インバウンドコラム
政府は新型コロナウイルス感染症対策の入国制限を大幅に緩和する方向だが、グローバルにおける観光市場の見通しはまだまだ明るいとは言い難い。インバウンド旅行者の再来に向け、今何ができるのか。
今回はゲストにKlook Travel Technology合同会社 日本事業開発部アソシエイトディレクターの増田航氏を迎え、コロナ禍における旅行のグローバルトレンドと今後の見通し、またKLOOKの回復に向けた新たな取り組みなどを伺った。
旅のニューノーマル、まずは少人数、家族、個人旅行
KLOOK(クルック)は、旅ナカ商品をオンラインで販売するプラットフォーム。デジタル技術を強みとし、世界各国のサプライヤーと旅行者を繋ぐ場を提供している。同社では、インターネット上で検索されるワードを分析することで人気や動向を探っており、そこから見えるアフターコロナの旅のニューノーマルについて増田氏は次の5つのキーワードを挙げた。
1つ目に挙げたのは少人数、家族、個人旅行(FIT)だ。アジア市場では、コロナ以前から一人旅もしくは少人数旅行は当たり前の環境が既にあったそうだが、アフターコロナにおいてはその状況がより加速し、アジア市場が一人旅トレンドを牽引していくとみている。一方で欧米では現在のところ一人旅の需要はそれほど高くないそうだが、アジアと同様、大人数での団体旅行やパッケージ旅行は避けられ、少人数での旅行が増加する傾向にあると分析しているという。
2つ目は、若年層からの旅行マインド回復を挙げる。真っ先に動き始める若年層へ訴求するためのキーワードは、「インスタ映え」はもちろんのこと、旅行のコンテンツや申し込み・購入などが全てオンラインで完結する「オンラインアクセス」が大きなポイントになると増田氏は語る。
新市場「ステイケーション」やアウトドアも需要増
3つ目に、日帰り・週末旅行+ステイケーションを挙げた。日帰りや週末旅行など、期間を短く設定した需要が増えている中で、移動に時間をかけず近場のホテルなどで非日常を楽しむ「ステイケーション」という新市場が生まれているという。
4つ目は、アウトドアアクティビティに対する需要の高まりだ。屋外での開放的な環境に対する需要の高まりは、KLOOKの各国の販売実績からも明確に読み取れるという。
5つ目として一番重要になってくるのが衛生意識の高まりだという。各国でガイドラインが策定され、事業者はそのガイドラインを順守した上でユーザーに対策を行う姿勢が必須となる。ただし、現時点では国ごとに安全の基準やロゴマークが異なるため、特にインバウンド旅行者が理解しにくいものになっているのではないかとの指摘があった。
コロナ禍からの回復に向けた取り組みは段階的に
次に、同社の回復に向けた取り組みについて、段階的アプローチを踏まえて伺った。
緊急事態宣言下においては、どの国においてもステイホームが強いられる。ロックダウンが終わって経済活動が再開してからは、地元探索や近場で楽しめるアクティビティ、マイクロツーリズムの展開から始め、その後、国内都市間を移動する旅行市場にフォーカスをあてた取り組みを行う。ここまで進んだ所ではじめて海外旅行が見えてくるが、それは2021年以降になるだろうと予測しているという。
KLOOKが注力する3分野
回復までの長い道のりの中、この先数カ月にKLOOKが注力するのは次の3つの分野だという。
まずはオンラインを徹底活用して、マインドシェアの維持向上を図ること。おうち時間を充実させるコンテンツの配信や、インスタグラムやYouTubeなどパートナー事業者とのコンテンツのクロスシェアリング、インフルエンサーを活用したライブコマースを積極的に活用しているそうだ。
続いて、ニューノーマルに合わせた商品造成に注力する。フィットネスや料理教室など、家にいながら楽しめるオンラインコンテンツのプラットフォームKLOOK HOMEのリリースや、ライブストリーミングによる双方向のアクティビティを展開しているという。
また、各国政府や事業者、団体などとアライアンスにも注力するという。各国の観光局や観光省と組み、様々なキャンペーンを打ち出していくそうだ。民間企業の一例としてGrab社との連携開始についても言及があった。一緒にユーザーインターフェースを開発し、どちらのユーザーからもアクセス可能で、お互いの強みを生かすことができるという。
国内におけるKLOOKの取り組み
インバウンド旅行者の呼び込みがすぐには難しい昨今の状況を踏まえ、KLOOKは国内向けのレジャー商品を販売開始した。まず国内のアトラクション、アクティビティに関連するキャンペーンや商品リリースの拡充を図っているという。例えばムーミンバレーパークや長崎のハウステンボスをはじめとする国内の人気アトラクションを保有する施設と連携し、様々なコンテンツの提供を開始した。また、近年の若年層の車所有率の低下や、車での国内旅行ニーズの高まりから、レンタカー会社と連携した予約専用ページをリリース。今後は現在のツアーやアクティビティのほか、鉄道やバスなどモビリティ商品などについても拡大を図っていくという。
最後に増田氏は「海外で培った事例は顧客との交流を深める上で大きな貢献ができると信じています。オンライン化を推進していくことで日本を元気にしたいと思っています」と視聴者へメッセージを送った。
【登壇者プロフィール】
Klook Travel Technology合同会社 日本事業開発部 アソシエイトディレクター 増田 航 氏
中央大学法学部卒業後、2004年に日系人事サービス会社に入社。2008年から同社の米国子会社に事業開発マネージャーとして出向し、ロサンゼルスに4年間駐在。2012年よりアマゾンジャパン合同会社にて8年間勤務し、越境EC事業の立ち上げ責任者、物販サービス部門の営業部長、Amazon Alexa事業開発シニアマネージャーなどを歴任。2020年5月より現職。 KLOOK日本法人の事業開発責任者として、国内事業の立ち上げをリードしている。
【開催概要】
日時:2020年9月25日(金)16:00〜17:00
会場:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ
【今後開催予定のセミナー】
◆ツアーの未来を考える~感動を生みだすために必要な要素とは~/withコロナ時代の観光戦略 vol.13
2020年10月9日(金)11:00~12:00
最新記事
気候変動対策の転換点、COP29が示した観光業界の新たな役割と未来 (2024.12.18)
災害危機高まる日本の未来、観光レジリエンスサミットが示した観光危機管理と復興のカギ (2024.11.26)
品川宿で交流型宿泊サービスを提供する宿場JAPAN 渡邊崇志代表に聞く「都市圏での地域を巻き込む宿泊施設と観光まちづくり」 (2024.11.15)
タビナカ市場最前線、国際会議「ARIVAL360」で見つけた日本のアクティビティ市場活性化のヒント (2024.10.25)
東京都が推進する持続可能な観光 GSTC公認トレーナーに聞く「サステナブル・ツーリズムの最前線と国際認証の仕組み」 (2024.10.04)
【現地レポ】タイパ重視から「余白」を楽しむ旅へ、南米ノープラン旅がもたらした地域住民とのディープな体験 (2024.06.07)
【現地レポ】2週間で1人150万円のツアーも!! 米国の新しい訪日旅行トレンド、地方がインバウンド誘致で成果を出す3つのポイント (2024.02.28)
2024年国際旅行博TITFから考える、タイ人の海外旅行需要は戻ったのか? タイを狙う競合市場の動向 (2024.02.21)