インバウンドコラム
JNTO(日本政府観光局)では、北京、上海、香港に事務所を設置し、訪日プロモーションを実施している。その3カ所の事務所次長の講演による『中国市場テーマ特化型情報交換会』の様子をレポートする。
中国から海外へのスキー旅行は“日本”が圧倒的な人気
まずはじめに登壇した北京事務所の北祐輔次長は、『中国市場におけるスノーツーリズムの可能性』について講演した。
中国政府は、開催が決まっている2022年冬季北京オリンピックに向け、ウィンタースポーツの振興に力を入れており、中国のウィンタースポーツ人口を2022年までに3000万人に、将来的には3億人にしたいという目標を掲げている。授業の中でウィンタースポーツを取り入れていく学校もあり、オリンピックが近づくにつれ、またはオリンピックを経験することで、中国におけるウィンタースポーツは成長していくと見られている。
中国で発行されている「2018年中国スキー産業白書」の資料などによると、海外スキー行に行く中国スキー愛好家のメイン層は25~40歳で、海外のスキー旅行の目的地としては圧倒的多数の第1位で65%の人が日本を選択しているという。1回の海外スキー旅行での予算は8000元~1万2000元(日本円で約12~18万円)で、旅行日数は6~8日程度だという。
また、「2018年中国スキー産業白書」では中国のスキー場のタイプについても言及。中国のスキー場の75%は初級者コースのみのごく簡単な施設で、雪遊びを楽しむための観光体験型のライトなものとなっている。利用する90%以上が初心者で、近くに住む人が訪れ、2時間程楽しむタイプのスキー場だという。
大都市の郊外にある、中上級者向けコースを一部含んだ平均滞在時間3、4時間程度のスキー場は全体の22%。いわゆる日本のスキー場のような初級~上級者向けコースまでを有し、宿泊施設をも持つスキーリゾートの数は限られており、中国のスキー場全体のわずか3%となる22カ所しかないという。
このように、中国におけるウィンタースポーツはそこまで本格的なものではなく、他の観光の途中に楽しむ程度のものが主流ではあるが、今後メインストリームとして広がっていく可能性を持っている。「中国からのウィンタースポーツ客を誘致する際にも、雪遊びができればという程度の初心者層を狙い数を目指すのか、あるいは中国では十分にウィンタースポーツを楽しめていないので日本に滞在する1週間の3,4日をがっつりとスキーをしたいというニッチな層を狙い数は少なくとも長期で滞在してもらいたいのか。どちらへのプロモーションをしていくのかしっかりとターゲットを定めていくことが大切だ」と、北氏は締めくくった。
訪日クルーズの母港が1港から8港に増加
続いて登壇した上海事務所の尾崎健一郎次長は『訪日クルーズの発展と課題』について講演。2006年コスタクルーズが運行をしたことで始まった中国からの訪日クルーズの歴史や、訪日中国人の約25%を占めているクルーズで来日する中国人数を説明。これまで順調に伸びてきていたものの、2018年の訪日クルーズ中国人数は202万人と前年に比べて7%マイナスとなった背景を分析してくれた。それによると、2017年中国政府がクルーズ船の韓国寄港を禁止したことにより、それまで低価格の旅行代金で、韓国と日本の2カ国に行けていたのが、1カ国にしか行けなくなったこと。また、「中国人がクルーズで落とすお金は他の国のクルーズ客よりも30%高い」との数字が出てから、各国がこぞって中国でクルーズを就航させ始めたことにより供給過多になったことなどの要因から、2018年の訪日クルーズ利用客が減ったと分析している。2019年のは2018年より10%ほど減ると予測されている。
クルーズ船の乗客の特徴としては訪日客全体の年齢より高齢の人が多く、3世代や老人会の仲間で利用する人も多い。
日本の寄港地では、有料のツアーが用意されているものの、ほとんどの乗客はクルーズ商品を販売した旅行会社が手配した無料ツアーに参加し、入場料のかからない観光地を巡り、免税店に連れまわされるばかりで、旅行者の満足度が上がらないという問題点も指摘した。
訪日クルーズのトレンドとしては、訪日クルーズ就航時は上海だけだった訪日クルーズの母港が、2019年は8港(上海、天津、厦門、南沙、深圳、青島、大連、蛇口)と増えていること。船の大型化、長期路線が増えていることなどから、中国各地の需要を取り込婿とで安定した数のクルーズ客が保たれるとコメント。
クルーズに取り組む地域へのアドバイスとしては、
①クルーズ船社へのアプローチ:クルーズの寄港地を決めるのはクルーズ船社で、地元の港を寄港先に組み込んでもらうためには、旅行会社ではなくクルーズ会社へのPRが重要。また、寄港地観光の満足度を高めるには、質の低い無料ツアーばかりを手配している旅行会社ではなく、有料のツアーを販売しているクルーズ会社に働きかけて、地域の観光素材をツアーに組み込んでもらう必要があること。
②寄港地観光の上手なPR:寄港したらどのような体験ができるのかや、季節のイベントがPRできると、寄港地に取り入れてもらえる可能性があること。
③電子決済の導入:クルーズ船は両替レートが悪く、両替する人は少ないため、AlipayやWechatpayなど中国電子マネーでの支払いができるなら、買い物をする可能性が上がる。などを伝えてくれた。
親子旅行は、子供向け体験学習のコンテンツが重要
続いて登壇した香港事務所の中山友景次長は、『中国市場 親子旅行について』講演。訪日中国人の入国者数の分析から、0~9歳の増加幅が2014年と2018年の比較では4.0倍となっており、全世代の中でももっとも大きいと紹介。時期的には7~9月がもっとも多く(中心となるのは7月中旬~8月の夏休み期間)、2番目に多いのは1~3月の旧正月を中心とした冬休み期間であること。親子旅行における1人当たりの平均予算は1万5000元~1万9,999元がもっとも多く、北京、広州、瀋陽からの訪日客の場合は、2万元~2万9,999元がもっとも多くなっているという。
親子旅行で重視する環境は条件としては、1,2位は「食事の安全性」「治安が良い」で、安心安全が重視。3位は「子供の教育・経験」で学びを得る体験も重視されていることを紹介。親子旅行をターゲットとする場合は、子供向け体験学習のコンテンツが重要とし、親子旅行向け商品や体験学習コンテンツの事例などを詳しく紹介してくれた。
また、新しい傾向として両親帯同旅行市場のポテンシャルも紹介した。
その後、3人の次長が中国各都市の特徴などを比較しながら、現在の中国市場の特徴を説明。訪日客4000万人に向けメインとなる中国からの今後の訪日客の見通しなどを説明、情報交換会が締めくくられた。
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