インバウンドコラム

新規参入者必読! オンライン体験ツアーの満足度が「最初の5分」で決まる理由

2021.11.22

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「オンラインツアーの満足度は、最初の5分で決まると言っても過言ではない」

そう語るのは、リアルでの体験ツアーの経験を活かし、コロナ禍後に数多くのオンラインツアーの企画・支援・実施を行ってきた株式会社ノットワールドの佐々木文人氏。オンラインツアーの裾野が広がってきたいまだからこそ再考したい、ガイドやMCの役割やコツなどのノウハウを佐々木氏は解説する──。

※本稿は、11月4日に刊行された『オンラインツアーの教科書』(やまとごころブックス)の内容の一部を再編集したものです。

 

オンラインツアーの進行役は、スピーチ上手な人に任せていい?

ツアーの進行を行うガイドやMCの役割は、非常に大切になります。

仮にみなさんが一定数の社員を抱える会社の責任者だとして、新規にオンラインツアーを行う場合、ガイドやMC役は誰に任せるでしょうか。「スピーチが上手な人」でしょうか。そのこと自体は間違っていませんが、だからといって「スピーチが上手な人に任せればOK」というほど話は単純ではありません。

「スピーチが上手な人」=「オンラインでの盛り上げ上手」とは限らないからです。スライドに沿ってわかりやすく内容を伝えていく能力と、その日にオンライン上で集まった初対面の人たちをうまくまとめあげ、全体の空気を読みながら進行していく能力は異なるということです。

「自分は単なる進行役。台本をそつなく読めばいいんでしょ」といった考え方を持った人も、うまくツアーを進行させることはできません。

 

最初の5分で決まる! チームビルディングの大切さ

どうすればうまくツアーを進行できるのでしょうか。

ポイントは複数あります。そのなかで最初にお伝えしたいのは「開始5分における場づくりの重要性」です。

端的にいうと、ツアーを本格的に始める前に、参加者の緊張や不安をほぐし、参加している全員を1つのチームとしてまとめ、場の一体感をつくること。そのステップがなければ、いくら話が上手なガイドやMCだとしても、ツアーの満足度を上げることはできないでしょう。

お客様目線の思考回路を想像してみてください。おそらく次のようなものになると思います。

よくわからないけど、興味があったのでオンラインツアーに参加してみた。ガイドさんは知らない人だし、自分以外の参加者も見ず知らずの人ばかり。楽しめるのかどうか不安だけれども、参加費も支払い済みのことだし、送られてきた参加用のZoomリンクをクリックしよう……。
(「少々お待ちください」と表示された後に)
あ、入室を許可された。

このときの心境は、「半分わくわく。半分緊張」であればいいほうかもしれません。むしろ緊張感のほうが大きいという人が多いと思います。

参加者は次のような緊張や不安も抱いています。

「顔って出したほうがいいの? 出さないほうがいいの?」
「チャット欄は使っていいの? 質問したいけど、『なんだあいつ』って思われそうだなぁ」
「あ、挨拶された。ミュートを解除して応えるべき? いや、でももうタイミングを逃しているからやめておこう」
「どの人が進行してくれる人だっけ? この人? いまさら聞けない……」
「名前を変更してくれって書かれているけど、どうやってやるの? もしかして知らないのは自分だけ?」

こうした感情を放置して進行してしまうと、場の一体感は生まれないまま時間だけが過ぎていきます。

 

ガイドが最初の5分でやるべき4つのアクション

よく起きてしまうのは、一部の積極的な参加者がツアーに関与してくれた結果、ガイドやMCは「たくさんの反応があった」と自己評価してしまう事態です。積極的な参加者はとてもありがたい存在ですし、ガイドやMCにも大きな落ち度があったわけではない。にもかかわらず、その裏には不満を持っている人がいる可能性は低くありません。

この問題を解決するために大事なのは、最初の5分間で、そのツアーをみんなで楽しむための場をガイドやMCが丁寧につくっていくことです。

具体的には次の4つのことを行います。

「明るい声で緊張をほぐす」
入ってきた人に明るく声をかけてあげましょう。「○○さんこんにちは! 今日はよろしくお願いします!」この一言だけで、参加者はだいぶ安心しますし、声をかけた側も安心します。

「ツアーのコンセプトと全体像を共有する」
オンラインツアーのコンセプトや長さ、何をするかを改めて参加者に伝えましょう。募集文書に書いてあるから省く方もいますが、募集文書を読んでいない方、申込者に誘われて参加した家族等は、わけもわからず画面の前にいる可能性もあります。

「1アクション起こしてもらう」
「傍観者」ではなく、「参加者」になってもらいましょう。最初に何かしら行動をしてもらえるとより場がほぐれます。最初の声がけの時に相手からも「こんにちは」と答えてもらうのも一つですし、ルールを伝えるついでにチャットで何か打ってもらうのも1つです。

「名前を呼べる環境をつくる/注意点やルールを伝える」
読んで字のとおりですが、いくつかポイントがありますので詳しくは後述します。

 

参加者に「3つのルール」を課すことで良い雰囲気が生まれる

先ほど言及した最初の5分でやるべき4つのことのうち、「名前を呼べる環境をつくる/注意点やルールを伝える」について詳述します。

リアルのツアーでも同様ですが、よい雰囲気をつくるためには進行上の「ルールの共有」が欠かせません。「ほむすび」でオンラインツアーを行う際は、次の基本事項を必ず伝えるようにしています。

●名前を「ニックネーム(ひらがな)@場所」に変えること
●案内人が話しているときはミュートにすること
●チャットで質問とリアクション機能を積極的に使うこと

このうち「名前をニックネーム(ひらがな)@場所に変えること」は、オンライン特有の観点で、多少時間がかかってもしっかりとやるべきであると感じています。

リアルでのツアーでも同じですが、名前を呼んでもらえると、人と人の距離は一気に縮まります。ですから僕たちはリアルのツアーを始めてかなり早い段階から意図的に名前を呼ぶようにしてきました。それでも聞いた名前を忘れてしまうという事態はときどき起こります。

一方のオンラインツアーの場合、最初に名前の設定を変えてもらうことさえできれば、その後のツアーの間は名前と顔を100%一致させて呼びかけることができます。「どうしても人の名前を覚えるのが苦手」という人にとっては、もってこいなステージなのです。

とはいえ参加者の顔とお名前はホスト側で最初判断することができないので、基本的には参加者に名前を変えるようお願いしています。

そのときのポイントは呼びやすくすること。具体的には、ニックネームを平仮名(またはカタカナ)で書いてもらうといいでしょう。漢字を使うと正しく読めなくなる可能性が高まります。本名を使いたくない人もいるかもしれませんので、ニックネームを推奨すると、参加者に負担をかけずに済みます。

なかには、名前の変更の仕方を伝えても、変更できないで困る参加者もいますが、その際は、「○○さん、こちらで変えましょうか?」と声をかけてサポートしてあげるとよいでしょう。

 

具体的な行動を促し、「傍観」から「参加」へと引き込む

さらに、「チャットで質問とリアクション機能を積極的に使うこと」を伝える際には、「質問はお気軽にチャットでください」という言葉に加えて、「一度チャットの練習してみましょう。いま、みなさんがいる都道府県を打ってみてください」とお願いしています。これも前述したとおり、行動(アクション)を促すことによって、「傍観者」から「参加者」に変わってもらうことが狙いです。ルールや注意点を伝えるとなると、固くなりがちですが、うまく場をつくっていくことにも活用できます。

もちろんそれに対するリアクションも忘れてはなりません。「あ、北海道から参加されてますね。お、○○さんは、島根から! ありがとうございます」という感じで、返事をするようにしています。これによって、インタラクティブ(双方向性の)コミュニケーションが生まれ、場の雰囲気はどんどんよくなっていきます。

 

なぜ、ツアー参加者に「大きなリアクション」を促すのか?

最初の5分の場づくりの際、参加者に伝えることがもう1つあります。それは「リアクションは大きければ大きいほど嬉しい」ということです。

リアルのツアーとオンラインのツアーの大きな違いとして、〝目が合わない〟ということがあります。

通常のコミュニケーションでは、目と目が合うなかで、「ちゃんと伝わってるな」「楽しんでくれてそうだな」「あ、いまはちょっと理解できていないか」ということを感じながら、会話のキャッチボールをしています。

しかし、オンラインでは目が合いません。目が合うためには、相手がカメラを見なければいけないからです。ツアー中であれば、カメラではなく、画面を見るはずなので、目が合わないのは当然なのです。

ガイドやMCとしても、参加者を見ている限りは目線がずれてしまいます(補足ですが、このあたり最先端のツールでは、目線補正の技術を開発・取り入れ始めているところもあります)。

オンラインでは構造的に目線からリアクションを読み取りづらく、さらに相槌も小さいと頷いているのか揺れているのかわからないレベルです。ミュートにして音もなく、相手の反応がないとこうも話しにくいものか、ということを実感します。

ですので最初に、「両腕を使って大きく丸をつくる」「大きく相槌をする」といったリアクションをしてもらえると、こちらが助かる旨を単刀直入に伝えるのです。

この1つのお願いだけで、ガイドやMC、さらには出演してくれる生産者の方々は、非常に話しやすくなります。

加えて、先ほども出てきた行動(アクション)で傍観者から参加者になってもらうことにも貢献します。画面のなかの躍動感が増すことによって、全体として楽しそうな雰囲気をつくりあげることもできます。

 

株式会社ノットワールド代表取締役 佐々木文人

1983年生まれ。東京大学経済学部卒業。損害保険ジャパン、ボストン・コンサルティング・グループを経て、1年間の世界一周新婚旅行に出る。帰国後、東京・京都を中心とした訪日外国人向けのフードツアーやプライベートツアーを運営する株式会社ノットワールドを創業。2021年からは、オンラインとリアル、地域と人をつなげる新サービス「ほむすび」にも取り組んでいる。

 

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