インバウンド事例
【ソコイコ!】ゼロから始めた“自転車でめぐるツアー”、商品造成〜集客のコツ
事例のポイント
- 「ここにしかない」ストーリー探しを突き詰める
- OTAは、自社のサービスに適したサイトに絞り込む
- 値段は高めの設定が、安心感につながる
- 5W2Hを意識した商品造成
- 何はともあれスタートさせる!!
インバウンド市場において「コト消費」が注目を集める中、電動自転車で広島の街をめぐるツアーが人気となっている。外国人観光客を対象としたこの「sokoiko!(ソコイコ!)」というコンテンツを開発したのは、広島市を拠点とする株式会社mint。今回は同社の代表取締役、石飛聡司(いしとびさとし)氏に、商品造成のコツなどについてのお話を伺った。
ガイドブックには載っていないオリジナルの旅を造成
「とっておきの広島の旅を!」というスローガンのもと、2016年に電動自転車で街を巡るツアーを広島で立ち上げた石飛さんはアパレル業界出身で、観光業はまったくの素人だったという。創業から2年経った今も、観光事業をしているというよりは「“広島”の良さを紹介するためのセレクトショップを運営している感覚」だという。広島の魅力を知ってもらうためには、広島のどの部分をどうプレゼンしたらいいのかということを常に自問自答し、異業種出身ならではの視点で商品造成などにも取り組んでいる。
幼い頃から自転車に乗って街を探検することが好きだったことや、前職で日本各地に赴任する度に新しい街を巡っては自分なりの面白い所を見つけ、家族や友人が遊びに来てくれた時に案内した際に「いいね!」と言われた時の高揚感。さらに、外に住んだからこそ改めて気づいた広島の魅力をもっと人に伝えたいとの思いが原動力となり、地域貢献ができる面白い事業をしたいと始めたのが「sokoiko!」のサービスだ。
とはいえ、「外国人と自転車で広島市を巡るツアー」というアイデアがあっても、自身は観光業の経験があるわけでもなく、英語もできなければサイクリストでもない。事業計画やプレゼン資料を作って、自治体や旅行事業者など、色々なところに営業に行くものの、「実績はあるの?」「ノウハウはあるの?」と冷ややかな反応だったという。
そんな中、市の担当者がシェアサイクル「ぴーすくる」を運営しているツアーズ広島を紹介してくれたことで、連携が実現。ドコモが母体で、広島市が実施主体として携わっているシェアサイクルということもあり、株式会社mintの信用度も一気に上がったという。
「スタート時は実績もないので誰にも振り向いてもらえず、自分の思いだけが先行してしまって本当にしんどい時期でした。そんな中、信用して連携してくれたツアーズ広島さんには本当に感謝しています」。
『ガイドブックには載っていないゲストと造るオリジナルな旅』というsokoiko!のコンセプトは、スタート時から決まっていたのだろうか。
「旅先では皆さん、ガイドブックなどを見てから観光すると思うのですが、どの本でも載っている内容はほとんど変わりません。でも、ガイドブックに載っていなくても面白い場所はたくさんありますし、ゲストの興味や目的に沿った形でガイドブックには載っていない場所を地元のガイドと一緒に巡れたら楽しいはず。そんな思いからコンセプトはスタート時から決まっていました」
ツアーズ広島との連携で自転車の手配はできた。留学で培った語学力を活かしたいというガイドの準備も整い、ホームページを作って予約受付開始をしたのが2016年11月。寒くなるのであまりいい時期ではないが大丈夫だろうと高を括っていたら、半年間で予約件数ゼロ。ホームページへのアクセスもなく、陸の孤島で一人叫んでいるような気分だったという。
OTAの登録は「選択と集中」。自社のサービスに適したサイトを見極める
そんな状況を、どうやって打開していったのか。
幸い春になり、ちらほらと来はじめたお客さんの様子をホームページやFacebookで最大限に打ち出した。販路を作るためには、自社のホームページだけではダメだということに気づき、アクティビティ系OTAで、掲載無料でツアー参加の予約が入るとマージンが発生する仕組みのサイトに片っ端から載せまくった。販路が増えていくと参加者も増えてくる。1回のツアーで参加者の写真を40〜50枚を撮り、Facebookを交換した参加者にその日のうちに写真を送るとレビューを書いてくれる確率が高くなる。こうしてTripAdvisor(トリップアドバイザー)へ掲載されるレビューも徐々に増えていった。
現在、6、7社のOTAに登録している中でも、Attractive Japan(アトラクティブ・ジャパン)が連携しているViator (ビアター)からの集客がもっとも多いという。Attractive Japanを運営している地域ブランディング研究所はサポートもしっかりしており、戦略や広報活動の相談にのってくれたりもするそうだ。
「複数のサイトに登録したことで、うちのサービスがはまるサイトと、はまらないサイトがあることを学びました。サイトによってヨーロッパ系が強いとか、オーストラリアに強いといった傾向があります。うちはオーストラリア人の参加率が一番多く、ヨーロッパ勢では知的好奇心の強いイギリス人やフランス人が多いです。
平均的にやるのではなくて、自分たちのサービスにはまるサイトを選ぶことも大切だということがわかりました。“選択と集中”ですね」。
ランオペにツアーを紹介するBtoBにも力を入れているBEAUTY OF JAPAN(ビューティー・オブ・ジャパン)からの集客も多い。「BtoBサイト経由の参加率が高くなっています。広島への訪日客の方はほとんどが初めての方なので、旅慣れている人が使うことの多いBtoCのサイトからいきなり予約するより、ランオペ経由で“あそこが面白いよ”と紹介された方が安心感を得られるのでしょう」と分析する。
sokoiko!の顧客層は、ハイヤーで観光する富裕層でも、自分で探検するバックパッカー層でもなく、その中間のミドル層がはまると見ている。ミドル層の人々は、ある程度下調べをして事前に予約をしてくる場合が多いので、ランオペを間に入れるOTAがはまるのだということがわかってきた。
復興のストーリーを伝え、広島のポジティブな側面も見てもらいたい
sokoiko!で提供しているルート中で、もっとも申し込みが多いのが「ピース・ルート(平和を学び感じるルート)」。強い思いを込め造成した3時間のツアーだ。
ツアーをスタートさせる場所にもこだわりがある。当時、原爆投下の東京への一報は広島城の中にあった軍の施設からなされた。甚大な被害の中唯一通信が通じた軍施設から知らせたのだ。なので、ピース・ルートは「ここで第一報を伝えました」という言葉と共に広島城からツアーをスタートさせ、まずは原爆ドームを含む街全体を一望してもらう。どこが爆心地で、どのくらいの高さで爆発したのかということも説明した後に、平和記念公園に向かう。
「ピース・ルートでは、いろいろな話を交えながら一緒に街を巡って、被爆後の広島と今の広島を比べていきます。たとえば、原爆投下の3日後に路面電車が復旧したというストーリーにも、みなさん驚かれます。3日前まで賑やかだった街が一瞬で姿を消してしまった中、ひとつでも日常を取り戻そうということで、女学生たちが車掌になり、広島電鉄と一緒にまずは1両だけでもと動かしたのです。それを見た街の人達が“じゃあ俺らもやらんといけんね”と前を向いたことで、復興のスピードが速くなっていったというエピソードがあります。原爆資料館に皆さん足を運ばれます。とても重要な史実が展示されてますが、そのまますぐに他の街に向かってしまうと、広島=悲惨という面が強く残ってしまいます。70年しか経っていないのに、ここまで復活した広島を見て体感していただいて、人間の強さや街の復興への努力というポジティブな面も見てもらいたいんです」。
日本の各観光地が共存できることが一番の理想
商品造成のブートキャンプやワークショップにも講師として招かれるという石飛氏。商品造成には、「ここにしかない」ものを探すことが重要だと伝えるという。すでに外国人観光客が来ているでのあれば「何をしにこの街に来ているのか」、まだ来ていないのであれば「何だったら響くのか」に拘る。そしてもうひとつ大切なことは、「訪日客は(そのエリアを目的に来ているのではなく)日本に来ている」ということ。日本に来てから広島を選ぶのだとしたら、日本を選んだ理由と、何を求めて広島まで足を運んでくれたのかを追求することが重要だと石飛氏は強調する。
「47都道府県それぞれの個性があります。お店でたとえると、東京は売れ筋のコートだと思うんです。島根はとっておきのちょっとキラッと光るアクセサリーみたいなアイテム。コートにそのアクセサリーを合わせるとすごくオシャレになる。本当は組み合わせが可能な商品が47個あるはずが、現状では30個くらいは、まだ倉庫にストックされていて20個くらいしか店頭に出ていないという状態だと思います。だから47都道府県のストーリーをちゃんと店頭に並べてあげて、お客さんが選べる状況を作ってあげるというのが一番やるべきことなんだろうなと思います」。
各地がそれぞれのフラッグをしっかり立ててPRすることにより、相乗効果も期待できる。「外国人観光客から“2週間のホリデーのうち1週間は日本で過ごして、残りの1週間は上海やマカオ、東南アジアを巡って帰る”といった話を聞くが、残りの1週間も全て日本で過ごしてくれるよう、日本各地の選択肢の幅を広げていけば、リピーターも増えて行くはず」と石飛氏は熱く語る。
「値段は安い方がいい」ではなく、「あえて高めの設定」を
5W2Hを意識した商品造成の大切さも伝えている。しかし残念ながら、商品造成のアイデアだけで終わってしまって、実際に商品の棚に出ることはほとんどない。なぜならば、実行する主体(Who)がいない、そして値段(How Much)がつけられないからだという。
また、「日本人は値段を低くつけすぎるという傾向が強い」と懸念する。自信がある商品は、満足してもらえるとわかっているので、値段を高めにつけることが重要。
「たとえば、1,000円のコートよりも8,000円のコートの方が欲しいじゃないですか。なぜかというと、1,000円のコートは“どうせナイロンなんでしょう?”となりますが、8,000円だったら暖かくて長く使えるんだなという安心感があります。高く設定することで安心感も生まれますから、あまり安売りするのは得策じゃないです。よく“こんなに安くてもお客さんが来ないんだったら、高くして来るわけがない”と言われる方がいますが、実は逆なんです」。
値付けも1つの商品に対して1つだけにする必要はなく、ルートを変えて値段にバリエーションをつければ、お客さんが選んでくれる。
そして、もうひとつ大切なのは「何はともあれスタートさせる」こと。とにかく棚に出さないと、それが売れるのかどうかもわからない。「そして、何よりも大切なことは自分の思いを大切にして、芯をブラさずにコツコツとやっていくことです。僕も当初は“辞めた方がいいんじゃない?”とか散々言われながらやってきたのですが、辞めなかった理由は、最初に来てくれたお客さんがすごく楽しんでくれた顔を覚えているからです。熱意があれば必ず仲間が広がっていきます!」。
仲間を集め商品企画をする自分の役目が映画監督なら、この映画の主役はゲストで、ガイドは助演俳優。ゲストに楽しんでもらうことを何よりも優先すべきと語る石飛氏の夢は、「sokoiko!」のフラグを47都道府県を立てること。全国各地の魅力を引き出した商品をつくり、どんどん棚に出していくのが自分の役割だと熱く締めくくってくれた。
取材協力:株式会社mint
石飛聡司氏に連絡を取りたい方はこちらへ:toby@mintinc.co.jp
最新のインバウンド事例
岐阜長良川の流域文化を再定義、高付加価値の和傘が繋ぐ技術継承と持続可能な地域づくり (2023.10.13)
高付加価値ビジネスで地域課題に新機軸、青森ねぶた祭で1組100万円のプレミアム席が継続できる理由 (2023.08.25)
辺境地が1日1組限定のプライベートキャンプ場に、遊休資産の付加価値アップ術 (2023.06.16)
インバウンドに大人気 京都のラーメン店が、コロナ禍でパン業界へ参入したわけ (2021.12.23)
栃木・大田原ツーリズムによる農村観光の「インバウンド市場創出」に向けた2つの取り組み (2021.11.19)
4年で黒字化、重点支援DMO大田原ツーリズムが主導する「農家民泊」の戦略 (2021.11.18)
【ニッポニア|NIPPONIA】古民家を活用した地域おこしニッポニアの原点、全国への事業展開を可能にしている理由(後編) (2020.11.20)
【ニッポニア|NIPPONIA】アフターコロナを見据えた地域づくりのカギは、増え続ける空き家の活用にある!?(前編) (2020.11.19)