インバウンドコラム
中国の旅行業界では、「旅行しながらひと稼ぎ」が「当たり前のこと」になりつつある。急速な成長を見せている観光市場の背後で、もう一つ「コンテンツ」という産業チェーンが形成されつつある。旅行記や攻略を書き込むプラットフォームを設置し、優良コンテンツ提供者には報酬を提供するといった方法をとり、一般旅行者からもコンテンツを募集しているオンライン旅行プラットフォームがますます増えている。そして、旅行プラットフォームは、「コンテンツ」を通して、ユーザーとの接点を増やし、より多くのユーザーを獲得しようと取り組んでいる。
高額賞金でコンテンツ募集
4月20日、陝西省西安市で行われた2018年度中国旅行者大会で、旅行コンテンツプラットフォーム「氫気球」が発表されると同時に、1億元(約17億円)の賞金を用意して優良旅行コンテンツを募集するというニュースに驚いた人は少なくない。同プラットフォームは、旅行機関やメディア、旅の達人、一般ユーザーなどを対象に開放され、そのコンテンツは旅行サイトの携程旅行網(Ctrip)や「Qunar.Com」、検索エンジン大手・百度などで共有される。優良旅行コンテンツを書き込んだネットユーザーには、相応の賞金が準備されており、その総額が1億元にもなるという。
同プラットフォームの立ち上げに関して、携程旅行網のコンテンツプラットフォームの商品を担当している高哲堅・プロダクトマネージャーは、「ここ数年、オンライン旅行プラットフォームのユーザーが右肩上がりで増加していたが、現在旅行市場には変化が生じている。それはユーザーを抱え込むことに成功したプラットフォームが、市場で主導権を握ることができるため、旅行プラットフォームはそのコンテンツを充実させることに重点を置いている点だ」と説明する。
そして「3日間の休みが取れた場合、どこへ行くかを決める前に、多くの人はまず口コミや他の人の旅行記をチェックする。そして、旅行から帰ってくると、多くの人は自分でも旅行記を書き込む。ほとんどの人は自分の旅をより良くアピールすることで、他のユーザーにシェアし、一人でも多くの人に見てもらいたいと思っている。そしてそうしたコンテンツは、観光当局や観光地、サプライヤーなどにとってはまさに優れた宣伝の場となり、直接的な広告よりも人々に受け入れてもらいやすい」と分析する。
コンテンツマーケティングでユーザー数6倍に
Mafengwo旅行網や携程などの旅行サイトもこれまで同じような試みを行ってきた。Mafengwo旅行網を例に挙げると、アプリのトップページの目立つ場所に「攻略」と「旅行記」コンテンツがレイアウトされている。Mafengwo旅行網の陳罡CEO(最高経営責任者)は取材に対して、「モバイルインターネットの発展が、旅行の消費シーンに変化をもたらしている。現在すでに『攻略』を参考にした上で、旅行を予約するというのが多くの人の習慣となっており、予約完了までにかかる時間がどんどん短くなっている」と説明した。
そして、「多くの観光業者が、コンテンツを中心とする戦略に転じており、消費者の旅行の各過程における新たな消費の仕方を提供し、消費習慣を形成するよう促している。昨年、米国のあるメディアが伝えた新年の研究報告によると、コンテンツマーケティングの先駆者のユーザーは、追随者より7.8倍多いとしている。また、コンテンツマーケティングを採用しているウェブサイトグループや企業としていないウェブサイトグループや企業を比べると、転化率が約6倍違うのだという」と紹介した。
旅行しながら「ひと稼ぎ」
オンライン旅行プラットフォームのコンテンツマーケティングが始まったことで、一般旅行客にもビジネスチャンスが舞い込んできている。現在、中国全国で、旅行の攻略や旅行記を執筆することを本業としている人は約100人程度で、そのほとんどが副業として執筆している。旅行記を書いている月伊さん(ペンネーム)は、「この業界に携わっている人はまだ多くなく、本業としている人なら、月に数万元(1万元は約17万円)は稼いでいる。でも、私は副業でするほうが好き。スケジュールもハードではなく、旅行記を書くのも気楽。わざわざ美化して書き上げる必要もない」と話す。
また、プラットフォームは、旅行記のクリック回数に基づいて、報酬を支払っているため、月伊さんは、「もしクリック数が10万回を超えたら、数千元(1000元は約1万7000円)の報酬をもらえる。本業としている一部の人やフォロワーが多い人、達人などの收入となると、数倍になるだろう」としている。
旅の達人・北石(ペンネーム)さんは取材に対して、「私は2014年からこの業界に入り、今は本業としている。年収は平均約100万元(約1700万円)。もともとは地方から北京に上京して働いていたが、毎日毎日朝から晩まで働き続ける仕事に疲れて、世界中を旅行することにした。旅の途中で、金に困り、旅行記を書いて稼ごうと思いついた。今は、すでに複数の旅行プラットフォームと契約しており、自分の微博(ウェイボー)のフォロワー数は200万人以上になっている」とした。
しかし北石さんは、ここ数年、旅行コンテンツの発信スタイルにも変化が生じているとし、「今年から、ショート動画の人気が高まっているため、旅行記も文と写真だけではなくなってきた。発信スタイルの変化に応じて、自分たちのスタイルも変えなければ、さらに多くのフォロワーを獲得することはできない。もし、クリック数が多ければ、プラットフォームから報酬がもらえるだけでなく、広告業者や観光地、観光当局からも声がかかるようになり、仕事がもっと増える。旅行記を発信する私たちにとって、大きなプラットフォームのほうがユーザーが多く、良いコンテンツを提供するほど注目も高まる」とした。
最新記事
【人民日報】第85回 科学技術で旅行がさらにスムーズで楽しいものに (2020.05.04)
【人民日報】第84回 ショート動画プラットフォームで「大人気職人」が次々登場 (2020.02.28)
【人民日報】第83回 東京五輪による日本旅行ブーム到来 (2020.02.10)
【人民日報】第82回 中国人観光客の「爆買い」下火に日本の次の一手 (2020.01.03)
【人民日報】第81回 インターネットによる商品販売やライブ配信などの副業が中国で実需に (2019.11.25)
【人民日報】第80回 日本でウィーチャットペイが使える施設が急増中 (2019.10.23)
【人民日報】第79回 「ネットで人気」の中西部都市 (2019.09.18)
【人民日報】第78回 中国企業の進出加速 業界再編を迎えた日本の民泊産業 (2019.08.15)