インバウンドコラム

2026年韓国人の桜旅行トレンドは「脱定番」、ライフスタイル体験を求めて小都市へ

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2026年春、韓国人旅行者の「桜旅行」はどのような広がりを見せるのか。筆者が企画を手掛けてきた、韓国で1000万ダウンロードを超えるFIT向け海外旅行アプリ「TRIPLE」が蓄積してきたデータをもとに、訪日市場における最新トレンドを読み解いていく。

 

桜旅行は“年初始動”、1〜2カ月前から計画化準備

韓国人の桜旅行は、出発直前ではなく1〜2カ月前から準備が始まる。TRIPLEの利用者は平均して旅行の約2か月前から旅行日程表を作成しており、2025年のデータでは、1月に作成された大阪・東京・福岡の旅行日程数は4月比で約31%増、2月も約20%高い水準を記録した。3月下旬から始まる日本の桜シーズンを見据え、韓国の旅行者が年初から桜旅行を「計画型の旅行」として認識していることを示す指標といえる。

2026年も同様に、1月以降、3月末から4月初旬にかけて日本を訪れようとする需要が上昇している。なかでも福岡への関心が高い。東京に比べ地理的に韓国に近く、航空券や宿泊費の負担が比較的少ないことから、繁忙期直前でも桜旅行を準備しやすい都市として評価されているとみられる。福岡市内はもちろん、柳川や大分県日田など桜シーズンに注目される小都市へのアクセスも良く、「大都市+近郊小都市」を組み合わせて楽しめる拠点都市としての魅力が大きく作用している。

左:TRIPLEアプリのトップページ、円内は左から東京、福岡、大阪、札幌で下の数字はその都市を検討・予約しているユーザー数(例:福岡 15,670名) 右:「今年はどこへ行こうか?」というタイトルで、柳川で船に乗ってのお花見を提案

 

キーワードは「コスパ」と「動線効率」

旅行日程の作成数だけでなく、関連記事への反応からも変化が読み取れる。2024年に公開された日本の桜マップ記事では東京・大阪への関心が最も高かったが、2025年の桜マップでは福岡が東京・大阪を上回る関心度を記録した。今年も2月の初めに「2026年TRIPLEが注目する桜旅行のトレンド」に関する記事を公開しており、「日本の春を巡る|全国の桜スポットマップ」も公開予定だが、小都市の桜スポット紹介が中心となる見込みだ。

これは、韓国人の桜旅行が「代表的名所の訪問」から「費用・距離・動線効率を重視した選択」へと移行していることを示している。大都市に比べ宿泊費や外食費が抑えられ、航空券の価格競争力もある小都市は、物価が上昇する桜シーズンでもコストパフォーマンスの高い選択肢として認識されている。自然景観を楽しむことが主目的であるだけに、人混みの多い大都市を避け、比較的落ち着いた小都市を選ぶ動きが強まるとみられる。

 

交通インフラが変える桜旅行の行き先

旅行先は、大都市単独訪問から近郊・小都市を含む多様化構造へと変化している。TRIPLE利用者の動向を見ると、2025年基準で東京・大阪・福岡の都市ホーム(アプリ内の各都市のトップページ)の月間利用者数(MAU)は前年比で減少した一方、熊本・高松・松山など小都市は増加した。大都市内でも一般的な観光情報より「近郊小都市」を扱った記事の反応指標が高い。

特に航空アクセスが改善した都市が注目されている。直行便が新設・増便された石垣、松山、函館への関心は顕著に増加した。名古屋も関心が高まっている都市の一つで、直行便による利便性に加え、白川郷や下呂温泉といった近郊エリアの充実度、名古屋城や山崎川(名古屋市内の河川)など桜名所を備える点が評価されている。

また、SNSで「第2の京都」と呼ばれる日田は、大人気アニメ『進撃の巨人』の聖地として韓国でも知られ水路景観が印象的な柳川もSNSの口コミ効果で認知度を高めた。桜シーズンには移動負担が少なく日程調整が容易な都市ほど選ばれる傾向があり、航空・交通インフラが旅行トレンドに直接影響を与えていることがうかがえる。

 

「観光客」より「ローカルのように」楽しむ

近年の日本の桜旅行では、有名な桜名所を巡るだけでなく、現地の人々が楽しむ方法や、比較的知られていない場所、余裕ある動線設計が重要視されている。東京では青山霊園や神田川、谷根千、仙川など日常型の桜スポットが、福岡では天神中央公園、舞鶴公園、西公園などが「地元民が訪れる桜名所」として注目される。

旅行スタイルにも変化がみられる。単なる写真撮影や散策にとどまらず、花見ピクニックを楽しみ、都市の日常を体験しようとする需要が高まっている。韓国では桜並木を歩きながら鑑賞する形式が一般的であるのに対し、日本の花見は桜の下に座り、弁当やビールを楽しむピクニック型が主流だ。韓国は桜の時期に大気汚染物質PM2.5の数値が高く、日本のような青空を見ることが簡単ではないのも、桜旅行を計画する理由の一つと言えるだろう。

韓国内の日本旅行コミュニティでも、桜の穴場や周辺の街情報、おすすめ弁当など「現地目線の情報」が活発に共有されている。韓国人旅行者にとって桜旅行は、もはや観光イベントではなく「ライフスタイル体験」へと再定義されつつある。日本の桜旅行は今、「有名スポットをどれだけ巡ったか」ではなく、「自分なりの方法でどう楽しんだか」を問う旅へと進化している。

 

NOL World(旧Interpark Global) 企画・マーケティング担当
キム・ジュヒョン

韓国ソウル生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科、博士課程満期退学。留学時代に日本全国を旅する。帰国後、(株)NOL Universeに入社。韓国人のアウトバウンド旅行をサポートするアプリ「TRIPLE」(航空、宿泊、アクティビティの予約に加え、旅行のしおり作成や道案内も提供)のグローバル企画を経て、海外旅行客の韓国インバウンド旅行アプリ「NOL World(旧Interpark Global)」の企画・マーケティングを担当。

 

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