インバウンドコラム

“桜を見る”だけでは選ばれない台湾市場 リピーター化と地方志向から読み解く誘客と発信のヒント

印刷用ページを表示する



2026年に入り、次回の訪日旅行を見据えて春シーズンの計画を立て始めている台湾人は少なくない。ところが、複数の旅行会社に話を聞くと、今年の観桜商品の売れ行きについては「例年ほど良くない」という声が多く聞かれる。かつて「観桜(お花見)」は、台湾の訪日旅行市場において非常に重要なテーマであり、航空・旅行業界にとっても、消費者にとっても、「春節」や「紅葉」と並ぶ代表的な訪日観光シーズンの一つであった。

もちろん、これまで筆者が何度か指摘してきたように、台湾の訪日旅行は個人旅行化が進み、団体旅行は社員旅行やインセンティブツアーなどの手配旅行が中心となっている。そのため、一般募集型ツアーの販売が伸びにくくなっているという背景は理解できる。しかし、消費者の声を直接聞いてみても、「今年は満開の桜を見に日本へ行きたい」と強く考えている人は、以前に比べて明らかに少ない印象を受ける。これは、一体どういう変化なのだろうか。

 

2026年台湾市場のお花見ニーズ 成熟する訪日旅行と高まる地方志向

リピーター化が進む台湾市場 桜への執着が薄れる旅行者の今

春の訪日旅行を計画している台湾人消費者は、今も桜の開花予報には注目している。ただし、かつてほど「満開」にこだわらなくなってきていると言える。

台湾市場は訪日旅行リピーターが大半を占めており、すでに満開の桜を十分に楽しんだ経験を持つ人が多い。また、桜の開花時期が年によって大きく前後することへの理解も広がっている。こうした背景が、「満開でなければ意味がない」という意識を和らげている大きな要因だろう。

さらに近年は、観桜が春の訪日旅行における“唯一の目的”ではなくなっている点も見逃せない。ある旅行会社幹部は、「満開の桜を第一条件にする顧客は一部に過ぎず、多くは『春に日本へ行き、もし桜が見られたらラッキー』という感覚だ」と話す。

その結果、観桜シーズンが必ずしも春商品の販売ピークを意味しなくなり、団体ツアーの催行時期も、以前ほど特定期間に集中することが少なくなっている。

お花見の目的地は「東京・大阪」から全国各地へ

近年、台湾から日本への航空路線は着実に就航地を増やしており、台湾の消費者にとって「観桜=東京・大阪」といった固定的なイメージは薄れてきている。地域ごとに異なる開花時期や桜の品種を楽しめることに加え、その土地ならではの景観や文化を体験できる地方都市への関心が高まっている。

航空会社側も、かつての桜シーズン限定チャーター運航から、需要に応じた定期便の増便や機材大型化、オープンジョー販売(到着地と出発地が異なる航空券)を活用した、より柔軟な運用へとシフトしている。ある航空会社幹部は、「主要都市では観桜期間中の宿泊料金が高騰するため、旅費を抑え、混雑を避ける目的で地方都市を選ぶ消費者が増えている」と指摘する。

旅行会社各社も、団体旅行においては、大都市圏よりも地方都市の方が価格の安定性や行程管理の面で優位性があると認識している。こうした消費者マインドの変化を受けて、近年の観桜ツアーは地方都市重視の傾向を強めている。

 

2026年のお花見旅行、注目エリアは東北・四国・九州

短期間で都市型の観桜を楽しみたい層や、満開の桜に強いこだわりを持つ層については、依然として東京や大阪の有名お花見スポットに人気が集中している。

一方で、自然景観や温泉、地域文化を重視する層や、比較的長めの日程で訪日する層は、地方都市を選ぶ傾向が強い。その中でも、近年特に注目度が高まっているのが、東北・四国・九州である。

東北は弘前や角館といった桜の名所に加え、自然景観や独自の文化がリピーター層を惹きつけている。四国は混雑の少なさに加え、四国初訪問の旅行者が多く、「新鮮さそのもの」が魅力となっている。九州は、飛行時間の短さと、多様な目的地を組み合わせたコース設定の自由度が差別化要因となっている。

 

“桜だけ”では届かない台湾市場、地域の魅力を“線”で伝えるプロモーション設計とは

以上を踏まえると、自治体や観光事業者が台湾の旅行会社に向けてプロモーションを行う際には、「桜を見ることだけが旅の目的ではない」「観桜と合わせて、その土地の魅力を深く楽しみたい」という消費者トレンドを前提に考える必要がある。

単に観桜スポットを紹介するだけでなく、その周辺でどのような観光、食、文化体験ができるのかを組み合わせ、点ではなく「線」としてルートで提案していくことが重要だ。また、花見のための桟敷席などを有する地域であれば、それらを活用し、日本らしい花見文化を体験できるメニューを用意するのも有効だろう。

さらに、これまで繰り返し述べてきた通り、旅行会社は食事、宿泊、体験メニューに関する具体的な情報を常に求めている。これらについても、積極的かつ継続的な情報提供が欠かせない。

消費者向けプロモーションにおいては、日本と同様、特に20〜30代を中心に、SNSのリールなどのショート動画が訪問動機につながるケースが多い。観桜をテーマにする場合、「水辺+桜」「夜桜ライトアップ」「列車+桜」「城+桜」「雪+桜」といった幻想的なビジュアルは高い訴求力を持つ。現地の受入状況を踏まえつつ、こうした要素を意識した動画コンテンツの制作・発信が効果的だろう。

 

誠亞國際股份有限公司  代表 矢崎 誠

2004年に前職のJR北海道にて初代インバウンド営業担当として任命され、以来18年間訪日旅行プロモーション業務に従事。2014年に「誠亜国際有限公司」を創業し独立。香川県観光協会、高知県観光コンベンション協会、三重県観光局、神戸観光局の現地レップなど、主に自治体関連のインバウンドプロモーション事業サポートを中心とした事業を展開する。台湾在住歴14年。著書に『はじめての台湾マーケティング』(Kindle版)。

最新記事