インバウンドコラム

20回 いま観光の島、沖縄では 何が起きているのか?

2013.05.17

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今回は、台湾からのクルーズ客船の動向を中心に、沖縄のインバウンドの現状について報告したいと思います。

3月29日の早朝、那覇港新港ふ頭8号岸壁(若狭バース)に台湾からのクルーズ客船「SUPERSTAR AQUARIUS」が入港しました。あいにくの雨でしたが、今年度、最初の入港です。

SUPERSTAR AQUARIUSの航路図

SUPERSTAR AQUARIUSは、ゲンティン香港(スター・クルーズ・ピーティーイー・リミテッド)が運航するカジュアルなクルーズ客船です。毎年4月から10月まで週1回、那覇港に寄港し、毎回約1500人の台湾客が観光のため上陸します。基本、3泊4日で基隆―那覇―石垣―基隆(基隆―石垣―那覇―基隆の場合もある。また基隆―那覇往復、基隆―石垣往復も)を航行します。料金は最も安いシーズンで、2泊3日の基隆―石垣往復が9900台湾ドル(約3万3000円)から。1日の単価は約1万円という破格の安さです。

スタークルーズ日本語公式サイト
http://www.starcruises.co.jp
スタークルーズ台湾サイト
http://www.starcruises.com.tw/

 

約1300人の台湾客が沖縄に上陸

那覇港に上陸した台湾人客たち

さて、この日約1300人の台湾客が那覇に上陸しました。

そのうち約650人は、沖縄各地を周遊するオプショナルツアー(岸上観光)に参加します。

お出迎えは、那覇にある台湾系のランドオペレーター、太陽旅行社のスタッフです。そのひとりはこう言います。

「朝8時入港で17時に出港というスケジュールは、観光や食事、買い物を楽しむには十分といえないかもしれません。でも、一般の航空便のツアーでは移動が多くて、かえって自由時間が少ないこともあります。その点、クルーズでは自由観光に出かければ、じっくり買い物を楽しむこともできます。台湾のお客様は食品から家電、生活用品まで、いろいろ買っていかれますよ」。

※クルーズ客のオプショナルツアーの詳細は、中村の個人blog「【前編】台湾発クルーズ客船、那覇寄港の1日ドキュメントhttp://inbound.exblog.jp/20363867/を参照。

 

半数は那覇市内を自由観光

では、残りの約650人はどう過ごすのでしょうか。もちろん、那覇市内に自由観光に出かけるのです。

彼ら個人客の観光をサポートするのが、那覇市観光協会のスタッフです。クルーズ船の寄港する若狭バースの入り口に臨時のツーリストインフォメーション(観光諮訽處)を開設。中国系や台湾系のネイティブのスタッフを揃え、市内に向かう個人客の質問に対応し、用意した観光案内資料や市内マップを渡します。

ツーリストインフォメーション(観光諮訽處)

スタッフを統括する那覇市観光協会の国里顕史さんに話を聞きました。

—— 個人客のみなさんはどこに行かれるのでしょう?

「たいてい国際通りや新都心(おもろまち)のショッピングモールなどに行きます。リピーターも多いので、自分の足でどこでも行かれますよ。なかには日本人と同じように、レンタカーで沖縄本島北部まで遠出される方もいます。

那覇市内では買い物や食事をして過ごします。クルーズのお客様は、那覇に宿泊はされませんが、わずかな時間で一度に買い物をされるので、大きな経済効果が見込めます。沖縄は台湾や上海、韓国からも近いので、クルーズ市場において優位な立地にあります。来春には13万トン級の大型客船が接岸できる国際ターミナルとして整備される予定になっています」

 

国際通りに近い商店街を歩く台湾客。この日、公設市場は日本客より台湾客が多かった
 
中国語(簡体字)と英語、ハングルの表示

※個人客の那覇観光についての詳細は、中村の個人blog「【後編】台湾発クルーズ客船、那覇寄港の1日ドキュメント」http://inbound.exblog.jp/20365044/を参照。

 

翌朝は石垣島へ

多くの客が甲板に出て子どもたちのエイサーに拍手を送る

さて、オプショナルツアーやまち歩きを楽しんだクルーズ客たちは、遅くとも出港時刻(17時)の1時間前には船に戻ってきます。いよいよ那覇ともお別れです。

今年度の初入港ということで、この日は地元那覇の子供たちによるエイサーがクルーズ客を楽しませてくれました。いたいけな子どもたちが精一杯、踊り舞う姿は心を和ませます。

そして定刻通り、17時の出港。客船は大きな汽笛を鳴らしながら、徐々にふ頭から離れていきます。こうしてクルーズ客船の長い1日が終わりました。

このあと、この船は石垣島に向かいます。翌朝、クルーズ客たちは石垣島や八重山の離島を訪ねることになります。

※石垣島の最新事情については、中村の個人blog「新空港開港で石垣にインバウンド客は増えるのか?」http://inbound.exblog.jp/20355879/を参照。

この夏、沖縄では毎週こうした光景が見られることでしょう。

台湾からのクルーズ客船は1990年代から那覇に寄港していました。しかし、一時期、休止していたこともあります。そのため、沖縄県は台湾側に再開してもらうよう強く働きかけたといいます。ただし、大型客船が入港するためには、それなりの規模の港湾施設が必要でした。そこで、沖縄県はもともとコンテナふ頭だった若狭バースを国際客船用のふ頭として整備し、乗降を始めたのが2005年です。県の資料によると、スタークルーズ社の大型客船の定期運航が始まったのは2006年からのようです。以来、毎年4月から10月の夏季シーズンに毎週1回、年間で約30回の台湾客が那覇を訪れるようになったのです。

「AMADEA」の欧米客。カナダのバンクーバーからスリランカまで、約2カ月かけたロングクルーズ

那覇に寄港するクルーズ客船は台湾からだけではありません。翌日(3月30日)には、欧米客を乗せた世界一周クルーズ客船が入港しています。この客船は、初代「飛鳥」を改装した3万トンクラスの「AMADEA」で、SUPERSTAR AQUARIUSに比べると小さいですが、約600名の欧米客が那覇に上陸しました。

※欧米からのクルーズ客船については、中村の個人blog「沖縄には欧米客を乗せたクルーズ客船も寄港します」http://inbound.exblog.jp/20366268/を参照。

 

 

海外からの沖縄ツアーは3泊4日が一般的

このように那覇港は現在、全国トップクラスの国際クルーズ客船の受入港となっています。クルーズ関係者がいうように、日本の南西約600kmに位置する沖縄本島は、東シナ海の中央に位置する絶好の立地にあるのが強みです。

それでも、沖縄県の観光要覧によると、2011年度の沖縄入域外国人30万1400人のうち、空路は18万2500人、海路は11万8900人。市場規模でいえば、空路のほうが大きいことは日本の他の地域と変わりません。

一般に東アジア各国・地域からの沖縄ツアーは3泊4日か4泊5日が主流のようです。香港で日本への送客数がナンバーワンのEGLツアーズ(東瀛遊旅行社)の3泊4日ツアーの定番コースを見てみましょう。※EGL Tour(東瀛遊旅行社)http://www.egltours.com

■港龍直航沖繩4天(ドラゴン航空利用沖縄3泊4日)
5 月6日発 6699香港ドル

第一天(1日目):香港~直航沖繩~波之上神宮
宿/國際級MARRIOTあるいは萬豪SEA VIEW海景房洒店

第二天(2日目):海洋博水族館~觀賞海豚表演~水果樂園試食時令水果~有趣蝴蝶溫室~雀鳥天地館~著名電影『戀戰沖繩』拍攝地萬座毛★
食/網燒燒肉地道美食+多款飲品自助餐
宿/LOISIR HOTEL NAHA 海底露天溫泉及溫泉泳池酒店
※連續2晚入住同一酒店享受旅遊舒適樂趣包海底露天溫泉及溫泉室內泳池

第三天(3日目):漁港海鮮市場~金鎗魚SHOW~海底玻璃生態觀光船~守禮門~世界遺產『首里城』~建築奇觀『樹包厝(樹屋)』~國際通商店街
食/有機名菜健康自助餐+琉球海鮮鍋餐

第四天(4日目):玉泉鐘乳石洞~琉球王國村~熱帶果樹園~玻璃陶器工房~元氣大鼓表演~MAIN PLACE 購物城~機場~香港
(同社のHPから抜粋)

レスリー・チャン主演の香港映画『恋戦沖縄』(2000)

香港の旅行会社なので繁体字が使われていますが、地名だけなので訪問先はだいたいわかると思います。2日目に「著名電影『戀戰沖繩』拍攝地萬座毛」とあるのは、ゴードン・チャン監督の香港映画『恋戦沖縄』(2000)のロケ地が万座毛ビーチだったからです。主演は、いまは亡きレスリー・チャン(張國榮)。フェイ・ウォンやレオン・カーフェイ、ジジ・ライ、加藤雅也らの出演する娯楽作です。

 

 

 

 

福州園で記念撮影する台湾ツアー客

一般に香港や台湾、中国本土の沖縄ツアーでは、華人とゆかりのある福州園や、波之上宮に近い孔子廟を訪ねることが多いようです。

 

 

 

 

「道の駅 かでな」の4階が展望台になっている。「安保の丘」もすぐそば

嘉手納米軍基地を一望できる「道の駅 かでな」を訪ねるツアーもあります。米軍基地という沖縄の特殊な景観を見るためとHPでは紹介されています。

※香港、台湾からのツアーの詳細については、中村の個人blog「沖縄外客トップ2、台湾客と香港客のツアーについて」http://inbound.exblog.jp/20369129/を参照。

 

 

消えた中国客

沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課が2013年1月に発表した「平成24年沖縄県入域観光客統計概況」よると、2012年度の沖縄県入域観光客数は592万4700人と過去2番目で、震災後の回復ぶりを強くアピールしました。そのうち、海外入域観光客数は過去最高で、「年間37万6700人となり、対前年比で9万6700人増加、率にして+34.5%となった」とあります。

これは沖縄の旅行関係者にとっても予想以上の好結果だったようです。中国情勢が下半期に影響したにもかかわらず、外客数が過去最高になったのは、台湾や韓国の新規航空会社就航と夏までのクルーズ客船の寄港数の拡大が貢献していると思われます。

内訳でみると、外客のトップは台湾で約14万人、2位は中国で約7万人、3位は香港で5.8万人、4位は韓国で3.4万人です。ただし、昨年秋以降、中国からの訪問客は激減していますから、2013年上半期の沖縄の外客トップ2は、台湾客と香港客だといわざるを得ません。

実際のところ、昨年飛躍的に増加した(2倍以上の伸び)中国本土客は、2013年5月現在、鳴りを潜めています。北京・那覇線は中国国際航空、海南航空ともに運休、上海線はかろうじて中国東方航空が週4便でつないでいますが、運休もけっこう多いようです。※中国本土客の動向については、中村の個人blog「中国人の沖縄旅行(今は激減、今後はどうなる?)」http://inbound.exblog.jp/20336413/を参照。

それでも、今後は風向きが少しずつ変わっていくかもしれません。中国国際航空が北京・那覇線を7月から運航再開するそうですし、海南航空も(5月2日現在、同航空那覇支店に尋ねたところ、再開の時期は決まっていない)それに続いて、あるいは中国国際航空より先に運航再開する可能性はあります。また関係者の話では、上海線は6月以降、週4便からデイリー運航となるそうです。しばらくは行方を見守るしかなさそうです。

 

沖縄におけるインバウンドの課題とは

こうして日々変転する状況のなか、ある旅行関係者は、沖縄のインバウンド市場について「結果的には中国市場の落ち込みが、かえって香港など他の市場を押し上げた格好になっている」といっています。なんとも皮肉なものですが、これは今年、東南アジアからの訪日客が増えている日本の内地の状況と同じといえます。

琉球新報2013年2月22日によると、沖縄県文化観光スポーツ部は、2013年度の入域観光客数の目標値を630万人(前年度比8.2%増)、外国人客は50万人(前年度比56.3%増)という目標を掲げています。特に後者については、かなりチャレンジングな数値目標だとぼくは思います。中国客の激減が足を引っ張りそうだからです。

個々の市場はともかく、こうした高い目標を実現するためには、いくつもの解決しなければならない課題があることを沖縄の旅行関係者はよく認識しています。ある事業者は、沖縄の訪日客受け入れ体制の課題として以下の点を指摘しています。

現在の那覇空港国際ターミナル

①覇空港国際線ターミナルは、競合する海外のグアムやプーケット、海南島、シンガポールの空港と比較してどうか。“リゾート気分”を感じられるのか?
②外国客のための通訳案内がしっかりしているか。
③Wi-Fiの普及度はどうか。
④中国客はレンタカーを利用できない状況で、公共交通機関がしっかりしているのか。
⑤沖縄ならではの、おもてなしができているのか。

まず挙げられているのが、現在の老朽化した那覇空港国際ターミナルの問題です。確かに、現状はひと昔前の離島の空港といった雰囲気です。ただし、来年には新国際ターミナルが開港する予定です。通訳案内やWi-Fiの普及については、東京でもその遅れは指摘されており、沖縄だけの問題ではないといえます。レンタカーについては、台湾客や香港客は沖縄本島でレンタカーを利用できるけれど、中国本土客は利用できないことから、中国のマルチ観光ビザ取得者のような個人客の交通の利便性をいかに高めるかという課題です。

ハード面の課題は時間がある程度解決してくれるとして、気になるのは「沖縄ならではの、おもてなし」というソフト面での課題です。そもそも「沖縄ならでは」とはどういうことを指すのか。これは海外から見た沖縄イメージはどうあるべきかという問いに直結する問題です。那覇空港国際ターミナルが「競合する海外のグアムやプーケット、海南島、シンガポールの空港と比較してどうか。“リゾート気分”を感じられるのか?」という課題認識は、沖縄が今後どんなリゾートを目指すべきなのか、という問いかけにつながってくるのです。それは、沖縄が自らこうありたいという自己イメージとの整合性をどう図るかという話にもなってくるでしょう。

さらにいえば、沖縄がグアムやプーケット、海南島、シンガポールのようになることがいいことなのか。この点は沖縄の人たちの間でも必ずしも意見が一致するとは限らないのではないでしょうか。ただこうもいえます。自らのあるべき姿について揺らぎがあること自体、グローバル資本によってなかば強引かつ主導的に形成されてきたバリやプーケットといった一見華やかではあるけれど、きわめてポストコロニアルな色彩の強いアジアのビーチリゾートと、そもそも沖縄は違うということです。自主性が担保されているがゆえに、揺らぎが生まれてしまうともいえるのです。

沖縄のインバウンド振興にこうしたいくつもの課題や揺らぎが見られることは、実のところ、日本のインバウンド最前線ともいうべきポジションに沖縄があるという証左です。インバウンド振興では、グローバル化とどう向き合うかが常に問われます。観光の島、沖縄でいま何が起きているのか ――。グローバル化がもたらすさまざまな課題に先駆けて直面しなければならなかった沖縄の姿を知ることを通して、内地にいる我々も多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか。

今回の報告は、3月下旬に沖縄本島と石垣島を訪ねたときの取材を元にしており、ほんの“さわり”にすぎません。沖縄の観光を語るには、もとより全体の入域観光客のわずか5%に過ぎないインバウンド市場の動向だけ追っていたのでは十分とはいえません。また何より本土復帰から40年の歴史をふまえ、現地の旅行関係者が何を考えてきたのか、もっと話を聞いてみなければならないと感じています。近いうちに、あらためて沖縄を再訪してみたいと思います。

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