インバウンドコラム
コロナウイルスの感染者数が沈静化してきた国では、条件付きで入国を再開する動きが出始めている。日本でも、徐々に緩和を進めているところだ。
今回のトークライブは、海外に拠点を置き、現地に根差したマーケティングを展開している3人のゲスト、オーストラリアからdoqの永見 幸太氏、シンガポールからVivid Creationsの宮川 元希氏、香港からCompass Communicationsの木邨 千鶴氏を招いた。
コロナウイルス感染症対においては3カ国とも政府主導のもと厳しい対策を実施し、封じ込めに成功している国・地域と言える。日本よりも一歩先に感染が落ち着いている3カ国、地域において、旅行市場はどのようになっているのか。
現地の最新情報から、旅行者ニーズや訪日観光の意識変化、往来解禁を見据えた効果的な観光プロモーションについて話を伺った。モデレーターは株式会社やまとごころ代表取締役の村山慶輔が務めた。
オーストラリアでは国民の1/4が検査済み 安心感が外出を後押し
オーストラリアでは7月にメルボルンで第二波が発生したが、現在は1日当たりの新規感染者が15人前後と収束しつつある。特筆すべきは検査体制の充実ぶりで、国民の1/4に当たる延べ約760万人が既に検査を受けている。こうした体制の整備と感染者数の減少が国民の安心感につながり、国内旅行市場が急速に活発化している。
海外に行けない国民の関心が国内に向く
永見氏によると、オーストラリアは元々アウトドア好きな国民性だが、コロナ禍でさらにその傾向が加速し、国内旅行ではスキーやアウトドア、キャンプ、キャビン泊などが人気だという。シドニー郊外のリゾート地では、9月下旬~10月上旬の春休み期間中の空室率が一桁台とほぼ満室の状況だった。年末の旅行予約も既に活発化しており、12月最終週のairbnbはエリアによって60%が予約済みだ。オーストラリア政府観光局でも安全に旅行できるエリアを示すMAPを作成して、国内旅行促進を図っている。
オーストラリアでは海外旅行においても明るい兆しが出ており、NZとのトラベルバブルが10月16日から限定的に解禁されることになったそうだ。このトラベルバブルが順調に進めば、感染低リスク国を対象に、年末の夏季休暇または来年の早い段階で日本を含む太平洋諸国との海外旅行が再開する可能性があるという。
シンガポールではビジネス客から回復を狙う
シンガポールではGreen Laneという国境間移動の緩和を各国と締結し、日本とは9月30日からresidence trackを開始した。10月に入るとMICEの人数規制も50人から250人に緩和されたそうだ。宮川氏は、シンガポール政府は入国規制の緩和でビジネス客からの回復を狙っていると指摘する。
国内旅行の需要喚起策とトレンド変化
シンガポール観光局はSingapore Rediscoversと呼ばれる国内旅行需要喚起キャンペーンを実施中だ。旅行トレンドでは、トレッキング、離島、プライベートヨット、アウトドアなどの自然体験が増えている。ホテルも9割以上が海外客だったが、国内向けにワーケーションプランを作っているそうだ。ただ、国内旅行の概念があまりないシンガポールでは、レストランやショッピングモールでの消費のほうが活発で、7月のレストラン売上は前年比70%まで回復した。また在宅ワークが増えた影響で、家具やコンピューターは前年比を上回る売上を出しているという。
香港では食と高額商品への消費が拡大
香港では7月に第3波が起きたが、9月に入ってからは感染者が一桁とだいぶ沈静化している。ただ、公共交通機関に乗る際にマスク着用が義務化されており、違反すると罰金が科せられるなど国内の規制は厳しいまま。健康をテーマにした新しい大型スーパーや、日本のコンビニをイメージしたKONBINIという店がオープンするなど食への消費は活発なようだ。またホテルではペットと一緒に泊まれるプランやプライベートジェットでの遊覧飛行を付けた一人一泊12万香港ドルの超高額プランを新たに設定するなど、国内旅行の取り込みに注力しているという。
現地に行きたいけど行けない旅行熱をうまく拾うプロモーション
木邨氏の会社では、日本の青森県をプロモーションするため、ねぶた装飾やリンゴ風呂など青森の特産品で演出された「青森ルーム」を香港のハイアットセントリックホテル内に設定するプロモーションを展開。香港に居ながら青森に行った気分に浸れると多くのメディアで取り上げられたという。
また、最近話題になった観光プロモーションの例として、韓国観光公社を挙げた。韓国観光公社が香港の主要駅に韓国の観光名所のポスターを貼り、一緒に写真を撮ることでまるで韓国に行ったかのような気分になれるキャンペーンを実施したそうだ。
アフターコロナの旅行トレンドは小グループ、アウトドア
3カ国とも小グループ、自然、アウトドアが増えているとの見解が共通していた。気軽に旅行へ行けない状況のため、行くとしたら特別感や希少性がある旅行を選ぶ傾向にあるという。オーストラリアでは年末のスキー旅行の市場規模が大きいので、スキー好きな訪日リピーターをうまく取り込めると良いと永見氏はアドバイスを送った。
訪日意欲は衰えていない
Beforeコロナの訪日意欲を10とした場合の現在の訪日熱は3氏とも10以上と回答。オーストラリアではコロナ発生前から日本人気が高く、コロナ後の8月末時点でもオーストラリア人の旅行系webメディアへのアクセス数は、カナダや中国を抜いて日本に関する記事やニュースが1位だったという。シンガポールでは日本食レストランが一週間前から予約が埋まるほど人気だ。
自粛ムードは不要!もったいない訪日プロモーション
3氏とも日本からの情報発信が極端に少なくなったことはもったいないと口を揃える。
一番信頼できるのは現地からの生の情報だ。日本では「こんな時に宣伝していいのか」という自粛ムードがあるが、それは必要ないと永見氏は訴える。旅行者離れを防ぐためにも、継続的に情報発信することが重要で、現地メディアも情報を欲しがっているという。
コロナ禍では日本食と動画によるプロモーションに効果が見込める
コロナ禍のステイホームにより、テレビやwebメディア、オンラインコンテンツに接する時間が増えており、プロモーション手法においても動画やオンラインコンテンツでのアプローチが有効だと3氏は言う。
シンガポールの宮川氏は観光に「食」を結び付けたプロモーションを、木邨氏は動画に臨場感や視聴者の関心を引くような工夫があると良いと指摘する。また、オーストラリアから日本へ行く場合、2週間以上の長期滞在も多いので、県や自治体単位ではなく、もっと広いエリアで連携して訪日旅行の魅力を提案したほうがいいと永見氏はアドバイスした。
最後に3氏からの「日本を元気にする」メッセージをいただいた。
永見氏は「だんだんポジティブな空気になってきた。前向きに捉えて日本の発信をしていければ」と語った。宮川氏は「旅行業も新たなアプローチが必要な時代に入った。異業種も含めたコラボレーションを積極的に進めたい」と話す。木邨氏は「今回のコロナ禍で香港にどれだけ日本好きがいるか改めて実感した。日本好きな多くの香港人にもっと情報発信を頑張りたい」と結んだ。
【登壇者プロフィール】
doq Pty Ltd 戦略プランニングスーパーバイザー
永見 幸太氏
JTBグループのハウスエージェンシーで民間企業、地方自治体の国内外の観光プロモーション・地域活性事業を担当した後、2018年からオーストラリア・シドニーの日系マーケティングエージェンシーdoq Pty Ltdに所属。観光業界を中心に、幅広い業種の日系企業・自治体のオーストラリア市場向けマーケティング戦略の企画・実施管理を手掛ける。
Vivid Creations Pte Ltd インバウンド事業責任者
宮川 元希氏
国内の日系代理店でプロモーションプランニングを担当。地方創生・インバウンドプロジェクトなどを推進。現在はVivid Creationsにてシンガポール向けインバウンド事業を担当し、現地観光プロモーションを中心に、自治体現地レップ事業やメディア招請などの情報発信事業、観光イベントの運営など、幅広く手掛けている。
Compass Communications Managing Director
木邨(キムラ) 千鶴氏
東京都出身。広告代理店「クオラス」(フジ・メディア・ホールディングス)入社。2007年より香港に移り住み、香港フリー雑誌勤務を経て独立。コンパスコミュニケーションズインターナショナルで、「香港経済新聞」を運営し日々街の変化を捉えながら、香港のメディアリレーションを軸に幅広いマーケティング支援を行う。
【開催概要】
日時:2020年10月2日(金)15:00~16:15
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ
【今後開催予定のセミナー】
◆緊急企画!動き始めた観光、今我々はどう備えるべきか?/withコロナ時代の観光戦略 番外編
2020年10月16日(金)15:00~16:00
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