インバウンドコラム

2023年度観光庁予算要求454億円、観光インバウンド回復見据え旅客税事業は前年度比3.3倍

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観光庁は、令和5年(2023年)度の予算概算要求を公表、2023年度は、前年度予算比1.06%増の454億5800万円だった。

一般会計は前年度予算額の141億5800万円より約25%増の176億8800万円、東日本大震災からの復興(復興枠)は前年度と同額の7億7000万円、国際観光旅客税を活用したより高次元な旅行施策の展開については前年度比3.3倍となる270億円を要求した。新型コロナウイルス感染症への対応は、前年度までは金額を明示せず項目だけを記載する事項要求として挙げられていたが、今回はなくなった。代わりに2023年度では「観光立国の復活に向けた施策の推進」が事項要求に入った。ここでは前年までとの違いを主軸に、特に注目すべき項目などを詳しくみていく。

(図出典:令和5年度観光庁関係予算概算要求概要)

 

観光分野の復活に向け、「基盤強化」「戦略的取り組み」の2本柱に集約

これまで予算概算要求の項目として、2021年度は大きく3本柱、2022年度は4本柱が立っていたが、2023年度は(1)観光立国復活に向けた基盤強化、(2)インバウンド回復に向けた戦略的取組の2本柱に集約された。前年度の項目と見比べて消滅した項目はなく、2本の柱のどちらかに割り振った形になっている。予算と事業を整理集約することで、長引くコロナ禍で落ち込んだ観光分野を効率的に復活、回復させたいという意図が読み取れる。特に(2)インバウンド回復に向けての事業予算は前年度比45%増の98億7900万円を見込んでいる。

2本の柱の内訳をみてみよう。

観光立国復活に向けた基盤強化………72億2100万円

最も多くの予算を充てたのが、ポストコロナを見据えた受入環境整備促進事業の30億6400万円だ。観光地・宿泊施設・公共交通機関の各場面において、感染症対策をはじめ、ストレスフリーに旅行を満喫できる環境整備に対して、事業費の2分の1~3分の1程度の補助を支援する。他に額が大きい項目としては、DXや事業者間連携等を通じた観光地や観光産業の付加価値向上に15億円新たな交流市場の創出事業として6億5000万円が計上された。そのほかには、広域周遊観光促進に7億6300万円、地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業に5700万円、持続可能な観光推進モデル事業に1億5000万円、観光産業再生のための人材育成にも1億5000万円を見込んでいる。

インバウンド回復に向けた戦略的取組………98億7900万円

戦略的な訪日プロモーションの実施に93億円、MICE誘致に1億5900万円、地方のインバウンド観光地づくり事業に4億円、海外教育旅行に2000万円を要求した。これら内訳4項目のうち、戦略的な訪日プロモーションの実施の額が全体の9割を占める。訪日意欲の高いアジアのリピーター向けや、消費額が高い欧米豪市場へ向けに戦略的にプロモーションを展開する。また2025年大阪・関西万博のプロモーションも盛り込まれている。

前年度に金額を明示せず項目だけを記載する事項要求とした「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化」を形を変えて踏襲したものが、今回新たに4億円を予算要求した地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり支援事業だ。この事業では、2022年度中に、高付加価値旅行者を誘客できる可能性のある地域をモデル観光地として全国10か所程度選定する。選ばれた地域に対しては高付加価値な宿泊施設の整備や観光資源の発掘・磨き上げ、マーケティングやブランディングの専門人材の派遣、ガイド等の人材育成、海外セールスを集中的に支援する。

 

前年度予算からの変更点は?

新規の予算要求は、以下の4項目であった。

 1.新たな交流市場の創出事業:6億5000万円
 2. 地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業:5700万円
 3. DXや事業者間連携等を通じた観光地や観光産業の付加価値向上:15億円
 4. 地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり支援事業:4億円

ただ、各項目の実施内容をみていくと、「1. 新たな交流市場の創出事業」と「3. DXや事業者間連携等を通じた観光地や観光産業の付加価値向上」は、前年度に実施した複数の事業を名称変更して集約した形になっており、新しい事業ではない。

なお、前年度から純粋に減額となったものは、前年度比3割減のMICE誘致の1項目だけだった。

 

2023年度の新規事業「ガストロノミー推進」に約5700万円

今回新しく項目追加された、地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業(5700万円)では、山間部の旅館でマグロの刺身が出されるなど、地域の食材を生かし切れていない事例を解消すべく、宿泊施設と一流シェフのマッチングなどを支援する。地域の食材を積極活用し、食をウリにすることで宿泊費の単価アップなど付加価値を高め、ひいては地域経済にも貢献できるような取組を調査、検証して全国で促進していくとしている。

また、前年同様、1億5000万円を計上する持続可能な観光推進モデル事業では、すでにオーバーツーリズム等の実証実験を行っている自治体もあり、そうした優良モデルを全国へ広げていく。また、日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)に基づく研修プログラムの実施も盛り込まれている。

 

旅客税収増を見込み、国際観光旅客税による事業費が前年度比3.3倍に

今回、最大の増加率を示した国際観光旅客税を財源とする施策は、前年度比3.3倍となる270億円にのぼる。一見かなり強気の増加要求に見えるが、この金額は2021年度当時とほぼ同額であり、2年前に戻ったとみるべきであろう。とはいえ、2020年度当初予算では510億円規模であったことから、コロナ前と比べると、まだ半分程度の回復と見込んでいると思われる。

令和5年(2023年)度予算要求概要はこちら

 

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