インバウンドコラム
タイ人への世界観光PRと販売を目的とした最大級イベント「第28回タイインターナショナルトラベルフェア(TITF)」が2023年2月16日~19日の4日間、タイ旅行代理店協会(TTTA)主催で開催された。2021年年末に規模を小さくして、バンコク商業施設ICONサイアムで開催された後、世界観光受入れの本格的再開を経て初めて実施される大型旅行イベントである。以前から、キャッチフレーズに「最大」という言葉を使っていたが、今回は、規模感が大分縮小された印象がぬぐえない。
会場は、2022年秋にリニューアルオープンした「クイーンシリキットナショナルコンベンションセンター」で、2022年11月に開催されたAPEC国際会議の会場として華々しいオープニングを飾ったバンコク随一の大型見本市会場である。
▲新しくなった見本市会場 :APEC国際会議で活用された会場正面には、ヘリポートがつくられている。
TITF出展数は、タイ旅行社・ランドオペレータ40団体、航空会社10団体、観光PRなど27団体、ホテル施設12団体、その他24団体 合計114団体(約280ブース)の出展となった。出展関係者によると、全体規模はコロナ以前の最盛期の4分の1程の規模になったとしているが、それでも旅行博としての規模感は最大級であり、4日間の来場者は、主催者予測で約20万人といわれている。
コロナ後初の大規模国際旅行博、各国地域は何を訴求したのか?
観光PRブース27団体のうち日本政府観光局(JNTO)バンコクをはじめとする訪日観光ブースが21団体となり、全部で約280ブースのうち、日本PRブースとタイ旅行社などによる日本旅行を販売するブースの占める割合は、他国と比較しても多かった。
▲来場者で賑わう日本PRゾーン
その他には、韓国・台湾・香港・マレーシア・フィリピンなどのNTOブースが出展を行っていた。なお、2019年以前にはあったインドや西欧などからのブース出展はなく、今回は、東南アジア圏PRにシフトした印象であった。
▲香港の街並みをイメージしたコンセプチュアルなブース
中でも、日本に次ぐ人気の旅行先である台湾や韓国は大きなブース出展を行っていた。韓国ブースは「ブースインブース」という形態で、大きなPRブースの中に販売を行う代理店ブースを複数取り込んでいたのは印象的で、統一したブランディングを行っており、PRと販売が融合した機能的なブースになっていた。
▲韓国ブースは、ステージ、PR、販売ができる様に機能的につくられている。
また、マレーシアや台湾は「民族性」にフォーカスした地域の独自性をだしているのが印象的だった。台湾は、山岳景勝地として有名な国立公園の阿里山(ありさん)の観光局がツォウ族民族衣装でPRを行っていた。また、フィリピンのブースではローカルフードをフィリピン人シェフが実演調理してふるまっていた。
▲左:台湾で人気の山岳観光地阿里山(ありさん)ではツォウ族の衣装でPR。右:マレーシアの民族性をアピールした情報発信。
▲フィリピンの郷土料理をふるまうシェフ
また、ネパール出展ブースのSA氏は、タイ人にネパールの自然のすばらしさをもっと知ってもらいたいとし、ネパールが最近では人気の観光地になりつつあると語っていた。
▲ネパールブースのSA氏
個人旅行が急速に進むタイ、旅行代理店の販売戦略は?
タイ旅行代理店協会主催のイベントということでタイ旅行社40社程の出展があったが、個人旅行が進む成熟期のタイでは、旅行博で企画募集型のツアーを販売する会社も限定されてきている。いくつかの旅行代理店が中心になってLCC航空と募集型ツアーに特化して販売を行っていたが、それ以外は、着地型商品やエリア交通パスなどの販売が行われていた。航空会社のブースにはお得なチケットを求めてくる人も多いが、一方で現在海外旅行を志向する顧客は、比較的消費力の高い層ではないかとみている。安売りのパッケージでも約3万~4万バーツ(約12万円~16万円)とタイ人一般的サラリーマンの月収に等しい価格となっている。
▲日本にフォーカスしたブースを展開する旅行会社や航空会社
日本政府観光局(JNTO)が定義する「富裕層旅行者」は旅行1回当たり、日本での総消費額100万円以上/人の旅行者としており、100万円以上を「ラグジュアリー層」、300万円以上を「ハイエンド層」と分類している。こうした価格帯の旅行商品は、今回のイベント会場ではみることができなかったが、複数のタイ旅行会社のブースでは、ヨーロッパ方面行きの旅行商品が販売されており、航空券込みで約15万~20万バーツ(約60~80万円)といった高めな料金設定でも販売は好調だという。
▲ヨーロッパ商品の売れ行き好調と話すタイ旅行会社の担当者
旅行博に見るタイ人の旅行トレンドの変化と日本の位置づけ
コロナ後初の国際旅行博「TITF」の開催は、タイ人の海外旅行の再開をも意味しているが、旅行博そのものは、以前と違う位置付けや意味合いをもっているように思えた。
1つ目に、海外旅行への行動欲求は回復したが、回復期はゆとりのある層が購買の中心になる可能性が高いこと。
2つ目に、TITFはタイ人による海外旅行フェアだが、以前と比べると 参加国数が減り、世界を網羅しているとは言えなくなった。このため、今後の展開を注目する必要があるだろう。
3つ目に、TITFでの日本のPRも、過去最高だった2019年ごろを境に縮小傾向にあること。これまではほとんどの旅行コンテンツがTITFに集約されていた印象があるが、コロナ禍を経て、各団体による出展がVISITJAPAN FITフェアなど、日本に特化したイベントへ移行しつつある。一方で、TITFへの来場者とそのポテンシャルは、依然として高い旅行意欲を持つ層と感じた。
日本に特化したイベントの例を挙げると、 観光、食、モノに加え、留学、就職などの視点で日本を発信する「バンコク日本博」、日本のカルチャーやエンターテイメント、アニメ、マンガ、ファッションなど裾の広く伝える「ジャパンエキスポタイランド」、JNTO主催する訪日個人旅行フェア「VISITJAPANFITフェア」、タイ財閥グループ「ザ・モール」による日本物産大型イベント「DISCOVERYJAPAN」などがあり、イベントのもつ特性やターゲットを踏まえて、出展場所を選んでいるのかもしれない。
なお、主催者が発表する各イベントの動員数も参考に記しておく。バンコク日本博は3日間で約10万人、VISTJAPAN FITフェアは3日間で約6万人、ジャパンエキスポは3日間約60万人でいずれも集客力が強い。特に日本特化型のイベントで成長しているものもあり、それぞれを定点観測する必要がある。
現地で広がる「ニッポン」が何かを知るためにも世界に足を運ぶべきとき
日本コンテンツは、タイの中では日常化しつつある。JETROが2021年に発表したデータによると、日本食レストランの数が、バンコクで約2100店舗(1.5%減)、バンコク都以外で約2300店舗(15%増)となっている。「日本食」は、バンコクでは頭打ち感があるが、地方ではその数を伸ばしている状況である。
また、コロナ禍を経てこの3年で、バンコク始め、郊外や地方都市にも「温泉ONSEN」といった名前のつく施設が増え始めている。日本を何度も訪れたタイ人が、自身が経験した「ニッポン」をタイ国内で再現して提供しているのだ。現在は必ずしも、そのクオリティーが高いとは言えず、まだまだ実際に「日本へ行って体験する」ことに価値を見出す人は多いだろう。私たち受け入れ側の日本人も、タイ現地で広がる「ニッポン」がどのようなものかを知り、改めて「日本らしさ」「ホンモノ」「コダワリ」が何かといったことを冷静に見つめ、タイの人々にその魅力を伝える必要があるようにも思う。
日本を離れて海外に住むと「天から与えられた日本の豊かさ」「日本人のこころの文化」「恵まれた環境での食生活」などどれ1つもとっても「すばらしい非日常」になるが、日本では、それらが「当たり前」「日常」になっていたりする。海外の環境を見たり感じたりすることで、初めてその違いがわかるものだ。とにかく、日本をでて海外を見る機会をつくってほしい。気づきはそこにあるのではないだろうか。
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