インバウンドコラム

withコロナ時代の観光戦略 vol.2 〜観光ニューノーマルを乗り切る衛生基準とその実践〜

2020.07.20

印刷用ページを表示する



7月末から実施される国内旅行喚起策Go toキャンペーンを前に、各地の観光施設では旅行者を迎え入れる体制づくりが急ピッチで進められている。営業再開した施設がクラスターの発生源にならないため徹底した感染防止策が求められるが、何をどこまで実行すればよいのか悩む声も多い。

今回はゲストに株式会社サクラクオリティマネジメント代表取締役の北村剛史氏を迎え、宿泊施設における安心・安全の認証制度と、観光ニューノーマルを乗り切るための衛生面での具体策について詳しく話を伺った。

 

観光立国を目指す上で欠かせない、世界標準の宿泊施設認証制度

サクラクオリティとは、2018年からスタートしたホテルや旅館など宿泊施設における安心・安全の品質を認証する制度。一般社団法人観光品質認証協会では現在、13の観光圏、18のDMOと連携して、宿泊施設の品質認証と品質向上プログラムを展開している。

欧米では5つ星ホテルと呼ばれるような格付け制度が普及している。アジア・オセアニア地域でもほとんどの国が何かしらの格付けや認証制度を取り入れており、導入していないのはシンガポール、日本、北朝鮮だけだったという。こうした現状から、北村氏は「世界中の旅行者を迎える観光立国を日本が目指すなら、観光サービスレベルについて客観的でわかりやすい指標が必要」と、この認証制度を始めた背景を振り返った。

 

日本らしい認証制度として、安心・安全を軸に客観的に評価

各国の格付けや認証制度では施設のハード面を評価基準とするケースが多いが、サクラクオリティでは安全・安心を基準に置いた点が大きな特徴だ。客室などハード面の情報や接客態度などはクチコミで情報を得ることができるが、公衆衛生や防災対策、厨房の清潔度など安全、安心に関する情報を一般旅行者が事前に知るのは難しい。

実際にアンケート調査をすると、ホテル選びの際に気になる項目として安全・安心を挙げる人がシティホテルやビジネスホテルでは約40%程度、旅館・リゾートホテルでは約70%にも達するという。

評価項目はチェックインからチェックアウトまでの34シーン、19のサービス要素において、合計2140項目におよぶ。海外はハード面に関する評価がほとんどだが、サクラクオリティではソフト面が約半数を占めるのが特徴だ。

 

感染防止のための具体的な手順がわかるマニュアルを策定

また、北村氏はコロナ発生直後から医師や研究者など衛生面における専門家と共に、いち早く感染症対策実践マニュアルの作成に着手した。世界各国の大学や研究機関で公表されたデータをもとに、効果のある消毒液や感染防止方法を随時更新し、7月5日現在でサクラクオリティ安全行動基準第5版を公開した。宿泊施設事業者だけでなく、誰でも無料でダウンロードすることができる。

5月14日に国と業界団体によるガイドラインが発表されたが、あくまで大きな指針を示すものだ。ドアノブを消毒するというガイドラインを受けても、どの薬剤でどう拭くのかまでは書いていない。サクラクオリティ安全行動基準では、消毒に効果がある薬剤や何時間おきに清掃するのかなど、お客様と働くスタッフの両方を守るための徹底した行動指針を示している。特に靴を脱ぐ文化である日本ならではの感染症対策として、客室床面の清掃方法や布団の取り扱いなども具体的に書かれており、いざ現場でやろうとしたときの具体的な手順書として、サクラクオリティ安全行動基準は非常に役立つ。

Go toキャンペーンが始まれば、宿泊施設がクラスターの発生源になるリスクがある一方、サクラクオリティ安全行動基準に則って、消毒衛生管理を徹底することで、ホテルが地域の安全シェルターになりうる好機だと北村氏は期待している。ホテルで実際にどういう薬剤を使って消毒しているかという情報は、地域の住民や飲食店などの観光事業者にとっても参考になる。

安心・安全と衛生管理における認証制度を通じて、宿泊施設がお客様との信頼関係を築き、ファンビジネスにつなげるチャンスだと訴える。

 

ホテルやDMOのなかに感染症対策のプロ人材を育成しておく

感染症との長期戦を見込んで、北村氏は感染症対策のプロ人材をDMOや自治体の組織に複数育成する必要性を説いた。人材育成のための動画による感染症対策教育プログラムを準備し、今月中にも公開する予定だ。まだ感染が広がっていない地方においては特に意識改革が必要で、感染症のプロ人材が地域の先生となって対策を進めるのが効率的だ。

感染症対策のために人手もコストもがかかり、尻込みする施設も多いかもしれないが、客自身が安心・安全の付加価値として宿泊料金に上乗せされても払いたいという人がほとんどなのでぜひ取り組んでほしいと北村氏は訴える。また将来、インバウンド客が戻ってきた際にも、地域全体で徹底した衛生管理ができているということが強みになるはずだ。

最後に北村氏は「Go toキャンペーン前の今こそ感染症対策をしっかり講じて、安心してお客様を迎えられるような体制を一緒に作り上げていきましょう」と呼び掛けた。

 

【登壇者プロフィール】

株式会社日本ホテルアプレイザル 代表取締役
株式会社サクラクオリティマネジメント 代表取締役
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
北村 剛史氏

 

 

 【開催概要】

withコロナ時代の観光戦略 vol.2〜観光ニューノーマルを乗り切る衛生基準とその実践〜
日時:2020年7月10日(金)15:00〜16:00
会場:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYoutubeアーカイブ配信はこちら

 


【今後開催予定のセミナー】

◆withコロナ時代の観光戦略 vol.4 〜オーバーツーリズム:観光に消費されないまちのつくり方〜

2020年7月31日(金) 16:00~17:00

最新記事