢」という3つの質問を投げかけ、ありのままの姿を映し出している。
例えば、中国の子どもたちは、「お金があったら~」の質問に
「海外旅行を家族で」、「半分は投資をして、半分は貯金」、「自分で使った残りは寄付」、「家を買う。四川省出身で戸籍が北京にない。持ち家があると北京の高校に進学できるから」
と具体的な回答が展開され、非常にしっかりした一面を見せる。逆に、「ゲームで遊ぶのが好き」「サッカー選手になりたい」など国に関係なく子どもならではの共通した表情を見せる。
「日本人が見つけた13億分の1の中国人ストーリー」Billion Beats(ビリオン・ビーツ)とは、2011年3月20日に中国でスタートしたソーシャルウェブプロジェクト。日中2ヵ国語で、異なる立場でさまざまな経歴を持つ両国の31人によるチームが、大陸で出会った中国人をフォトエッセイ、4コママンガ、コラムなど思い思いの方法で表現。「新聞やテレビの中国報道では知ることができない、中国の人たちがどんなに暮らしをしているのか、普段の姿を伝える」ことを目的に、日本人と中国人が個人と個人として直接出会う交流を促している。
「中国人」とひと括りのイメージとは異なるリアルな多様性が浮かび上がってくる。
制作を手がける31人のチームメンバーは自分たちの能力や技術をボランティアとして提供しているのも特徴だ。
主宰のひとりで、本展覧会のプロデューサーである北京在住のライターの三宅玲子さんは、
昨年10月に自分が手がけた中国・日本の大学生交流イベントや、日中国交正常化40年の節目に予定された行事がキャンセルされた状況に直面して、今回の写真展を思い立った。
「日中100人の子どもたちが、2013年の今、どういう思いで生きているのか。一人ひとりの子どもの表情と言葉から大人たちが感じとり、彼ら、彼女らの未来のために、日中関係を思考するきっかけを提供したい」と。
http://www.billion-beats.com
2.開催費用からすべてボランティアで! 福岡展開催の高いハードル
それではなぜ福岡での開催なのか。
先述の三宅さん自身が熊本県出身で福岡の新聞社で勤務経験があること、古くから大陸との交流で栄えた地であること、福岡県内に住む中国人は約2万人であること(在日を含む韓国人が多い西日本では珍しい)、そのうち6000人の留学生が生活すること、九州の自治体のほとんどが上海に事務所を置き、自治体同士でチーム九州として力を合わせて九州の認知度アップにチャレンジしていることから、上海と九州の玄関・福岡で展覧会を開催することにより、九州の人たちに上海をより近く感じてもらいたいということなどが理由としてあげられる。
福岡~上海は飛行機で1時間半、地理的、心理的に近接性のある九州・福岡は開催しなければならない場所だと私自身も感じていた。
北京展最終日にはくまモンも観覧に(写真提供:Go Takayama)
しかし、この展覧会を開催するにあたり、自治体や大きな企業がバックアップしてくれるわけでなく、開催費用となる協賛金集めからすべてボランティアで行わなければならない。
上海では、花園飯店(オークラガーデンホテル)ほか市内13ヵ所のカフェなどで分散開催(ボランティアと来場者あわせて400人)。北京は、世紀壇当代芸術館で開催され、最終日には日中の子どもたちが一緒に合唱を行う一幕も(1500人来場)。
北京では、やはり地元のネットワークで12万元近くが集まったという。
かくいう私も、ボランティアのひとりとして福岡展開催のために東奔西走した。
今年4月に福岡市のとある中国料理店に、中国とのビジネスをしている知人に声をかけられ集まったメンバーは16人。中国ビジネスをしている、赴任経験があるなど中国に縁がある人だった。
三宅さんのプレゼンを聞いた後で、メンバーから出た本音の言葉は
「そんなお金を集めるのは無理なのでは?」、「どうやってすすめたらいいかわからない」
と前向きとはかなり反対の方向だった。
不安な気持ちを奮い立たせて、立ち上げのミーティングを行った5月当初は6人ほどのメンバーだった。100枚の写真展示をじっくり味わってもらうために大きめの会場が必要ということで九州国立博物館(大宰府)の1階ホールに決定。折りしも企画展示として「中国の至宝展」が開催されていることもあり、中国に関心がある人たちが集まるであろうとのもくろみもあった。
運営委員会は「福岡おとなの会」と命名し、この趣旨に深く共感し、社会的地位や立場、思想や信条を超えて集まったソーシャルなチームということで発動した。当初のメンバーが仲間を呼び、最終的には30名程度の輪になった。会社員や行政マン、ライターやOLなど、さまざまな職業のメンバーがまったくのボランティアで関わっていったのである。
「個人一口5000円、企業一口5万円~」という小口で企画書を作り、一件一件中国との糸をたどるように企業や人を訪ねて案内をした。営業の経験のない人が多かったが、7月下旬から本腰を入れてがんばってみると、267万円(9月9日現在)という志が集まり、北京、東京チームも目を見張る結果に。30万円を寄付してくれた地元企業もあった。来場者は毎日300人を越え、7日間で2490人となった。福岡にはそれだけ中国との深いつながりがあったといえるのではないだろうか。同じ年代の子どもたちもたくさん来場した。
3.20名以上の中国人留学生も参加! 学生でつながる日本と中国
運営委員会をたちあげた5月からミーティングに参加してくれる中国人留学生がいた。彼らは、中国ビジネスを営む運営委員長がウェイボー(新浪微博)で流したボランティア募集の書き込みを見て駆けつけてくれた。
「日本人ががんばってくれるなら、我々も何かできないか」
そういった書き込みや転送がたちまちに広がったという。今はソーシャルネットワーク(SNS)で、つながる時代だと改めて実感する。
山東省出身の大学4年生・孟 琦さんも留学生ボランティアのひとり。福岡に住んで5年になる。
「国と国との問題ではなく、日本人と中国人、個人、個人で向き合ってみてどう思うかが大切。日中関係のためにがんばっている日本人がこんなにたくさんいることを、中国の友達にも伝えたいのです」
と語る。私自身、この言葉にどれだけ励まされたことか。
熱い思いを持ってボランティアに参加してくれた中国人留学生は計20名以上。福岡の中心部・天神で告知のためのチラシ配りをメインにしたイベントの際も、本展覧会での案内も慣れないことながら一生懸命にがんばっている姿に感心する来場者も少なくなかった。違う学校の日本人の学生ボランティアとの交流もあり、「人と人」との縁が、確実に次世代につながれていった。
4.触れあいがいっぱいの「旅」は関係改善の一歩
このような草の根の交流は、日中のたくさんの人や団体が行っている。
四川省で子どもたちに野球を教え、福岡で交流試合を行った青年や、雲南省で中国語での公演を行っている福岡の「劇団道化」など私が知っているだけでも数えだしたらキリがない。
9月27日~30日に開催される東京展(増上寺(港区芝公園)「TOKYO PHOTO 2013」内特設会場)でも、多くの有志が尽力している。ぜひ足を運んでもらえたらと思う。
上海、北京、福岡と観覧した日中の子どもやおとなが描いた「空飛ぶスケッチブック」も展示している。
思えば「旅」は「人と人」が触れ合う現場である。訪日旅行を促進している私たちは、その最前線に立っていて、信頼や楽しさ、忘れられない感動を創出する立場なのだと改めて感じる。
運休していた福岡~広州線の中国南方航空が今年の10月28日から運航再開するという嬉しいニュースが届いた。福岡は一時盛んだった中国発クルーズ船の寄港も少なくなって久しいが、期待をし過ぎず、一歩一歩できることを行いながら、お互いが笑顔で触れ合える状況を作り出したい。
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