インバウンドコラム

地方創生インバウンドフォーラム 各分野のプロがデータから読み解くインバウンドの現状分析と自治体への提言

2018.06.14

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5月28日にJTB主催、やまとごころと他3社共催の「地方創生」インバウンドフォーラムが開かれた。政府が2020年までに訪日外国人旅行者4000万人を目標に掲げるなか、インバウンドを取り込みたい地方自治体を中心に、多くの観光事業者が集まり当日は定員400名の満席。冒頭では内閣官房長官である菅義偉氏も挨拶に立ち、安倍政権によるビザ緩和の実現など官民一体となってのインバウンド強化を訴えた。JNTOの基調講演と3つのパネルディスカッションなど4時間に及ぶセミナーの様子をリポートする。

 

デジタルマーケティングを通じてデータ蓄積とノウハウ提供へ

基調講演:「デジタルマーケティングと地方創生」日本政府観光局(JNTO) 理事 柏木隆久 氏

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訪日客増に向けての2つの柱
2017年の訪日外国人旅行者数は2869万人に達し、過去最高を記録した。2020年までに4000万人という目標を達成するため、JNTOでは様々な取り組みを行なっているが、まず外国人観光客を増やす方向性として柱が2つある。1つ目はリピーターを増やすこと。政府は訪日外国人のリピーター6割を目指している。リピーターは地方まで足を延ばすので、どの自治体にもこれからチャンスがある。2つ目は新しい外国人観光客を呼びこむこと。アジア以外の特にヨーロッパ各国では、まだ日本を旅行先として認知していない人が約5億人いると見込まれる。それらの人々は長期滞在型の旅行が主流。地方にも滞在する可能性は大きい。

外国人視点のコンテンツづくりで、動画アクセス1億回超へ
2017年10月にJNTOでは新たにデジタルマーケティング室を設置し、大胆な改革に取り組んでいる。1つ目は外国人視点によるコンテンツ作り。2つ目はデータ分析に基づく科学的マーケティングの実施である。これまでのプロモーション手法が本当に効果が出ているのか、再検証した上で今の環境にあった手法に変えていく必要がある。実例として挙げたのが、欧米豪をターゲットに始めたEnjoy my Japanというグローバルキャンペーン。実際に外国人目線による2分30秒の日本紹介動画を作成し、公開したところ、既に1億2千万回再生されているという。

サイトリニューアルで蓄積したデータを自治体やDMOへ横展開
JNTOグローバルサイトでは、今年2月からスマホからアクセスすることを前提にしたデザインに大きくリニューアルし、AIを活用したサイト内検索の高度化も可能となった。このWebサイトをデータマネージメントプラットフォームとして活用し、アクセスデータや検索データを蓄積していくという。今後は、これらを通じて、JNTOが得た知見やノウハウを、サイト改修を希望する自治体やDMOへ横展開していきたいとのこと。具体的には今年7月をめどにガイドラインをまとめ、有償で提供することを目指している。もう1つは、JNTOサイト上で蓄積されたアクセスデータを基に各自治体が狙うターゲット層を絞り、ピンポイントでインバウンド商品をプッシュするサービス。これは今年9月をめどに、有償で提供できるようにしたいという。

 

ターゲットを絞ってピンポイントに、訪日外国人目線で情報発信を

パネルディスカッション1:プロが読み解く、インバウンドの現状分析と提言(1)認知・集客(旅マエ)編
【登壇者】
モデレータ:トラベルボイス株式会社 代表取締役社長 鶴本浩司 氏
パネリスト:エクスポート・ジャパン株式会社 代表取締役 高岡謙二 氏
JTBアジア・パシフィック本社 取締役社長 黒沢信也 氏
株式会社Fan Japan Communications 藤井大輔 氏 

 

インバウンドに積極的に取り組んできた岐阜県が抱える課題
まずパネルディスカッションを進める上で、自治体がもつ共通のインバウンド課題を岐阜県商工労働部の加藤英彦氏が紹介した。岐阜県では2009年から県知事がアジア各国をトップセールスをする形でまわり、空港や港がないにも関わらず2016年には100万人を突破した。しかし2017年には93万人と減少。地方自治体の中ではうまくインバウンドを取り込んでいた好事例の岐阜県がなぜマイナスに転じたのか?岐阜県の加藤氏によると、3つの課題にぶつかっているという。

1つは世界遺産白川郷などメジャーな観光地に頼ったプロモーション、2つ目は現地発着オプショナルツアーが少なく個人旅行者(FIT)に対応できていないこと。3つ目は中国人旅行者の減少。日本全体で中国人旅行者は2017年度は前年比+2.7%だったが、岐阜県に限ると−27.4%だった。

その後、岐阜県の具体例を共通課題として登壇した3名がそれぞれ見解を示した。

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発信者目線から訪日客目線での情報発信への転換が必要
Fan Japanの藤井氏は、アナログでマスにPRするより、デジタルでターゲットを絞ってPRした方が効果的であるとし、その土地に興味がある見込み客に対して継続的にアプローチすることが重要だと指摘。特に予算のかけ方として単年度ではなく、中・長期的な視点を持って欲しいと訴えた。

エクスポート・ジャパンの高岡氏は、ここ3、4年の傾向として旅マエにおける情報取得のユビキタス化を指摘。これまでは情報発信側が発信したい情報を押し出していたのに対し、見たい情報を見たい側が見たいタイミングで見る傾向が強まってきているという。また予算面でも自治体はサイト立ち上げの時はお金をかけるが、その後が続かずいつまでも古いままの情報がサイトに載っていると指摘。コンテンツ作りの上では「外国人目線が重要」と強調した。

JTBの黒沢氏は訪日外国人の国別の特徴をつかむことを重視。個人旅行者が多い成熟した国なのか、団体旅行が主体の観光的にはまだ発展途上の国なのかをまず見極めること。もう一点はツアー自体を行政区分ではなく、観光区分で考えるべきとの見解を示した。

 

マイナーなエリアでも、積極的な情報発信が訪日客の訪問・滞在増につながる

パネルディスカッション2:プロが読み解く、インバウンドの現状分析と提言(2)来訪・回遊・消費・満足(旅ナカ)編

【登壇者】
モデレータ:トラベルボイス株式会社 代表取締役社長 鶴本浩司 氏
パネリスト:株式会社ナビタイムジャパン インバウンド事業部部長 藤澤政志 氏
株式会社JTB 国内仕入商品事業部 訪日インバウンド企画部長 佐藤善行 氏
株式会社やまとごころ 代表取締役兼インバウンド戦略アドバイザー 村山慶輔 

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次に、旅マエにおける観光地の認知のパネルディスカッションを受け、旅ナカにおける重要な視点を3名の登壇者が議論した。

外国人が見つけづらい地域の情報発信やコンテンツ販売が訪問増へのカギに
ナビタイムの藤澤氏は「旅マエにどれだけその土地の情報を見たかで旅ナカの着地が変わる」との見解を示した。具体例としてJapan Guideのサイト上で岐阜県下呂と妻籠馬籠の2つの閲覧PVを比べると、PVが多い妻籠馬籠のほうが実際に滞在者数も多くなっている。PV数と滞在者数が比例関係にあることがデータで立証されている。自分の町が周りの町とどうリンクしているか?もし2つの町が同じ魅力だった場合、どう差別化してアピールするか、が重要だという。

JTBの佐藤氏は「日本を立体的に見せること」を強調。JTBサンライズツアーは訪日外国人向けツアーとしては業界No.1を誇る。その理由はJRパスや広域バスのフリーパスなど交通チケットと、大相撲の観戦チケットの両方を販売できるところにある。外国人が行きにくい、予約の方法が見つかりにくい分野の商品を揃えていることで強みを発揮している。特に旅ナカで人気なのが、中部エリアの高速バス会社が連携して作った昇龍道パスだという。

データや他地域の事例から読み解く岐阜県への4つの提言
やまとごころ代表の村山は岐阜県への提言として4点をあげた。
1つ目は一極集中からの脱却。東京海上日動火災保険が発表した、2017年度Twitter全量データをベースした外国人インバウンド調査に基づき、岐阜県の話題量とポジティブ率の分布票を提示。定番かつ満足度の高い体験として飛騨古川のSatoyama Experienceが、一方まだ認知が低いが満足度が高い場所として多治見モザイクタイルミュージアムが出てくる。このように世界遺産の白川郷や高山だけでなく、多治見や他の地域にも実際外国人は訪れており、マイナーエリアの情報発信強化が望まれるとした。
2つ目は外国人インバウンド調査結果から、岐阜県への訪問者の嗜好性として顕著な高齢者、ベジタリアン、エコツーリストに合わせた旅行商品を作ることが重要と指摘した。
3つ目はリピーター対策の強化。旅館に泊まる際、外国人観光客には夕食は別が定説になっているが、城崎温泉の事例では実は夕食付きプランの方が満足度が高く、その結果、他の旅行者にも勧める傾向が強いことがわかった。満足度が高いとリピーター化しやすい。
4つ目はインバウンド受け入れができる人材育成を訴えた。

 

データとリアルな情報を組み合わせて、訪日客にとって魅力的なツアー造成を

パネルディスカッション3:旅マエと旅ナカを分析した上での「統合戦略」を
【登壇者】
モデレータ:トラベルボイス株式会社 代表取締役社長 鶴本浩司 氏
パネリスト:岐阜県商工労働部 観光国際局 海外戦略推進課 加藤英彦 氏
株式会社JTB 取締役 訪日インバウンドビジネス推進部長 坪井泰博 氏

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認知・回遊・消費の3側面から岐阜県ができること
2つのパネルディスカッションを受けて、冒頭、地方自治体の課題提議をした岐阜県の加藤氏、JTBの坪井氏が再登壇し、全体の総括を行なった。まず坪井氏は認知、回遊、消費の3つの面から岐阜県への具体的提言を行なった。

認知面で、外国人が日本を訪れる際の興味関心を調べると、アジアでは日本食や自然・景勝地が1、2位を占め、伝統文化体験はトップ5には入らないのに対し、欧米豪では伝統文化が3位に入ってくる。欧米豪を取り込むには伝統文化体験が有用である。

回遊面で、岐阜県へ訪問前にどこにいたかを調査すると愛知県が一番多く、次いで石川県、富山県となっている。岐阜県単独だけでなく、周辺の自治体と連携して移動しやすいルート作りが不可欠。

消費の面で、 朝市や星空ツアーなど、朝と夜のコンテンツを造成することで更なる消費につながる。

これらの消費や集客力など各種データを基に自分の県がどういうポジショニングにいるのか掴むことが重要であるとして、JTB総研が提供する予定の「訪日インバウンド向け地域判断ツール」を紹介した。これは代表的な15カ国のうち、どこが最も効率的なターゲット国になりうるか、どの県がライバル県になるかなど比較・検証できるもの。岐阜県の場合だと、ターゲット国は韓国、国内競合エリアは山梨県と判定が出た。JTBではこの地域診断ツールを各自治体でも活用してもらいたいと訴えた。

地方自治体担当者として痛感した3つの視点
岐阜県の加藤氏は今回のプロによるパネルディスカッションを聞き、自治体担当者として痛感した点を3つ挙げた。
1.ターゲットを絞った予算のかけかた
2.行政区分ではなく観光区分での観光ルート作り
3.観光消費額データの読み取りかた
国別の消費額データでは中国人は爆買いしていると出ているが、空港や港がない岐阜においては、荷物になるので100円ショップやドラッグストアがあっても中国人はお土産をほとんど買わない。データからは読み取れない、リアルな旅行者の動向や生の声を集めてツアー造成に活かしたいと締めくくった。

各自治体とも限られた予算の中、どうやって効果的にインバウンドを取り込むか?様々な観光データをプロの目線で読み解き、効果的なターゲットを絞る。デジタルが万能ではなく、デジタルとヒューマンタッチを絡めた総合力で更なるインバウンド発展を官民一体で実現したい。

 


【開催概要】
2018年5月28日 (月)13:00~17:00

「地方創生」インバウンドフォーラム
~プロが読み解く、インバウンドの現状分析と提言~
場所:虎ノ門ヒルズ
主催:JTB
共催:株式会社ナビタイムジャパン、エクスポート・ジャパン株式会社、株式会社Fun Japan Communications、株式会社やまとごころ

 

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