インバウンドコラム

2回 外国人観光客を呼び込みたいなら情報発信よりも共感を得ることをまず意識

2014.10.09

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外国人と一言で言っても、広い世界のそれぞれの国には異なった価値観があり、日本に求めるものや期待するものが違っているので、一括りにできないのは当然のこと。では、そうした各国の違いを超えて幅広い外国人観光客を呼び込むことを成功させるためのキーワードとは? 後半は、「おいしいJAPAN」レポートを軸にひも解きます。

目次:
キーワードその1 発信よりも共感を得る
キーワードその2 相手の文化を理解する

 

キーワードその1 発信よりも共感を得る

弊社の事業は、シンガポールやタイ、フランスなど各国で発行する無料情報誌を通して、現地の人に対して日本に関する情報を発信することがメインであるが、その対象国は現在、世界10カ国を数え、欧米からアジア各国と、広い地域をまたがっている。
そのため、たとえ同じ日本発の情報を発信するのであっても、表現方法やトピックスの選別など地域に応じた細かい工夫が必要であり、弊社では各国版とも各国のネイティブスタッフが全体を監修し企画編集を行っている。

それは、国によって日本に求めるもの、知りたいと思う情報が異なっているからだ。

日本人が良いと思ったものをそのまま外国語に直訳して発信しても、それは単なる発信であり、共感を得るのは難しい。
端的にいうなら、日本人が高く評価するものを日本的なコンテキストで語っても、海外で同じ評価を得られるとは限らない。

共感を得るためには、相手の価値観に訴えかける必要があるのだ。

例えば、某クライアントのシンガポールでのプロモーションを弊社がお手伝いした際に、ノベリティとして手ぬぐいを作成することになった。デザインとして舞妓、富士山、鯉などのパターンを用意したが、日本人スタッフは皆、富士山か舞妓の柄の受けが良いのではないかと予測していた。

ところが弊社シンガポール人スタッフ数名に確認したところ、全員が鯉のデザインを支持した。その理由は、華人系が多いシンガポールでは、鯉=魚は金運などをよぶ幸運のシンボルとされている(その理由は諸説あるので、ここでは省略)ため、縁起をかついで鯉のモチーフが生活や行事の様々なシーンで用いられているためだった。

日本の象徴としての富士山や舞妓もきっと好感を持って受け入れられるし、日本人としては日本的なものをアピールしたくなるのは当然だが、この場合は“てぬぐい”そのものがすでに日本の文化なので、柄に関してはローカライズさせる(相手の価値観を盛り込んで融合させる)ことで、広い意味での日本ファンを増やす=共感を得ることが、日本をPRするうえで重要なステップであると確信している。

 

キーワードその2 相手の文化を理解する

日本では、イスラム教徒市場の経済成長に伴って、イスラム教徒の観光客を受け入れる準備を行うことで、市場開拓を図ろうという動きが活発化しているが、イスラム教徒といっても、出身国や個人によって信仰心に温度差があるのも現実である。

安易で中途半端な取り組みはむしろ逆効果になりかねない。

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個人的な体験例ではあるが、シンガポールやアメリカなど多民族国家で暮らしているイスラム教徒の友人と食事した際に、ついうっかりと豚肉メニューを頼んでしまったことがある。
本来なら大変な失礼な行為にあたるが、怒られたり、嫌悪感を丸出しにされたことはなかった。(もちろん彼らは食さない)これは彼らがイスラム教徒以外の人々と付き合うことに慣れていて寛容であるからだろう。

 

img02-16しかし一方で、イスラム教を国教に掲げている国民で厳格な戒律を守るイスラム教徒の場合は、ハラール(イスラム法で許された項目。主にイスラム法上で食べられる物のことを表す)が証明されない店では決して食事をしないものだ。
食べ物ひとつとっても、日本で、そこまで徹底したイスラム教徒対策をとることは、現実的にかなり難しいのではないだろうか。

また、弊社には、仕事柄、社内外に外国人スタッフが多数いるが、やはり出身国により習慣も価値観も違う。
一緒に仕事をしていると、日本的価値観からすると信じられないような非常識に映ることも多々あるが、やはり生まれ育った国が違う=バックグラウンドとなる文化が違うのだから、一方的に怒る前に、まずは相手の文化や育った環境を理解することを心がけている。

日本の魅力を伝えたいならば、まずは相手の文化を理解し、受け入れてもらえるよう噛み砕いた言葉をもちいないと、本質はなかなか相手の心に届かない。
日本人同士であっても、育った環境や地域の差でモノの価値観が違うのと一緒なのだ。

外国人観光客のハートをつかみ、ファンになってほしいと考えるのであれば、まずは対象国の文化と価値観を理解し、どのような形で情報発信すれば、自分たちの店や商品に“共感”を得られるかを最初に考えることが、インバウンド対策第一歩はないかと感じている。

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