インバウンドコラム
観光庁とJNTOは6月29日、2023年〜25年の3年を期間とする新たな「訪日マーケティング戦略」を策定した。これは、2023年3月に策定された「観光立国推進基本計画」で掲げられた、訪日外国人旅行者数の2109年水準超えや訪日外国人旅行者の消費額5兆円、1人当たりの地方宿泊数2泊などの政府目標達成のための具体的な取り組み方針をまとめたもの。戦略内容は大きく「市場別戦略」「市場横断戦略」「MICE戦略」の3部から成り、市場調査の結果を元に外部有識者、海外事務所などの知見を取り入れている。ここでは、その戦略の概要に触れていく。
(図表:日本政府観光局)
持続可能な観光を基軸に「市場別「市場横断」「MICE」3本柱
戦略は市場別、市場横断、MICEに分けたマーケティングの3部から成るが、それらの基幹方針となるのが、地域の環境を守りつつ、地域に根差した文化を育みながら、経済を活性化させることを目的にした「地域の持続可能な観光を高める観光」の実践だ。
ターゲットとなる旅行者像には、、その土地でしかできない体験を求め、地元住民や地域へのポジティブな配慮がある人物を設定。そういった旅行者に提供できる価値として、地方独自の地形や気候、四季といった自然と、祭りや伝統工芸、食文化、生物多様性などの自然に培われた豊かな文化をコンテンツとして収集し磨き上げていく。
取り組みの柱としては、国際認証等の取得をした地域などのプロモーション、レスポンシブル・トラベラー(責任ある旅行者)の奨励、関係者に向けての国内外の先進事例の情報提供などが行われる。持続可能な観光形態においての日本の国際的プレゼンスを強化し、プロモーション活動をする上でのプラスチックやフードロス削減などの環境配慮の促進も、率先して行う。
訪日経験者数・成熟度にあわせた市場別マーケティング戦略
ビジット・ジャパン重点市場ごとに設けた市場別戦略では、各ターゲットの興味や関心に合わせ、訴求されるテーマや観光コンテンツを総括。接触するメディアの傾向や、旅の予約方法も踏まえた効果的なプロモーション方法を割り出した。
日本に来る移動時間が比較的短いショートホール・ミドルホールの「アジア」と、ロングホールの「欧米とそのほかの新市場」に分け、訪日経験者の多さ、成熟度で各市場を分析している。
例えば、ショート・ミドルホールでは、訪日経験者が多く成熟度の高い東アジア(中国以外)やシンガポールへは、リピーターに対して、航空会社との連携強化による地方誘客と消費額拡大に向けた取り組みを行う。未訪日・訪日経験者が混在しており成熟度レベルが中の中国に対しては、沿岸部のリピーターの取り込みと同時に、内陸部の新規訪日層の開拓、高所得者層の誘客促進と消費拡大など、エリアやターゲットによって戦略を変えていく。
ロングホールについては、未訪日と訪日経験者が混在している米豪市場には、新規とリピーター獲得両方を視野に入れて幅広い展開を行う。訪日未経験者が多い欧州やカナダ向けには、サステナブルへの関心の高さや滞在日数が長い点を踏まえ、ゴールデンルート+地方の誘客強化などに取り組む。また、中東地域・メキシコ・北欧など新たな市場として挙げている。未訪日者が多く成熟度が低いため、訴求力の高いコンテンツ発信と、新規事務所を拠点に現地旅行業界との関係構築に取り組んでいく。
高付加価値旅行、アドベンチャー、大阪万博を軸に市場横断マーケティング
市場横断型の戦略については、「高付加価値旅行」「アドベンチャー」「大阪万博」の3つのカテゴリーに分け、それぞれの中でターゲットを設けて市場を跨いだネットワーク構築と連携事業展開を行い、訪日旅行を活性化させていく。まず高付加価値旅行のターゲットは、訪日旅行1人1回あたりの総消費額100万円(日本への航空券代を除く)とする。全体方針としては、JNTOに設置した専門組織を推進力とし、富裕層の特性を踏まえてモデル観光地を中心にプロモーションやコネクションを強化していく。
アドベンチャートラベルは、市場規模が大きい欧米豪の関心層をターゲットとして狙っていく。2025年にアドベンチャートラベルのデスティネーションとしてアジア1位になることを目指し、世界最大のアドベンチャートラベル旅行関係者の国際団体ATTAと連携、日本各地への誘客を図る。
大阪万博でのターゲットは、中国・台湾を中心にしたアジアと、米国・イタリア・ドイツ・中東市場を中心とした欧米豪中東に定めた。開催1年前までは日本でコロナ後に初めて開催されるメガイベントとしての機運醸成、開催1年前から開催中においては万博の集客力を最大限に活用し、訪日旅行の認知獲得、万博を絡めた訪日旅行の予約促進や地方誘客などを方針に掲げている。
MICEマーケティング、具体的な対象への積極的な働きかけを
MICEでは国際会議とインセンティブ旅行の2つのカテゴリーから、それぞれ取り組み対象を抽出していく。
国際会議については、海外の対象をコアPCO(国際会議の企画運営などを担う専門会社)や学協会の国際本部、国内の対象を将来の主催者になり得る大学や研究機関等の研究者などに定めた。基本方針として、海外向けにはIAPCO(コンベンション関係企業・団体の世界的組織)に加盟するコアPCOや、関係国際本部に注目してもらえるプロモーションを打ち出す。国内では専門人材の育成に注力すると共に、サステナビリティなど新しいニーズへの対応、協会や機関等と連携して国際会議開催への意欲を喚起していく。
またインセンティブ旅行では、海外の取扱会社や企業などに働きかけ、付加価値ある体験のプロモーション、インセンティブ旅行に関するケーススタディの発信やコロナ禍を機に生まれたニーズへの対応などを方針としている。
今後は、ここで掲げた戦略を観光庁、JNTO、地方運輸局、DMOや地方自治体の間で共有・実行することで、持続可能な観光を第一に考えた効果的で効率的な事業展開を行っていく。今後、地方向けのセミナー等で、具体的な活用方法について説明していく予定だ。
最新記事
ユーロモニターが2025年消費者トレンドを発表。健康的寿命の追求、プレミアム嗜好など5つのトレンド解説 (2024.11.22)
2025年度観光庁予算要求627億円、前年比1.2倍。ユニバーサルで持続可能な観光に重点、宿泊業への支援も強化 (2024.08.30)
2024年中国春節動向、累計90億人が移動見込み。今年は氷雪旅行がトレンド、東南アジアも人気 (2024.01.29)
【徹底解説】2024年度観光庁予算決定、前年比64%増の503億円。前年比大幅増の施策は? ガストロノミーなど3テーマ新規計上 (2023.12.26)
2024年 世界の消費者トレンド6つの注目トピックス、生成AIやサステナブル懐疑、広がる分断など (2023.12.13)
11月11日、世界最大級のECショッピングイベント「独身の日」、2023年中国EC大手の動きは? (2023.10.31)
中国市場のマーケティング戦略、競合市場との差別化カギに。20~40代のボリューム層に照準あて施策展開 (2023.09.15)
2023年の中国大型連休「国慶節」3年半ぶりの海外旅行解禁、訪日への影響は? (2023.09.13)