インバウンドコラム
温水洗浄便器に続き、中国人観光客が夢中になって買い求める日本製品に、「神薬」がある。実際、いわゆる「神薬」とは、決してなかなか手が届かない神秘的な薬ではない。日本のドラッグストアならどこでも見かける、処方箋不要のポピュラーな常備薬なのだが、ネットユーザー同士の口コミによって、いつしか「神薬」と崇められるようになった。
<2015年9月10日>
目次:
中国人観光客の「爆買い」で日本のメーカーは大儲け
念入りな商品開発と革新の細分化
「日本で爆買い」現象を再考
中国人観光客の「爆買い」で、日本のメーカーは大儲け
日本の「神薬」が中国人観光客の間でどれだけブームなっているかを知りたければ、日本の製薬メーカーの販売データを見れば、一目瞭然だ。
小林製薬は7月1日、中国の某メディアに「日本に行ったら必ず買うべきもの」として同社の一部製品が紹介され、日本を訪れた観光客がその商品を続々と「爆買い」したことから、同社の今年第2四半期(4-6月)の売上が前年同期比5倍を上回ったことを明らかにした。
小林製薬製「神薬」の中でも、傷口に塗布すると皮膜を形成してばい菌の侵入を防ぐ液体ばんそうこう、皮膚のトラブルを治す角質軟化クリーム、発熱時におでこに貼って熱を急速に下げる冷却シートなどの売上が激増している。
小林製薬だけではなく、処方箋不要の常備薬を生産している他の製薬メーカーも、中国人観光客の「爆買い」のおかげで大儲けしている。
複数の中国人観光客に尋ねたところ、彼らが買うつもりの日本製常備薬は、おおまかに以下の通り分類できた。第1に、子ども向け薬品:熱冷却シート、咳止めシロップ、虫さされ予防薬など。第2に、保健用品:更年期対策品、美白・痩身用製品、栄養を補い抵抗力を強化する製品、消化促進剤など。第3に、中国ではまだ見かけない、角質軟化剤、各種新製品:皮膚のトラブルを治す角質軟化クリーム、液体ばんそうこう、洗眼薬など。
念入りな商品開発と革新の細分化
総合的に見て、日本製常備薬が中国人観光客の間でもてはやされている背景には、いくつかの客観的な理由がある。まず、販売促進・知名度アップ・口コミ拡大といったインターネットを利用した巧みなマーケティング戦術が展開された。また、円安が続いていることで、日本製薬品のコストパフォーマンスが高まった。日本を訪れる中国人観光客が大幅に増加したのも一因だ。
だが、日本の「神薬」が飛ぶように売れる背後には、日本の製薬メーカーが常備薬市場で念入りな商品開発を絶えず進めていることに根本原因があることは、疑う余地がない。
「常備薬を製造するために必要な科学技術レベルはそれほど高くない。どの国でも製造可能ではないか」と思う人は多いだろう。それならば、日本の製薬メーカーが生産する常備薬には、他国製品とどのような決定的な違いがあるのだろうか。中国人観光客に特に人気がある小児用常備薬を例にして、もう少し深く掘り下げてみよう。
日本では、一般的に、医師は子供に安易に点滴をせず、代わりに子供に「小児仕様」の薬品を処方する。これらの小児薬は、内臓が十分に成長していない小さな子供たち専用に開発されたもので、厳格な安全性が保証されている。親にとって、さらに安心なことは、同じ薬品でも、異なる年齢層の子供に対して、服用量などが更に細分化して定められていることだ。
アニメ・漫画大国の日本では、小児役のパッケージには、子供たちが大好きなアニメキャラクターが印刷されており、説明も、簡単で分かりやすい図で示されている。パッケージが可愛い上、薬の口当たりも悪くない。子供にも服用しやすい味になっており、「子供に薬を飲ませるのは一苦労」という時代はすでに過去のものとなった。さらに、服用効果は極めて高く、価格も良心的であることから、中国人観光客が先を争うように買い求めるのも至極もっともなことだ。
中国国内には、安全で安心して子供に飲ませられる小児薬はないのだろうか。国家食品薬品監督管理局の統計データによると、今のところ、中国国内には薬品メーカーが約4000社あるが、小児薬を専門に生産しているメーカーは全体の5%にも満たず、薬品の90%は、子供が服用できる仕様になっていない。
小児薬の各種指標は、成人薬よりずっと厳格である上、適用対象の年齢層は狭く、味に対しても特別な調整が必要であることは、メーカーの生産・開発コストを押し上げる原因となっている。また、市場ニーズが不安定であり、臨床試験のリスクが大きく、ほとんどのメーカーは、「小児薬」という潜在性の高い分野にあえて闘いを挑もうとはしない。
小児薬のほか、他のいくつかの日本製常備薬も、革新的科学技術を採用し、念入りな製品開発を経た結果完成した優れた製品であるため、中国人観光客の間で極めて人気が高い。
多くの中国人観光客が、日本製常備薬に対して、「優れた製品、合理的な価格、安全で安心して使える」というイメージを心の中に抱いたことだろう。一方、中国製薬品については、定価が高すぎる、特定の人々やあまり多く見られない疾患用の薬が少ない、といった印象を持っており、それほど安心して使えないようだ。
「日本で爆買い」現象を再考
実のところ、中国人観光客に人気がある日本製品は、常備薬に限らない。この種の報道は、さまざまなメディアで頻繁に見かける。日本製「神薬」の大ヒットは、中国の製薬メーカーが、市場を研究し、新製品を開発する上で、さまざまな有益なヒントや参考を提供している。
経済評論家の呉暁波氏が中日両国の製造業をテーマとして著したコラムに、「メイドインチャイナの将来は、人の心を感動させるような製品を生み出すことができるか否かにかかっている。それ以外のところにはない」という、印象深い一節があった。
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