インバウンド事例

サステナビリティを日常の意思決定に、KIGIに学ぶ持続可能な飲食店経営

2026.03.17

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飲食業界では近年、食品ロスや環境負荷への配慮など、サステナビリティへの関心が高まりつつある。一方で、それを経営として体系的に実践できている店舗は、まだ限られているのが現状だ。東京永田町に店を構えるレストラン「KIGI」は、こうした取り組みを日常の営業の中に組み込み、継続してきた数少ない飲食店の一つである。

食材の選び方やメニューづくり、店舗運営に至るまで環境や社会への配慮を経営の中心に置くKIGI。その姿勢に共感する人々からの信頼は厚く、貸切利用の問い合わせも増加している。さらに海外から訪れる旅行者の受け入れも実績を重ねており、サステナブルな取り組みを実践する飲食店として注目を集めている。KIGIがどのような判断基準でサステナブルな経営へと舵を切り、それを現場でどのように実践しているのか。レストランを運営する株式会社Relection Designの表秀明氏への取材をもとに、その具体的なプロセスを追った。

 

続けられることを前提にしたサステナブルな飲食店経営

国会議事堂や官庁街に隣接するホテルの一階に店を構えるレストラン「KIGI」。周囲には緑も多く、都心にありながら静かな環境に佇む。

サステナブルな運営を軸に、食を通じて社会課題に向き合うレストランとして知られている同店は、朝は宿泊客のための朝食ブッフェを担い、夜は貸切利用を中心とした営業スタイルをとる。貸切は利用者の要望に応じてメニューや内容を柔軟に組み立てるため、準備に手間がかかる。そのため昼の営業は夜の予約状況に応じて不定期に行っている。

▲貸切は利用者のリクエストに応じて食材やメニューを柔軟に対応する

この営業スタイルをする背景について、表氏は次のように説明する。

「貸切営業の場合、仕込みや準備にかかる負担は想像以上に大きくなります。無理を重ねれば、スタッフにも店にも持続可能ではありません。無理のない運営を続けること自体が、私たちにとってのサステナビリティだと考えています」

ランチでは大豆ミートを使ったヴィーガン対応のワンディッシュや、厳選した豚肉・鶏肉を使った定食を提供する。和食出身の料理長を中心に、出汁や旬の食材を生かした和食のメニューで構成している。貸し切り営業は、リクエストに応じて内容を設計する。

▲ランチで提供される大豆ミートのミートボール

 

サステナブル経営への転機となった、規格外の食材との出会い

2019年に開業したKIGIは、当初からサステナブル経営を掲げていたわけではなかった。

転機は2020年、同社の社長が訪れた小さなマルシェでの出来事だった。そこで規格外の野菜や果物など、一般の流通に乗らない食材が販売されているのを目の当たりにしたことが、食品ロスへの問題意識につながったという。その後、社長の判断により、KIGIはサステナブル経営へと舵を切った。

当時、スタッフの多くが「SDGs」や「サステナブル」への理解が十分ではなく、会社も方向性は決まったものの、具体的な取り組みの方法については模索している段階だった。表氏は当時を振り返り、「何から始めればよいのかも分からない状態だった」と語る。

コロナ禍で営業が困難な時期、KIGIではサステナビリティをテーマにした社内勉強会を実施した。経営層から現場スタッフまで全員が参加し、この共通テーマのもと、それぞれが小テーマを課題として調査し、議論を重ねた。表氏は「立場を超えて考える時間を持てたことで、店として進む方向が見えてきた」と振り返る。この勉強会は、その後の具体的な行動を支える土台となっている。

▲レストランKIGI エントランスと内観

 

地産地消と食品ロス削減から始まる社会課題解決への実践

勉強会を経て、サステナブル経営へと転換したKIGIは、「食を通して社会課題を解決する」というコンセプトのもと、「調達」「環境」「社会」の三つの軸を柱として取り組んできた。

「調達」の面では、野菜は店舗からおよそ80キロ圏内の小規模農家から仕入れることを基本とし、無農薬・有機栽培のものを優先して選定。誰がどのように育てた食材なのかを把握できる関係性を重視した結果だ。

▲近隣の農家から届くこだわりの野菜

「環境」については、肉や魚は生産背景や資源状況を考慮し、環境負荷の高いものは扱わない。また、食材を可能な限り使い切ることも重視し、野菜の皮はスープに、出汁を取った後の鰹節はふりかけにするなど、食品ロス削減の工夫が日常的に実践されている。

「社会」の面では、コーヒーなど国内調達が難しい食材は、生産者の生活や労働環境にも配慮し、フェアトレード製品を選択している。

 

取り組みの現在地を測る手段としての国際認証

こうしたKIGIの取り組みは、「FOOD MADE GOOD」で最高評価となる三つ星獲得という形で結実した。FOOD MADE GOODは、英国のサステナブル・レストラン協会(SRA)が運営する、環境・調達・社会の三軸で飲食店の持続可能性を評価する国際的な認証制度である。三つ星を取得した店舗は、世界的に見ても限られている。

表氏によれば、認証制度取得に向けて、まずは自分たちの現在地を客観的に把握することから始めたという。何ができていて何が不足しているのかを、FOOD MADE GOODの評価基準を手がかりに整理した。評価基準と向き合うことで、飲食店としての責任や役割を改めて考える機会になった。KIGIが目指したのは、認証取得そのものではない。認証を到達点ではなく、取り組みを改善し続けるための指標として位置付けたという。

こうした姿勢が結果として三つ星獲得へとつながった。

認証取得後は、その評価を知って来店する層も増えているという。「期待を持って来てくださる方が増えた分、責任も感じています。これまでの取り組みが認められたことを励みに、期待に応え続けたいと思っています」

▲持続可能な国際認証の取得により、貸切利用のリクエストも増えているという

 

理念への共感が生む貸切利用と、目的に応じた柔軟な場づくり

こうした評価や取り組みは、サステナビリティに関心を持つ人々からの信頼の高まりとして表れており、とりわけ貸切利用の増加が顕著だ。

広告宣伝費をかける代わりに、SNSで取り組みを継続的に発信してきた。その結果、理念に共感した社会や環境、人権などの課題に取り組む企業や団体からの問い合わせが増えているのだ。会合の参加者が次回は主催者として利用するなど、リピートにつながることも多い。こうした循環は、料理や体験の内容に対する満足度の高さを示すものでもある。

▲KIGIの理念に共感する団体の勉強会を含む貸切利用も増加している

KIGIでは会食を単なる「宴会」とは捉えておらず、利用者の目的や背景を把握し、それに合わせて料理やサービスを決める。そして、料理人を含むスタッフ全員が趣旨を共有し、食材の調達段階から最適な内容を検討する。

この考え方は、具体的なイベント運営にも反映されている。たとえば、フードサルベージ協会との企画では、参加者が家庭で余っている食材を持ち寄り、KIGIのシェフがその場で即興の料理として提供した。食材の新たな価値を体験する機会となり、参加者の反響も大きかったという。

一方で、理念と大きく異なる企画については慎重に判断する。過去には大食い番組の提案を辞退したこともある。表氏は「話題性だけで店を使っていただくよりも、何のために食事を提供するのかを大切にしたい」と語る。貸切利用の増加は、こうした姿勢への共感の表れでもある。

 

ヴィーガンツアーを展開する海外パートナーとつくる日本の食体験

こうしたサステナブルな取り組みをSNSなどで発信してきたことは、海外からの問い合わせという形でも表れている。カナダを拠点に、世界各地でヴィーガンに特化した旅行企画、手配を手がける「World Vegan Travel」との協働も、その一例だ。2024年に日本向けツアーの企画を進めていたWorld Vegan Travelがヴィーガン対応可能なレストランを探していた際、KIGIの食の多様性やヴィーガン料理への取り組みに関心を持ったことが、コンタクトのきっかけだったという。

最初に寄せられたのは、ヴィーガン仕様のコース料理を提供できないかという相談だった。当時、国内にはヴィーガンカフェは存在していたものの、本格的なコース料理を提供できる店は限られていた。表氏は「まず“やってみよう”という判断でした。できる方法を考える方が自然だったからです」と振り返る。

打ち合わせから試食までの準備期間はわずか2週間。試作と試食を繰り返し、料理人とサービススタッフが一体となってメニューの構成を練り上げた。試食当日には、前菜からデザートまですべてヴィーガン仕様のコースを用意。旬の野菜を主役に据え、日本の食文化を感じられる和の要素を取り入れた料理が並んだ。その完成度を高く評価したWorld Vegan Travelは、その場でツアーへの採用を決定。最初の問い合わせから1年も経たず、同年2024年には両者のパートナーシップが始まった。

▲ヴィーガンコース料理ではお寿司も提供(左)、リクエストに応じてコースに加えた五島うどん(右)

年に2回、約2週間に及ぶ訪日ツアーでは、旅の初日または最終日にKIGIが利用されることが多く、日本での体験を象徴する場として位置付けられている。食事面では、コース料理に加え、訪日客が日本で食べたいと考えるメニューへの対応も求められた。カレーやラーメンといった料理をヴィーガン仕様で提供することで、参加者の満足度は大きく高まり、現在ではこうしたメニューが、印象に残る一皿として語られることも多いという。

さらにKIGIでは、食事だけでなく日本文化を感じられる体験の提供にも力を入れている。内容や予算に応じて演出を提案、初回に実施した侍・忍者のパフォーマンスは大きな反響を呼んだ。以降も歌舞伎などの演出が継続的に求められているという。

▲日本の文化を間近で体験できる歌舞伎の演出

こうした料理と体験の両面での柔軟な対応は、強い信頼へと結びついた。World Vegan Travelからは、世界各地のパートナーの中でも「トップクラスのサプライヤー」と評価されている。

 

理念を日々の意思決定に落とし込む経営

KIGIが重視しているのは、日々の営業の中で何を基準に意思決定するかという点にある。その判断基準として、サステナビリティを重視することで、コストが増える側面もある。しかし同店ではこうした取り組みを「未来への投資」と捉えている。環境や社会に配慮した食材の調達や食品ロスの削減は、短期的には負担が増えても、長期的には持続可能な食のあり方を支える取り組みとなる。フェアトレードや地産地消、食品ロス対策への資源配分は、「何を価値とするか」の違いにすぎない。

表氏は「この価値観は今の社会で求められている考え方、それにスタッフの意識とも一致していると感じています」と述べる。

派手な施策ではなく、食材の選び方やメニューづくり、サービスのあり方といった日々の判断の積み重ねこそが、KIGIの持続可能な店づくりを支えている。サステナビリティを特別な取り組みではなく、日常の判断基準として根付かせていくこと。KIGIの実践は、その具体的なあり方を示している。

▲今回話を伺った株式会社Relection Design表秀明氏

(写真提供:株式会社Relection Design)

取材/文:山田忍

 

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