インバウンド事例
【飲食店:浅草つる次郎】日本人客と外国人客という“二兎を追う”ために必要なこと
2018.10.25
事例のポイント
- 日本人客と外国人客の二兎を追うことは可能だ
- 普段遣いできるサービスでなければ意味がない
- 「スピード」が伴わなければ使えるサービスだとは言わない
- 「笑顔」や「喜び」は伝播していくもの
インバウンド消費が右肩上がりに伸びていくなか、「日本人客か、外国人客か」という二者択一で頭を悩ませている飲食店や宿泊施設は少なくないが、“二兎を追う”ことに成功している事業者もいる。その一つが、2018年10月現在、TripAdvisorの「浅草のレストラン(316軒)」で第1位に選ばれている浅草つる次郎だ。
お好み焼きをウリにしたこの鉄板焼屋で店長を務める浜田圭二さんは、「2010年頃に比べて今は売上が2倍となりました。毎年5〜10%の売上伸び率を維持してきた結果ですが、この上積み分は外国人客によるものです。だからといって日本のお客さまの売上も下がっていません」と話す。
浜田さんによれば、浅草は数多くの飲食店がしのぎを削っていることもあり、同店ほど売上が伸びている飲食店は多くないという。では、なぜ浅草つる次郎は二兎を追うことに成功しているのか。その秘訣について聞いた。
日本人客と外国人客の二兎を追うことは可能だ
浅草の中心ともいえる浅草寺雷門から徒歩数分に位置する浅草つる次郎は、2007年のオープン当初、「外国人客は一日に1組いるかいないか程度だった」と浜田さんは話す。つまり、ほとんど日本人客でのみ成り立っていた店だった。それでも開店から3〜4年を経て、売上は年間5000万円程度にまで伸びたが、さらなる売上げアップのためにはテコ入れをする必要を感じたのだ。浜田さんは続ける。
「日本の観光客は、土日祭日やゴールデンウィークなどの長い休みのときに偏ります。そういった日は、既に行列ができていましたので、売上を大幅に伸ばすことは難しいと感じていました」
客単価を上げたり、回転率を上げたりするという方法もあったが、「そうしたことをすれば、今のサービスに満足してくださっている常連のお客さんの満足度を下げてしまいかねない」と、できれば避けたかった。そこで目をつけたのが外国人客。彼らは日本の観光シーズンに関係なく、浅草を訪れている。だからこそ、平日だろうと、閑散期だろうと、関係なく店に足を運んでくれるのではないか、と考えたのだ。
「目論見通り、平日を中心に外国のお客さんが目立つようになっていき、今では1日に20組は来店してくれています。季節と曜日によっては、店内が外国のお客さまで埋まることもあります。現在は売上が年間1億円程度と、過去最高を更新し続けていますが、これは間違いなく上積みされた海外からのお客さまの売上のおかげですね」
ちなみに、浅草つる次郎を訪れる外国人客は、外国人だけで来店する場合と、案内役の日本人が引率して来店する場合とがある。その割合は半々だというが、前者は予約なしが多く、後者は予約ありで来店することが多いという。
「特に海外のお客さまだけで来店する場合、飛び込みで来ることが多いのですが、そのときには“どうしてうちを知ったんですか?”と聞きます。すると、近隣のゲストハウスやホテルから紹介されて来ました、と答える人も少なくありません」と浜田さん。なぜそのような集客の流れができているのかといえば、海外のお客さまを集客する方法のひとつとして、「近隣の宿泊施設に挨拶してまわっている」という土台があるからだ。ただ、ここにはこの後の話にも繋がる一つのポイントがある。ショップカードやチラシを用意し、バラ撒くということはしないという点だ。
「外国人観光客にショップカードを手にとってもらうよう、色んなところに営業して置かせてもらうという方法もあります。でも、これには外国語の販促物を大量に作り、数が減っているかチェックをして、減っていたら補充をかけるなど、たくさんの作業が必要となります。はっきりいってうちのような個店には大きな負担です。ですから、まずインターネットできちんと“インバウンド対応をしています”と謳っておく。そのうえで、近隣の宿泊施設のスタッフの方々にうちのことを知ってもらう。これで十分なんです」
いまや外国人観光客は、ほぼすべての人がスマホやタブレットを用いてリサーチをしている。そのことを考慮して、宿泊施設の場面をイメージしてみるといいだろう。彼らはスマホを持った状態で、宿泊施設のスタッフに「このあたりでオススメのレストランはありますか?」と聞くに違いない。そのとき、そのスタッフは「歩いて少し行ったところに、浅草つる次郎ってお店があって海外の方に人気みたいです」と答えるだろう。早速彼らはネットで調べてみる。すると、“ウェルカム”であることがわかる。十分に来店動機となることは、想像に難くない。
浜田さんはこうも付け加える。「海外のお客さまは言葉の問題がありますから、視覚的に訴求することも大事だと思っています。ですからYouTubeにシズル感満載の動画をアップして、ホームページのトップに貼っています」
普段遣いできるサービスでなければ意味がない
先ほど紹介した集客方法についても同じことがいえるが、肝心の現場での接客サービスについても、“負担”を避けるよう気を配っている。つまり浜田さんのなかに、「持続可能な接客サービスでなければ採用しない」という考えがあるということだ。浜田さんはこの点について、次のように表現している。
「私は普段遣いできるサービスでなければ、意味がないと考えています。なにかお客さまに喜んでいただけるようなサービスを始めたとしても、それが半年しか続かないのならば、意味がありません。むしろ、一度サービスを受けたお客さまが期待を胸に再来店してくれたときに、そのサービスが終わっていたら、非常にがっかりしますよね。それに、経験的にいってサービスは1年以上続けないと効果は目に見えて現れないことも多いんです。だから、普段遣いできることが重要なんです」
では、普段遣いできるサービスには、どんな手法があるのだろうか。後編で具体的に紹介していく。
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