インバウンドコラム
外国人旅行者が増える春節の時期にあたり、福岡市の12の商業施設が連携して2月9日~17日に「FUKUOKA WELCOME SALE」という外国人向けセールを行う。
観光庁の事業として2年目を迎える関東、関西のメガセールを筆頭に、この時期の外国人セールやキャンペーンはいくつかあるが、まったく系列も違う商業施設が自発的につながる例は全国でも珍しいのではないだろうか?
どの地域でもトライできるモデルになりうる福岡スタイルを検証してみよう。
目次:
1.春節時期に外国人旅行者向けキャンペーン花盛り
2.少ない資金でも横連携でスタート
3.街をあげてのおもてなしを目指して
1.春節時期に外国人旅行者向けキャンペーン花盛り
関東、関西でのメガセールは観光庁の事業として2年目を迎えている。
今年は“Meet the new Japan campaign 2013”と称して、
関西は12月1日~2月28日、東京では2月1日~3月31日に開催。
両エリアあわせて約10,000の店舗、宿泊施設、飲食店などにおいて、
パスポートを見せるだけでお得な特典サービスや特別体験をできるようになっている。
http://meet-j.jp/
東京の原宿・表参道エリアでは、公益財団法人東京観光財団と商店街振興組合原宿表参道欅会による“Tokyo Fan Week”が2月1日~28日に実施される。
エリア内の60店舗で外国人向け特典の提供がなされるほか、見どころやショップを巡るまち歩きガイドツアーや、スタンプラリーなどさまざまなイベントも行われる。
エリア内の約50店舗において旅行者がショップスタッフと記念撮影し、特設サイトへ写真を投稿すると景品がもらえるキャンペーン“Photo With Me”は特にユニークで、どんな反応があるのか早く知りたくなる。
http://www.gotokyo.org/en/tokyofanweek/index.html
福岡は今年初めて“FUKUOKA WELCOME SALE”を2月9日~17日に開催する。福岡空港免税店やJR博多シティ、キャナルシティ博多、そして岩田屋・三越、天神地下街などの参加商業施設の協賛約250店舗で割引やノベルティプレゼントなど特典が受けられる。
それだけをみるとどこにでもありそうなセールキャンペーンなのだが、福岡の注目ポイントはその成り立ちと手作り感にある。
2.少ない資金でも横連携でスタート
外国人旅行者の7割が韓国人である福岡では、そのほとんどがFIT(個人旅行者)ゆえ、彼らがどのように動き、楽しみ、購買しているのか、つまりどんなことをしているのか把握しにくい。実際に、外国人に人気の商業施設においても、全体における外国人の購買は数パーセントに満たない。ショッピングでお金を使わない傾向にある。
ヒアリングをしてみると「インバウンドはやらなきゃいけないと思うけど、なかなか取り組めない」というのが商業施設側の率直な思いだ。
そんな状況から今回のセール開催に至った発端は、2012年6月に開催された日本ショッピングセンター協会 九州・沖縄支部のセミナーのパネルディスカッションからだ。
テーマは「広域集客(インバウンド含む)における施設連携について」。
博多ターミナルビル(JR博多シティ・アミュプラザなど)、福岡地所(キャナルシティ博多など)、西日本鉄道(ソラリアステージなど)、イムズと商業施設運営会社の4名がパネリストとして登場。受入環境(多言語フロアMAP、館内案内など)や免税対応、スタッフ研修、販促・プロモーションの取り組みなどについて発表した。
5言語によるタッチパネル式での館内案内デジタルサイネージ、韓国人向けのモデルコース+クーポンなど外国人集客が多いキャナルシティ博多の事例や、中国発の大型クルーズ船対応、独自の韓国人向け販促などに興味深いトピックスが発表された。
外国人集客の数によってコスト、取り組み度合いが違ってくるが、「お迎えしよう」というホスピタリティマインドをあげていくことが大切で、満足度向上やリピーター獲得につながるという結論に至った。
私はこのディスカッションにおいてコーディネーターをつとめた。
事前打ち合わせをパネリストと重ねていくなかで、「いつも事例発表にとどまり、がんばろうという掛け声で終わる。最後には、“春節キャンペーン”を目標にしてはどうか」という流れに。当日のディスカッションのまとめで、私から「来年はみなで連携して春節セールしましょう」と呼びかけて、セミナーは幕を閉じた。 つまり、発起人となって取り組み開始を宣言したことになる。
2012年夏くらいからJR博多シティ、キャナルシティ博多、イムズの担当者と私でどのようにしたら実施できるか打ち合わせを開始(この3人はみな女性、美人の多い福岡らしい“three sisters”である)。役割分担をして下準備から他商業施設への提案を行った。
実体のない連合なので、天神観光案内所などを運営する『LOVE FM国際放送株式会社』に事務局を設置、私はそこで担当者として企画書作成や制作物作成、広報や協賛企業呼びかけを行った。
福岡市などにも呼びかけたが期半ばの発足で金銭的な援助は難しい。広報などで協力してもらうことになったが、このままでは資金がなくポスターやリーフレットなど告知物を制作するのもままならない。
「1口10万円を制作協力金として協賛した商業施設がキャンペーン参加」ということで声がけをすすめていった。前例のないキャンペーンでもあり、当初は苦戦したが、年末までに10数社の協賛が決定。協賛商業施設の中で、特典協力する店舗は約250となり、福岡の街全体でお迎えする体制は整えられたと思われる。
100万円程度の基金で、翻訳を加えたB1のポスター100枚、配布用リーフレット1万部、店頭フラッグなどを準備している。詳細な情報は福岡市観光サイト「よかなび」の英・韓・簡体字・繁体字版で2月2日からオープンする予定である。
【正式名称】 | FUKUOKA WELCOME SALE(福岡ウエルカムセール) |
【期間】 | 2月9日(土)~17日(日)キャナルシティ博多は~2月18日(月) ※2013年は2月10日が旧正月元日 |
【実施施設】 | 下記の商業施設の協賛店舗約250店 ●福岡空港免税店(福岡空港ビルディング株式会社) ●JR博多シティ(アミュプラザ、博多デイトス、博多阪急) ●キャナルシティ博多 ●博多リバレイン イニミニマニモ ●ドン・キホーテ中洲店 ●岩田屋・三越 ●天神地下街 ●イムズ ●ソラリアプラザ ●ソラリアステージ |
【HP】 | http://www.yokanavi.com.eg/ ※2月2日よりオープン予定 |
3.街をあげてのおもてなしを目指して
数年前ほどから商業施設の会合などでは、このような外国人向けキャンペーンをしようという話はあったというが、なかなか実現はしなかった。今回こそ、とにかく立ち上げてトライをし、次回以降に大きくしていこうという心意気でスタートすることができた。
しかし、課題は山のようにある。
まず、立ち上げが遅れたことで、発地での告知ができていない。訪問者が事前に知る流れができておらず、きっちりと計画をたててくる韓国人旅行者には知る由がない。もちろん、現地旅行代理店やメディアで、ホームページやSNSでの紹介を依頼しているところであるが難しいだろう。
こうなったら現地に来た旅行者を必ずつかまえるべく、ポスターの掲示やチラシの配布を工夫している。博多駅や西鉄福岡駅などの交通の拠点や釜山~博多港を結ぶ高速船ビートルやフェリー「かめりあらいん」の船内に設置ができるようになった。従来は料金発生なしには難しいところだが、関係者で四方八方手を尽くして依頼した結果実現した。
実際のショッピングの現場においてもクーポンブックやHPからダウンロードしたクーポンで特典を受けていくと流れはスムーズになる。今回は制作資金の面から作成することはできなかった。現場対応をスムーズにするために、期間中専用のコールセンターをおいて、旅行者や店舗スタッフから問い合わせを受けられるようになっている(英語・韓国語・中国語、10:00~24:00)。
本来ならばイベントや福岡文化体験、まちあるきなどをしたかったところだが、次回以降の目標となる。
横連携をするこの福岡スタイルは、We Love 天神協議会、博多まちづくり推進協議会というエリアマネージメント団体が協力して、福岡の回遊性や魅力づくりをしてきた下地もある。
2011年には、共同で天神~博多を散策できるMAP「天神・博多まちあるきMAP」を発行。2012年には、「光のコンチェルト」と題して天神~博多のクリスマスイルミネーションを一緒にプロモーションし、サイト構築や冊子を発行した。
http://tenjinsite.jp/xmas/concerto/
インバウンドにおいては、2011年に福岡市、福岡観光コンベンションビューローとともに、震災後福岡に来てくれた外国人旅行者に向けて感謝の気持ちを表す「ありがとうキャンペーン」を実施。
中国発クルーズ船の乗客や外国人旅行者を対象に、のぼり設置や観光施設や商業施設でのバッジ配布を行った。
「福岡ファンを育てたい、おもてなしをしたい」というこの動きは地道に続けていくべきものだと思う。このキャンペーンをみた市民も、「アジアの正月=春節」に親しみをもち、ともに楽しむ気分を醸成したいものである(今回の特典は一部日本人にも対応)。
参加施設、店舗に関しても「一緒にやりたい」というところは誰でもウエルカムなのが福岡スタイル! 飲食店や宿泊施設などあらゆる業種のところが参加でき、街をあげておもてなしをできるような広がりを展望しながら、まずは1回目をはじめたい。
最新記事
45カ国400名のデジタルノマドが福岡へ集結、規模を拡大させたColive Fukuoka2024の中身 (2024.12.26)
24カ国から50人が滞在、消費額2000万円超。自治体初 デジタルノマド誘致プログラムが福岡にもたらしたもの (2024.04.12)
芸術を活用した観光振興、世界をひきつける九州のアート・文化芸術コンテンツの造成 (2023.05.31)
文化財の修復過程を観光コンテンツに、収益を保全に充てる熊本城の取り組み (2023.02.24)
タイ政府観光庁に聞く、東南アジアいち早く開国したタイの観光戦略 (2022.07.07)
文化財に泊まる、2泊3日48万円の特別体験プランはいかにして磨き上げられたのか? (2022.04.15)
インバウンド客も満足のツアーが揃う屋久島、鹿児島の「アドベンチャー・トラベル」動向を探る (2022.01.14)
人吉 球磨川くだりの事例に学ぶ、防災・危機管理の重要性。企業経営者が語る災害時に備えたい3つのポイント (2021.06.25)