インバウンドコラム

アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.7 withコロナ時代のホスピタリティ、観光事業者やガイドの新しい役割とは

2020.06.05

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日本では緊急事態宣言が解除され、経済活動再開に向けた動きが見え始めるなか、アフターコロナの観光業の変化をどう捉え、今何をすべきなのか。
今回は日本のコンシェルジュの草分け的存在である阿部佳氏(以下、阿部)と外国人観光客向けツアーを展開するノットワールド代表の佐々木文人氏(以下、佐々木)をゲストに迎え、withコロナ時代に変わる旅行者のニーズを踏まえ、今後求められるガイド像はどうなるのかなど話を伺った。モデレーターはやまとごころ代表取締役の村山慶輔(以下、村山)が務めた。

 

1)アフターコロナの観光において旅行者ニーズはどう変わるか。

安心安全がますます重要、感染防止策や地域の歓迎度合いも指標に

村山:アフターコロナでは消費者のニーズはどう変わるでしょうか。

佐々木:消費者目線から3つの変化があると考えています。1つ目は、マクロな視点で見て経済的な余裕がなくなることによるレジャー支出の減少、2つ目は安心・安全の重要視、3つ目は在宅勤務などによるITリテラシーの向上です。安心・安全については、旅先となる地域において単に感染防止策が講じられているかだけでなく、その地域が旅行者を歓迎しているかどうか、敏感になるかもしれません。

阿部:加えて、安心安全とのバランスを取りながら近場に観光する人が増えること、ニーズの多様化が進むことが考えられると思います。衛生観念や価値観が多様化し、訪れる場所や一緒に旅行する人数、サービスの許容範囲など、様々な点において、より多様な考えを持つ人たちが出てくるでしょう。それに的確に対応できるかが今後重要になってきます。

 

観光客の多様化、マイクロツーリズムが新しい旅行スタイルの一つ

村山:多様化が進むことで、新しい旅行スタイルも出てくるでしょうか。

佐々木:近場を観光するマイクロツーリズムは確実に増えると思います。なぜなら、感染リスクを考え、旅行者とガイドの双方が長距離移動を敬遠するでしょうし、遠出したくても経済的に負担が大きいことも考えられます。

阿部:「近場を楽しむ」というのは観光に対してだけでなく、アフターコロナ時代のライフスタイル全般において、ひとつのキーワードと言えると思います。自粛期間中に時間の使い方や家族との過ごし方を見つめ直した人も多いと思います。身近な場所で豊かな時間を過ごすことが、今後の日本では新しいスタイルのひとつとなりそうです。

村山:やはり、団体旅行や混雑した観光地は敬遠されるでしょうか。

阿部:家族単位での旅行や、趣味の仲間同士など知っている人同士の小グループで自由な旅行スタイルは増えると思います。

佐々木:団体旅行は手軽で安いのがメリットでした。それに代わるものとして、今後は小グループ単位でコストメリットが感じられるものが出てくれば人気になるかもしれません。

 

2)withコロナ時代にも選ばれるガイドになるために必要な要素とは。

地域を熟知しネットワークを持つことが、より一層ガイドに求められる

村山:消費者の変化を踏まえた上で、今後も選ばれ続けるガイドになるには、どのような要素が必要でしょうか。

佐々木:単なる通訳や知識だけなら、テクノロジーを使えば解決できます。地元に詳しいガイドと一緒だからこそ安心感があるなど、人によるガイドならではの付加価値をつけることが必要です。また、専門性の高い有料ガイドは富裕層において今後も一定の需要があると見込んでいます。

阿部:コロナ以前から、ガイド帯同の旅行スタイルは徐々に特別な贅沢ではなくなり、豊かな旅の体験として増えてきていました。今後旅行のFIT化が進むにつれ、ますます一般的なものとして普及すると思います。地域の外から来た旅行者にとって、その場所にある施設の安全性を確認するのは難しいので、地域を良く知っているガイドの需要は高まると思います。お客様の多様な気持ちを読み取れるかどうか、地域のネットワークを持っているかがさらにポイントになるのではないでしょうか。
また、今後お客様のご要望の幅が想像以上に広がる中で、一人の力での対応が難しくなるでしょう。その時にどれだけ助けてくれる人がいるか、チームで動けるかが、臨機応変に対応するために必要になるでしょう。

佐々木:おっしゃる通りです。コロナショックが起こる前から地域とガイドの関係には課題がありました。例えば、ゲスト対応に集中するあまり、周辺の店に配慮ができず、地域の方々からガイドが注意されるケースも見受けられました。今後は、ゲストと地域の両方が満足できるよう、地域とのネットワーク作りはますます重要になってくると思います。

 

地域から選ばれるガイドになるには誠実さが不可欠

村山:このガイド、このホテルから紹介を受けた旅行客なら歓迎したいと地域の方々から選ばれるためにはどのような観点が必要でしょうか。

阿部:非常に重要なところですね。それは、誠実であるかどうかに尽きます。もう一点は目先のことだけでなく、観光を通じて地域活性化につなげるという目的意識をはっきり持ち、行動で示すことではないでしょうか。

佐々木:誠実さはとても大切ですね。例えばですが、地域の店から何か注意を受けたときに、その声と誠実に向き合い、きちんと対話することで一歩前進します。築地ではガイド認定制度をはじめましたが、他の地域や自治体でも研修制度を整えて、認定証を持ったガイドが連れてくる旅行客であれば地域全体で受け入れるといった体制も一つだと思います。

 

選ばれるガイドになるためエンターテインメントと掘り下げる力を身に付ける

村山:テクノロジーの発展と共にガイドに求められる役割も変わるでしょうか。

阿部:テクノロジーで代替できる部分はむしろ積極的に置き換えて、人としてのガイドが本来すべきことに特化すればいいと思います。例えば、旅行客の興味を掘り下げて彼らの想いにあったものを選ぶこと、日々変化する旅行客の気分や観光地、お店や施設の状況を見ながら、それらをつなぎ合わせてオリジナルのものを作り上げることは人にしかできないと思います。

佐々木:ガイドの価値は2つあると思っています。1つは、エンターテイナーとして楽しませる力を養うこと、もう1つは掘り下げる力です。掘り下げるためには、地元とのネットワークを作ることも大切ですが、「このゲストは○○に興味持っているのではないか」と新しい視点をもって、ゲストに問いかけながら興味を引き出していくこと、つまり質問を考える力も必要だと感じています。今の技術では、機械が「質問に答える」力はあっても、「質問を考える」ことは難しいので、これは人にしかできない価値だと思います。

村山:そういう力はどうしたら身に付くのでしょうか。

佐々木:ゲストが真に何を求めているのか、常に相手の気持ちに寄り添って考え続けることだと思います。日々のコミュニケーションの中で、相手が何を求めているのか、面と向かって向き合ったときに考えると同時に「あの人それを求めていたのかな、本当はもっとこういう風に言った方がよかったのではないか」と後で振り返って考え続けることが大切かなと思います。

阿部:プロとして、日頃から相手の気持ちで考える習慣をつけること、自分自身の考えや価値観、立場などを横に置き、その人自身に興味を持つことだと思います。「相手の立場に立って」と言っているうちは、まだ自分自身の立場や考えが残っていて、相手の気持ちで考えられていないということだと思います。

 

バーチャルツアーの可能性 リアルとは違う価値の提供

村山:観光におけるバーチャル化、オンライン化の可能性や、そこでのガイドに求められる役割についてはどう見ていますか。

佐々木:当初、バーチャルでツアーは難しいと感じていましたが、今は想像以上の可能性があると感じています。リアルツアーのオンライン置き換えでなく、バーチャルやオンラインだからこそできる価値を提供したり、工夫次第でリアルツアーへの誘導としても活用できるんじゃないかと思います。我々も、事前に商品を届け、参加者が皆同じものを持って、同じ時間を共有できるようにし、コロナ収束後は、現地を訪れるきっかけになるチケットを送り届けるといったオンラインツアーも企画しています。

阿部:オンライン上でガイドがその地域の歴史や背景、うんちくなどと共にご当地の名物を紹介したら、人気コンテンツになるかもしれないですね。また、それをきっかけにその商品を実際に買っていただければ、消費にもつなげることができます。

佐々木:バーチャルやオンラインツア―のガイドは、画面越しのゲストにいかにして楽しんでもらうかの工夫も必要です。ガイド自身のエンターテインメント力の向上にもつながると思いますし、国内外に直接ファンを作る好機とも言えます。地域の店や生産者とのネットワーク作りにも一役買ってくれるでしょう。行動が制限される今、バーチャルツアーを通じて実現できることもたくさんあります。

 

3)ホスピタリティはどう変わるか

時代と共にニーズは変わるが、ホスピタリティの本質は不変

村山:アフターコロナ時代にはホスピタリティはどう変化するでしょうか。

阿部:SARSや3.11も経験しましたが、今回のコロナショックは、日本の観光にとっては、さらに大きな影響があったと思います。でもそれでもなお、ホスピタリティの本質は全く変わりません。相手の望むものや提供できることは変わる、つまり、サービスの在り方は変わりますが、ホスピタリティについては「相手の求めていることを察知して、想像以上、期待以上のものを提供する」という本質的な部分は変わらないと思います。

佐々木:常々ガイドの皆さんにはゲストへの愛、地域への愛、ガイド業への愛を持ってほしいと伝えています。冒頭でゲストの多様性が広がるとの話がありましたが、感染リスクに敏感な人、鈍感な人、レストランやホテルにどの程度の清潔さを求めているかなど、実にさまざまです。こうしたニーズに応えられるよう、今後はより地域側をケアしなければいけない時代かもしれません。

村山:最後にガイド業の方々へメッセージをお願いします。

佐々木:人と地域を結びつけるガイドは魅力的な職業です。まだまだ厳しい状況が続きますが、観光への灯は絶やさず、今できることに取り組んで共に乗り切りましょう。

阿部:「観光」の意味を改めて考えると、観光は観光事業者がすることだと勘違いしている人も多いのですが、その地域に住む全員が主体です。自分たちが住む地域の良さを発見し、地域の外に向かって「見に来てください」と呼び込む役目を、ガイドとして担ってほしいと思います。ガイド自身が地域を動き回って、旅行客、ホテル、地域のお店、DMOなどさまざまな点と点を結びつけて面をつくり、拡げる役割を果たしてくださることを期待しています。

村山:コンシェルジュの方にもメッセージをお願いします。

阿部:お客様のニーズを的確に把握し、適切につなげるという基本は変わりません。今後は想像以上に多様化するご要望、ご希望に対応するため、常に情報をアップデートし、信頼できるネットワークを構築しておくことが大切です。

観光においても、ようやく量より質を考える時代に変わりました。旅の質を高めていく努力をしましょう。先行き不透明な状況においては、どうなるか様子を見るのではなく、どうなっても対応できる自分にしておく必要があると思います。

【登壇者プロフィール】

K plus代表 阿部 佳氏

ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル、グランドハイアット東京でコンシェルジュとして活躍し、コンシェルジュの世界組織『レ・クレドール(Les Clefs d’Or)』の名誉会員。ホスピタリティの精神に基づき、職責をこえて分け隔てなく他人のために尽くした人に与えられる「The Best Hospitality Prize of the Year 2000」を受賞。明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授、ホスピタリティ・ツーリズム総合研究所所長。

株式会社ノットワールド代表取締役 佐々木 文人氏

株式会社損害保険ジャパンを経て、ボストン・コンサルティング・グループへ。4年間の在職中に、営業生産性向上・組織改革・新規事業開発のプロジェクトに従事。退職後、1年間の世界一周新婚旅行を経て起業。「日本のガイドの質を世界一に」を目指してゲスト・地域・ガイド目線に立ったガイドコミュニティJapan Wonder Guideも運営する。

 

【開催概要】

アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.7
「withコロナ時代のホスピタリティ」
日時:2020年5月29日(金)11:00~12:00
場所:ZOOMウェビナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYoutubeアーカイブ配信はこちら

 


【今後開催予定のセミナー】

◆アフターコロナの観光・インバウンドを考えるvol.8「世界一幸福な国フィンランドの観光戦略 ~ライフスタイルで世界を惹きつける秘訣とは?~」

2020年6月5日(金) 16:00~17:00

◆コロナショック後のインバウンド入札案件の変化と今後

<応札未経験者対象>
■2020年6月17日(水) 14:00〜14:30
■2020年6月30日(火) 14:00〜14:30

<応札経験者対象>
■2020年6月11日(木) 14:00〜14:30
■2020年6月25日(木) 14:00〜14:30

 

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