インバウンドコラム
2017年8月に、第58回やまとごころ勉強会 x INBOUND LABO by UDS「人気YouTuberに聞く、欧米人に人気の日本とその魅せ方」を開催しました。
今回のゲストは、日本の情報発信動画で人気を博すイギリス人YouTuberクリス・ブロード氏と、インバウンド研修やSNSを活用したプロモーションに強みのある株式会社ライフブリッジ代表取締役の櫻井亮太郎氏。
政府も欧米からの誘致を意識し始め、また個人旅行客が増えて来た現在、情報発信としてのインターネットが不可欠になっています。特に、欧米を中心に、直感的に魅力や特徴が伝わる動画が注目を集め、総視聴者数5,200万回を越すインバウンド動画制作の秘訣、欧米人が求める日本の魅力と惹きつけ方、成功事例や失敗事例も聞ける貴重な機会となりました。
なぜ発信するのか?
株式会社ライフブリッジは、東北に本拠地を置き、プロモーション、翻訳、研修の3本柱の業務を行なっています。東北のインバウンド誘致は1%弱ととても少なく、「外国人観光客が少ない」「何が売れるのかわからない」「語学が苦手」という現状があります。
東北と同じく、日本の沢山のエリアがインバウンドの恩恵を受けておらず、政府としては地方に散らばそうとしていますが、うまくいっていないと言います。その原因は、地方で何が起こっているかわからないからで、地方の良さ、売れるものを発信していけばいい、と櫻井氏。
一方、ALTプログラムで山形県酒田市に来ていたクリス・ブロード氏は、当初友人や親戚に日本の田舎暮らしとその魅力を伝えるために2012年8月よりYouTubeチャンネルを開設し、人気を博していました。
その二人がタッグを組んで、インバウンドプロモーション+受け入れ態勢プログラムのためにYouTubeで動画配信を開始。動画のコンセプトは、あくまでも地域全体の魅力を伝えていくこと。そうすることで地域全体が潤っていければという想いがあります。
人気の理由と地域への波及効果
二人がタッグを組んでの動画は、2016年2月から14作品を制作・公開中で850万人が視聴しています。
どうしてそこまで人気が出ているのかというと、イギリス人のブロード氏に海外経験が長く、イギリス在住歴もある櫻井氏というコンビによる、欧米人の求めることが肌感覚で分かっていることも大きな一つの要因です。
当初は東北を中心に発信をしていましたが、現在では他地域の自治体や観光協会からのオファーで動画を作成することも多々あるそうです。
主な人気動画は、
「日本で最も高い牛肉 / The most expensive beef in Japan」
「ラブホテル潜入 / Inside a Love Hotel」
「1泊30万円の部屋ってどんな部屋? / What does a $3000 Japanese Hotel look like?」
「日本最大の朝市 / Japan’s Biggest Morning Market」など。
自治体などがクライアントとして入る場合、KPIやKGIを求められることもありますが、現時点でのそれらの測定方法としては、動画のコメント欄があります。中には写真付きで「行って来たよ!」と書き込んでくれる人も少なくないのだとか。
場合によっては、視聴者に向けてアンケートを実施したこともあるそうです。ただ、クライアントからそこまで求められることは少なく、クライアント側も二人の過去の動画を見た上で信頼の上依頼される方が多いとのことです。
動画配信で意識すべき4つポイントと相乗効果
では、実際に動画配信をし、多くの方に支持されるためにはどのようなことが必要なのでしょうか。それは、以下4つのポイントだと言います。
①「タイトルに数字を入れたり、キャッチーにする」
②「サムネイル選びと全体の編集能力」
③「対象(年齢層・性別・国籍など)をよく知り、対象にあったものを制作する」
④「チャンネル全体のコンセプト、ストーリー性、動画配信をすることの理念をしっかり持つこと」
タイトル一つでもクリック数が大きく減ってしまうこともある世界。逆にタイトル一つでクリック数や購読者数も一気に増えることもあり、人気が出るとさらなる相乗効果として、人気まとめサイトに掲載されたり、イギリスの主要タブロイド紙に掲載されることもあるそうです。そうなるとさらに購読者数も増えていくというサイクル。
失敗例としては、クライアントがいる場合、要望に答えすぎて動画全体のコンセプトや配信目的の理念から離れたことをしてしまうと視聴回数は大きく減ってしまうそうです。
またコンセプトの中では、”エンターテイメント”と”教育”という2つの要素が入っていることも意識しているとのことです。
講師と会場を交えてのトークセッション
後半は、クリス・ブロード氏、櫻井氏に加え、やまとごころの村山、会場の皆さんを交えてのトークセッションとなりました。
村山「今は東北エリアが多いと思うが、日本全国こういった動画で紹介できるコンテンツはいっぱいあると思いますか?」
ブロード氏「はい。東京から西側は沖縄以外まだ作ったことがないので、やっていきたいです。今は地域にフォーカスしていますが、今後は地域の他に、日本人そのものにフォーカスしたものや、暮らしぶりなどを紹介した動画なども作っていきたいです」
参加者「日本人が見せたいものと、外国人が見たいものが違うと思うのですが、そのあたりを教えて欲しい」
櫻井氏「日本人として感じるのは、日本人が見せたいもの、というと既存のものにあるんですね。『我が村の観光地はココ!』とパンフレットにあるものを勧めてくるのですが、動画制作の際は『もっとほかにも見所があるよね?』という視点で探して行っています。暮らしの中の”当たり前”の中に面白いものがあったりします」
参加者「クライアントによる動画と自身による動画の割合は?」
ブロード氏「ブランド維持も必要なので、最近だと20%がクライアントの動画で残りが自分のものでやっています。現在はクラウドファンディングやパトロン制度のおかげで自分の動画を増やせています。依頼をいただくものの80%はお断りしています。それは、地域全体のPRではなく、その商品をPRしてほしいという依頼が多いからです」
他にも、「発注側のチェックはどのくらい入るのか」「動画は自然にやっているように見えるが、演じてたりするのか」「ビジネスとしてyoutuberは、どのくらいまで取れるものなのか」「動画制作の全体のプロセスは?」など、さまざまな質問が飛び交いました。
このように盛会のうちに幕を閉じた第58回やまとごころ勉強会となりました。ゲストスピーカーの皆様、貴重なお話をありがとうございました。
【ゲストスピーカー】
YouTuber クリス・ブロード 氏
英国ロンドン出身。ケント大学経営学部へ入学。ビジネスと言語学を中心に学び2012年に卒業。卒業直後に来日。3年間ALTとして山形県の酒田市内の高校に勤務。酒田滞在中に友人や親戚に日本の田舎暮らしを動画で伝えるためYouTubeチャンネル”Abroad in Japan”を開設。Abroad in Japanは現在45万人の購読者がおり、東北地方を中心にこれまで発見されてこなかった日本の魅力を世界に伝えている。現在は仙台に拠点を移しYouTuberとして活動している。
Abroad in Japan https://www.youtube.com/user/cmbroad44/featured
株式会社ライフブリッジ 代表取締役 櫻井亮太郎 氏
仙台市出身。中学卒業後に単身渡米。英国リッチモンド大学 国際経営学科卒業。10年間の海外生活を経て1999年に帰国。外資系金融機関での勤務後、2006年に故郷仙台で株式会社ライフブリッジを設立。カタカナを読むだけで発音が上達し、売上アップにつながる独自開発の『カタカナ接客英語・中国語・韓国語』、地域の魅力をSNSを通じて世界に伝えるインバウンドプロモーション、外国人の目線に立った8カ国語での翻訳等、世界各国での長年の経験を生かしながら生まれ育った日本の魅力を世界へ発信し続けている。
【開催概要】
2017年8月31日(木)18:30〜21:30
第58回やまとごころ勉強会 x INBOUND LABO by UDS
「人気YouTuberに聞く、欧米人に人気の日本とその魅せ方」
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