インバウンドコラム

アドベンチャートラベルで経済価値を生むのに欠かせないツアーオペレーターの役割

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1回目のコラムでは地域旅行ビジネスのプレイヤーの顔ぶれを紹介したが、今回は地域旅行ビジネスにおいて、地域が持つ価値に光をあて、海外の市場とつなぐ重要な役割を担うツアーオペレーターにフォーカスする。北海道・札幌を拠点に、東南アジアや欧米豪などの富裕層向けの完全オーダーメイドのツアーサービスを提供する株式会社北海道宝島旅行社の代表取締役社長鈴木宏一郎氏に話を伺った。

折しも、北海道では9月11日〜14日に「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」が開催されるが、同社は、サミット参加者に提供される公式エクスカーション「プレサミットアドベンチャー(PSA)」でツアーオペレーターとして最多となる8つのツアーを催行している。

ここでは、鈴木氏の話も踏まえながら、アドベンチャートラベルにおいて、ツアーオペレーターがどのように地域の関係者と連携し、地域資源を持続的に活用して経済価値を生み出しているかをみていこう。


▲知床連山登山の様子

 

地域旅行ビジネス推進のかじ取り役、ツアーオペレーターの定義

一般的に「ツアーオペレーター」といえば、旅行素材を組み合わせてパッケージ化し、企画や値付けを自ら行い商品として販売するビジネスを指し、通常は旅行出発地に拠点を構える企業を指す。ただ、観光地側に拠点を置く場合にもツアーオペレーターと呼ばれることもある。そこで、発地を拠点とするツアーオペレーターとの違いを表すためにインカミング(レセプティブ)・ツアーオペレーターなどと呼ぶこともある。英タイムズ社の記事では、英国のツアーオペレーターベスト10が特集され、日本に特化したツアーオペレーターも紹介されている。

後者の観光地側に拠点を置くケースは「アドベンチャートラベル」においても見られる。実際、サミットを主宰するアドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)には、会員の分類の1つに「ツアーオペレーター」があり、全会員のうち6割以上を占めている。

このように拠点の場所に関わらず「ツアーオペレーター」という言葉が使用されているのは、ビジネス形態として商品企画に主体性を持つ点が共通しているからであろう。

 

アドベンチャートラベルで地域資源を経済価値に変換するための3階層

鈴木氏は、アドベンチャートラベルは少人数グループを含む個人旅行客に対して、彼らのニーズやリクエストを基に最高の旅を作り上げるオーダーメイド型のツアーと定義しているという。アドベンチャーといっても冒険的な要素のある旅だけに限らない。たとえば外国人旅行者が日本に来て、ある地域のホタテ漁師を訪問してホタテ養殖の現場について学び、漁師や地域住民と一緒に殻をむいて食べるといった経験にも、アドベンチャートラベルの要素が含まれる。

この例からも分かるように、地元の人との交流もアドベンチャートラベルの大事な要素の1つとなる。


▲北海道豊浦町でのホタテの養殖について学びながらホタテを味わう体験

たとえば北海道のラベンダーを見せるだけなら、フランス・プロバンスできれいなラベンダーを見るのと大差はない。しかしラベンダーを何年も前から思いを込めて育てている地域の人と触れ合い、その思いを聞いて見るととても感動するだろう。

その意味では、今回サミットが開催される北海道はもちろんのこと、日本全国にある文化や、歴史、自然すべてがアドベンチャートラベルの資源になりえるのだ。

ただし、それらを基に体験を作り上げていくにあたって、季節や天気にあわせてその地域でいま何が一番楽しめるのかなどは、海外のエージェントはもちろん、東京など都市部に拠点を持つDMCや企業には簡単には分からない。また、天候が悪い時にはどのような代替案を出すかといったことは、地域の資源を細かく理解している人、企業だからこそできることだ。

そうした特徴を踏まえて、鈴木氏は、アドベンチャートラベルを推進し、地域資源を経済価値に変えていくには、「アクティビティプレイヤー」「地域コーディネーター」「ツアーオペレーター」という3階層の機能が必要であると提案する。

1.アクティビティプレイヤー

アクティビティプレイヤーとは、その地域で体験できる本物の価値を提供する人たちのことを指す。たとえば自然や文化のガイドのほか、地域の核となる産業や、農林水産業に従事する人も対象になるし、書道体験などを提供できる地域住民も含まれる。

ただし、農家や漁師などにはそれぞれに本業がある。彼らが自ら体験プログラムを作り、ホームページに掲載して客からの問い合わせを受け、予約から料金収受、クレーム処理までを行うことは本来の業務ではない。したがって、観光客に対して「おもてなし」をする必要はなく、「おすそわけ」をする人であると鈴木氏は表現する。「おすそわけ」なので、必ずしもビジネスとして常にサービスが提供できるように整える必要はなく、たとえば1カ月に1回だけであれば受け入れてもよい、ということも可能になる。

2.地域コーディネーター

観光客の受け入れを本業としないアクティビティプレイヤーに代わって「おもてなし」をするのが「地域コーディネーター」である。

彼らは、アクティビティプレイヤーが提供するサービスをマーケットに紹介したりお客さんからの問い合わせを受けつけたり、時には、受け入れの頻度や回数を調整して、地域の価値ある宝物が失われないように調整する。つまりアクティビティプレイヤーや彼らが提供するコンテンツを「編集」し「守る」役割を担っている。

たとえば、あるアクティビティプレイヤーの「1カ月に一度は受け入れても大丈夫だけど毎週は厳しい」といった勘どころを掴んだ上で、お客さんの要望や訪問時期、人数などの情報を踏まえて、地域のAさんとBさんを組み合わせる。またBさんに急用が入ったから、Cさんに依頼して、というように手配調整をするのが地域コーディネーターの役割だ。


▲漁師の奥さんたちの暇つぶしから誕生した、村での伝統的な遊び「宝引き(ほうびき)

3.ツアーオペレーター

そして、コーディネーターが編集した地域の宝を海外等のマーケットにつないで外貨を稼ぐのが「ツアーオペレーター」である。たとえば海外からの旅行客のオーダーが1週間程度となる場合、1県や1市町村だけでとどまることは少なく、いくつかの地域をめぐるのが一般的である。しかし海外の旅行エージェントや個人客が、複数の地域の旅行プランを練り上げてそれぞれ個別に手配していくのはハードルが高く、できることに限界もある。

そこでツアーオペレーターは彼らの要望をよく聞いて、旅行の目的に合わせて各地の地域コーディネーターと連絡を取りながらアクテビティを選ぶ。そして訪問する地域を並べて行程を作り、1つのストーリーに仕上げるのがツアーオペレーターの役割となる。

たとえば、行程中の体験内容や宿泊先のランクを徐々に上げていって、クライマックスを最終日近くに持っていき、お客さんの満足度を最高潮にして終えるといったノウハウも大切で、旅行客の経験価値を高めるために重要な機能を果たす。

また、海外との取引で必要となる金銭収受や保険、法律的な対応などを専門的に引き受けることが必要である。

4.スルーガイド

以上の3つの機能に加えて、ツアーオペレーターが設計した旅行を実現するためにはスルーガイドが大事な役割を担う。スルーガイドは地域ごとのスポットガイドではなく、基本的に旅の最初から最後までの全行程に同行し、ガイディングやリスクマネジメントを行う。スルーガイドの手配もツアーオペレーターの業務に含まれる。

スルーガイドがいることで、たとえば「天気が悪くなりそうなので、可能であれば明日の予定を今日に早める」とか「体調が悪そうなので今日は早めに切り上げてホテルでゆっくりする」など、客に寄り添った調整が可能となるし、そのような柔軟性が客の満足度を高めることになる。


▲スルーガイドの存在は重要だ

 

ツアーオペレーターとしての北海道宝島旅行社の役割

北海道宝島旅行社は、ツアーオペレーターとして、富裕層向けの商談会に参加するなどして海外の旅行エージェントなどとも取引を行っているが、個人の訪日旅行者との直接取引が圧倒的に多いという。

旅行者個人を対象としたBtoCのビジネスについては、主にウェブサイトを活用して集客している。顧客からの要望に対して、トラベルコンサルタントが窓口となり、地域コーディネーターとともに考えたコンテンツを提案し、契約締結までを行う。そのため、トラベルコンサルタントにはヒアリング力や提案力が要求される。なお、お客様の生の声を直接聞き、顧客満足度を高めることができる点からも、旅行者との直接取引のメリットは大きいそうだ。

また、訪日客向けのツアーオペレーター事業に加えて、体験プログラムを掲載・販売する予約サイト「北海道体験」の運営や、地域のプログラム開発や地域と連携した観光地域づくり事業をすすめてきたことから、各地の地域コーディネーターとの連携も多いという。

たとえば、札幌と函館の中間地点に位置する黒松内町では、観光協会が「農家さんのお宅でポテトチップスづくり体験!」という商品を提供している。参加者が自分で収穫したじゃがいもを、農家の台所を借りてスライスして油であげ、手作りポテトチップスを作る体験を行う。アメリカで知られている農場や牧場の敷地内に泊まり、酪農体験や収穫体験などを楽しむファームインの取り組みを知った農家の、旅行客を家族の一員として迎えたい、という思いで実現した企画である。


▲黒松内町でのポテトチップスづくり体験(詳細はこちら

 

ツアーオペレーター育成に向けて国を挙げた取り組みを

ツアーオペレーターは、市場に向けて商品を届ける重要な役割を担っているにもかかわらず、その機能や存在は、忘れられがちであるのが実態だ。そのため、たとえ地域で商品を作ったとしても市場に届かないということもよく生じる。

残念ながら、現時点では各地域にツアーオペレーターが十分に育っていない。特に海外エージェントから見るとどこに相談をしていいかわからない状態になっているという。アドベンチャートラベルでアジアNo.1になる、という目標が掲げられるなかで、その実現には、北海道、東北、といったエリアごとに地域に精通したツアーオペレーターが必要で、国を挙げて各地域のツアーオペレーター育成に取り組むべきと鈴木氏は訴える。また、そうして育ってきたツアーオペレーターが横につながりノウハウを共有して、レベルアップする仕組みが必要だという。

長年ツアーオペレーターとして実績を積んできた北海道宝島旅行社からもノウハウを提供することを惜しまないと話す。


▲樽前山で登山をする鈴木氏

また、ツアーオペレーターは、手配する地域を限定しすぎると、マーケット規模が小さく十分なビジネスにならないため、複数の地域をコーディネートすることにより取り扱い規模を拡大することが必要となる。たとえば、北陸であれば福井県に特化するのではなく、石川県、富山県を含めた北陸三県を扱うといった具合である。

一方で、地域コーディネーターは、現時点では、都市部や有名な観光地を除けば、それだけで生計が立てられるほどの取り扱いボリュームはない。そのため行政の支援が必要であり、自治体やDMO、観光協会がその役割を担うことが1つの方法である。なお、アクティビティプレイヤーは、本業のかたわら副業として活動することもできる。

鈴木氏は、地域コーディネーターには、地域に長く住む、もしくは住もうとする人材が必要だという。観光業従事者以外の関係者を巻き込むには、ノウハウやセンスだけでなく、数年かけて信頼関係を築くことも大切だからだ。最初は地域に受け入れられなくても、1つずつ結果を積みあげていけるような意味でのずぶとさも必要だ。この地域のために自分がやるのだ、と言い続ける人が、後進を育て未来につないでいける。

 

各プレイヤーの役割を理解したうえで、柔軟な対応が欠かせない

今回は、アドベンチャートラベルを例に、地域資源から経済価値を生み出すために必要な要素を見てきた。鈴木氏によると、アクティビティプレイヤー、地域コーディネーター、ツアーオペレーターという3階層の機能が必要であり、その中でもツアーオペレーターは、地域の資源を価値としてまとめ、その価値を市場に提供して地域に外貨を獲得する役割を果たしているという。

この3つの機能が揃えば理想的な形でお客様に対して価値の高いツアーを提供できるが、実際にはそれぞれの役割を担うプレイヤーが1つの地域にすべて備わっているというケースは少ない。

これまでニューツーリズムや着地型観光を進めてきた地域では、アクティビティプレイヤーや地域コーディネーターが必要とされてきたが、商品を地域の外、つまり訪日客に届けて外貨を稼ぐツアーオペレーターの存在や重要性は目に留まらなかった。また、地域コーディネーターがいない場合には、ツアーオペレーターがその機能を担うといったことも必要になる。

今回の事例から、ツアーオペレーターの存在により、地域の価値ある資源が1つの商品の行程として取りまとめられ、それが市場に流通することによって、地域の持続的な観光システムが成立することがわかった。英国では、1977年にインバウンドの業界団体「UKINBOUND」が設立され、ツアーオペレーターやサプライヤーなどをメンバーとして独自の活動を行っている。日本でもツアーオペレータービジネスがさらに発展していくためには、今後、さまざまなしくみや制度の整備が求められるだろう。

(写真提供:株式会社 北海道宝島旅行社)

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