インバウンドコラム

「予算ありき」では続かない⁉ 残念な企画が頻発するオンラインツアーのリアル

2021.11.16

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コロナ禍が長期化するなかでを新規参入者が増え続けるオンラインツアー。2020年以降に大きく伸びてきたこの新しい観光コンテンツに対し、予算ありきで、継続性を無視した企画が増えていることを指摘するのが、日本におけるオンラインツアーの先駆者の1人である佐々木文人氏だ。同氏は、こうした残念な企画にならないためにも「オンラインツアーの目的を明確化し、それに合わせた形でやりかたを選ぶこと重要」と主張する。


(提供:株式会社ノットワールド)

※本稿は、11月4日に刊行された『オンラインツアーの教科書』(やまとごころブックス)の内容の一部を再編集したものです。

 

オンラインツアー当日は、1人でも回せるのか?

オンラインツアーをやろうと考えた人から、「ツアー当日は何人のスタッフが必要ですか?」「カメラやマイクはどんな機材を用意すればいいですか?」という運営に関する質問をよく受けます。

オンラインツアーといってもピンキリですので、これといった答えはありません。

ミニマムでは、Airbnbのサイトに載っているオンラインツアーを見ればわかるように、1人で十分に催行できます。パソコン1つ、スマホ1つでも十分に満足のいくツアーにできます。

たとえばオンラインツアーがいまほど認知されていなかった初期に僕が参加した座禅のオンラインツアーもお坊さんがたった1人で行っていました。使用していたのは1台のタブレットだけです。それでも十分に魅力的な内容になっていました。

「座禅のようなものならばカメラ操作が不要なので1人でもできるかもしれない。でも、シティツアーのような動きのあるものだと1人では無理ではないか」という意見もあります。

確かに外を移動しながらのツアーだと、スタッフは複数のほうが運営しやすいでしょう。しかし、だからといって1人では無理ということはありません。

京都や浅草、湯布院など全国の観光地で人力車ツアーを展開する「えびす屋」は、スタビライザー(カメラのブレを防止するアイテム)を完璧に使いこなすことで、1人でもエンターテインメント性溢れるツアーを催行していました。

一方で、テレビさながらに、登場者がたくさんいるオンラインツアーもあります。レポーターを各地に置き、カメラ役、進行役を分けて運営をしているケースもあります。

「1人でやる自信がないから、とりあえず頭数を揃える」というのでは意味がありません。ただ、頭数を増やすことでツアー参加者のストレスを減らすような工夫がしやすくなるのも事実です。

 

必ずしも、カメラを手に外を出歩く必要はない? 

オンラインツアーは、ツアー商品ではあるものの、必ずしもカメラを手に持って、外を出歩く必要はありません。パソコンを使ったプレゼンテーションのように、スライドを操り、画像や動画を組み合わせながら、事務所から一歩も外に出ることなく、参加者を楽しませているガイドはたくさんいます。

旧来型の旅行形態に拘りのある人は、「そんなのはツアーじゃない」というかもしれません。その意見はまったくもって間違っていません。

一方でこうした考え方があるのも事実です。

「カメラを持って現地に行き、リアルタイムで伝えるのもいいけれど、実際には天気が悪いこともあるし、人混みがすごいこともある。最高の天気、最高の景色を参加者に楽しんでもらいたいんです」

〝物は言いよう〟ということかもしれません。ただ、コロナ禍によって想定外のものに対する消費者の警戒感が高まっているのも確かです。 なにが正解ということはありません。その証拠に、オンラインミーティングが増えたことで、「わざわざ満員電車に揺られてまで、リアルで会う必要もない」という意見に異を唱える人は、確実に減りました。

前回の記事でも触れた、「目的」に応じて最適な体制を考えることです。たとえば、収益化のため一度に数百人を集客しようと思うなら、遅刻者の対応等のために人員を確保しておいたほうが良いかと思います。一方で、低コストで継続的な認知の拡大を狙うならこまわりの利く少人数での運営が適しているといえるでしょう。

 

予算という制約の中で、どこにリソースを割くのか

何より予算という制約があるなかで、どこにリソースを割くかを考えると、運営体制も自然と決まってくるかと思います。

僕たちの場合、海外に向けたオンラインツアーは、プレゼン形式の1人で行うものを中心に催行しています。一方で国内向けのものは、1〜3名体制で行うことがほとんどです。3名の場合、事務所にいる1人が事務局と進行役を兼任しつつ、現地にはカメラマン1人と語り手1人を配置しています。

こうした運営のイメージがつかめず一歩を踏み出せないという方には、実際にいくつかのオンラインツアーに参加してみることをお勧めします。

百聞は一見に如かず。4つ、5つと参加しているうちに、「自分ならこうやる」というアイデアも芽生えてくるはずです。

そして「ちょっと練習に付き合ってほしい」といったノリで友人を誘い、スマホ片手に外に出て、どこか好きな場所を案内してみたらどうでしょうか。

 

自分たちだけで進めるか、外部の力を借りるか

オンラインツアーの造成における全体像がみえると、自分が苦手なことやできないことが頭をよぎり、不安になります。

もちろん企画から販売、ツアーの催行までを自分1人で行う人もいますが、必ずしもそうする必要はありません。とくにオンラインツアーに取り組み始めたばかりのときには、時間をかけずに良いものをつくりあげるという意味で、「餅は餅屋」と割り切ることも大切です。

オンラインツアーは2020年以降、急速に広がりをみせていますが、それにともなって関わる事業者も多様化してきました。ツアーの造成から催行まで何もかもを受注し、代行する事業者もいますが、一部に特化した支援を行っている事業者や個人も少なくありません。

当然、外注すれば、その分の収益性が低下しますので、自前でやるか他社に協力してもらうかのバランスは、決めつけることなく、常に最適解を探しながら進めていくといいでしょう。

カオスマップで記したように、活用できるウェブサービスやアプリは多数存在しています。オンラインツアーを実施する事業者や団体のフェーズ(現在位置)に合わせて、賢くウェブサービス・アプリを取捨選択するといいでしょう。

たとえば、企画や進行に不安はないけれど、当日の配信がうまくいくか自信がないという場合、オンライン配信の作業に慣れた人と協業するといいのかもしれません。

 

ボランティアベースでの協力依頼はサステイナブルではない?

人の得意・不得意もあるなか、地域ぐるみでオンラインツアーに取り組むことで、そうしたノウハウの共有、助け合いを通じて、結束が強くなったという話もあります。ですから、〝持ちつ持たれつ〟ということで、地域によってはボランティアベースであったり、薄謝で外部の人材に仕事を依頼することもあるかもしれません。

しかし、持続性という観点から見ると、このような専門的なスキルを持った人や事業者に協力を仰ぐときには、それに見合った報酬・謝礼を支払うべきだと僕は考えます。逆にいえば、スキルに見合った報酬・謝礼が支払えないツアーならば、抜本的につくり直さなければいけないでしょう。

いずれにしても、オンラインツアーは新しい市場ということもあり、日々、新規の事業者・サービスが出てきます。常にアップデートすることで、参加者に新しい刺激を提供することができるので、アンテナを張っておくことも必要です。

「グーグルアラート」で、キーワード(オンラインツアー、バーチャルツアーなど)のニュースを拾う、同業者と定期的に情報交換を行う、自分でも気になったツアーには参加してみる、オンラインツアー検索サイトに並んでいる商品をチェックするといったことは、すぐにできるアンテナの張り方です。

 

外部委託を続けることの危険性

「餅は餅屋」とはいえ、実際にオンラインツアーを行ううえでは制約があります。一番のハードルは予算。いつまでも外部に委託(外注)していると、事業として成り立ちません。

ノウハウの獲得という狙いのため、特に立ち上げの初期に関しては外部に委託することも多いと思いますが、その場合には、どのように自主運営に移行していくかという中長期的な計画も持っておく必要があります。

弊社ノットワールドではオンラインツアーに関する相談を受けることがあります。企画や立ち上げだけでなく、「実際のツアー催行もしてほしい」という依頼を受けることも少なくありません。もちろんとても光栄なお話ではありますが、状況に応じてアドバイザーという立ち位置にさせてもらい、あえて手を動かしすぎないようにすることがあります。

外部の組織である自分たちが企画から運営までをやってしまうと、いつまでたっても外注ありきのオンラインツアーとなってしまうからです。

世の中全般だけでなく、観光の文脈でもサステイナビリティ(持続可能性)が注目を集めています。とくにここ数年は、重視する傾向が強まっていると感じます。やはり、地域としての持続可能性を考慮するのならば、外部に委託するのではなく「自分たちでやる」としたほうがいいでしょう。自分たちでやることで、オンラインツアーの活用方法は、さらに大きくなると思います。

 

“予算ありき”の自治体主催のオンラインツアーは続かない?

なぜこのようなことをお伝えしているのかと不思議に思う人もいるかもしれません。実はコロナ禍が発生してからの1年あまり、主に自治体において、「予算があるからオンラインツアーを実施する」ということが増えているからです。なかには、「予算がなくても実施しつづけられる体制とは何か」ということをまったく考えていないケースもあります。

誤解を恐れずにいえば、外注することを必要悪として捉え、ノウハウを吸収する姿勢を持つべきではないでしょうか。

最初から「予算がないとできない」というのであれば、一度立ち止まって、オンラインツアーを実施する目的から考え直してください。

こうした持続可能性について考えるにあたっては、質とコストのバランスを同時に考えていくと、何をすべきかやどうすべきかが見えてくるかもしれません。

オンラインツアーはつくりはじめると、もっと良いものをつくりたくなり、必要以上に投資(コスト)をかけてしまうことがあります。たとえば数十万円もする高級なカメラを買うなど。でも、それは参加者が本当に求めているものでしょうか。カメラが高級になったからといって、料金をそれまでの2倍にできるでしょうか。こうした目線は、常に必要です。

 

株式会社ノットワールド代表取締役 佐々木文人

1983年生まれ。東京大学経済学部卒業。損害保険ジャパン、ボストン・コンサルティング・グループを経て、1年間の世界一周新婚旅行に出る。帰国後、東京・京都を中心とした訪日外国人向けのフードツアーやプライベートツアーを運営する株式会社ノットワールドを創業。2021年からは、オンラインとリアル、地域と人をつなげる新サービス「ほむすび」にも取り組んでいる。

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