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2018年インバウンド消費4.5兆円と過去最高も伸び悩み。2020年8兆円の実現に向け、日本が狙うべき重点市場とは

2019.01.24

刈部 けい子

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観光庁は2018年の外国人旅行消費額総額(速報値)が、4兆5,064億円となったと発表した。2017年に4兆円を初めて突破したが、その際の前年比17.8%増で推移すれば2018年は5兆円を超えてもおかしくなかった。しかし、前年から増えた額は1,000億円を割り、伸び率は2%しかない。これは一つに、2018年1月から調査方法が変わリ、増加するクルーズ客の調査を始めたことによる。

 

伸び率回復はあるのか

2018年の訪日客数は全体で3,119万2,000人だったが、このうちクルーズ客は233万8,000人(観光庁推計)。訪日客数1位の中国からは838万100人が訪日したが、このうちクルーズ客は190万人ほどいる。後述するが、クルーズ客は人数の割に消費額が少なかったことが、今回の数字に少なからず影響した。もし、2017年までと同じ算出方法で推計すると、4兆8,000億円となり、前年と比べると8.7%増加したことになるからだ。

 

訪日外国人旅行消費額の推移_グラフ

とはいえ、2020年までに8兆円という政府が掲げる目標値に少しでも近づくには、2桁台の伸び率は必須だ。振り返ると、初めて3兆円を超えた2015年は前年比71.5%という大幅増だったが、それが翌2016年は7.8%に減り、2017年に2桁台に持ち直したものの、2018年はまた減少。2015年は中国人観光客の爆買いで異常な伸び率を示したとはいえ、2014年は43.1%、2013年は30.6%あっただけに、引き続き2桁台の伸び率へ戻すための努力は欠かせない。今年から始まるゴールデンスポーツイヤーズの3年間が、目標達成への足がかりとなるのだろうか。

 

消費額トップは中国も、買物代は減少

国・地域別に訪日外国人旅行消費額を見ると、訪日客数トップの中国が全体の34.1%を占める1兆5,370億円で1位。ついで韓国が5,842億円(構成比13.0%)、台湾が5,839億円(同13.0%)、香港が3355億円(同7.4%)、アメリカが2,890億円(同6.4%)と続き、これら5カ国で全体の73.9%を占めた。

これを費目別に見ると、買物代が全体の34.7%と最も多く1兆5,654億円、ついで宿泊費(構成比29.3%)、飲食費(同21.7%)、交通費(同10.4%)、娯楽サービス費(同3.8%)となっている。前年と比べると、買物代と交通費のシェアが減少したのに対し、宿泊費は1.1ポイント、飲食費は1.6ポイント、娯楽サービス費は0.5ポイント増加している。アジア圏では、口コミでよいと言われるものはなんでも買い物をしていた頃から状況が変化し、リピーターが増えたことで自分で商品を選んで購入する人が増えたこと、また欧米豪では買い物よりも体験を重視することによるシェアの変化と見られる。

 

1人当たりの旅行支出が多いのはオーストラリア

訪日外国人旅行者1人当たり旅行支出は15万2,594円で、前年(15万3921円)と比べると0.9%減となり、これで3年連続減少したことになる。

1人当たりの旅行支出が最も多いのはオーストラリアの24万2,050円。ついでスペイン(23万6,996円)、 イタリア(22万4,268円)と続き、2017年に1位だった中国は22万3,640円で前年比2.9%減の4位に後退した。また、5位から11位までのうち9位のベトナムを除くと18万~20万円台で欧米が並ぶ。なお、クルーズ客の場合、1人当たりの旅行支出は4万4,227円。宿泊は船内のため出発前に決済しており、訪日中の支出はほとんどが買物代となっている。

費目別の各1位は、宿泊費がイギリス(10万9円)、飲食費と交通費がスペイン(6万1,910円と4万2,164円)、娯楽サービス費がオーストラリア(1万6,128円)、買物代が中国(11万923円)となっており、ここから各国の旅行スタイルを垣間見ることができる。たとえば、イギリスは宿泊費が1位だが、買物代19位だった。全般的にに買物代が少ない傾向にある欧米豪の中でも最も少なく、ゆったりとした旅を好む姿が浮き彫りになった。また、初訪日が多いビギナー市場だが、個人旅行の割合が多いスペインにおける飲食費の高さからは、長い時間をかけて食事を楽しむという自国でのライフスタイルを、日本でも実践していることが想像できる。娯楽サービス費1位のオーストラリアはスキーなどのアクティビティへの支出が多いためだ。

訪日外国人1人当たりの費目別旅行支出(2018年・速報)_表

ターゲットは欧米豪か中国か?

8兆円の旅行消費額を達成するのは、1人当たりの旅行支出を20万円にする必要があると言われる。旅行支出の上位を見る限り、1人当たりの旅行支出が多い欧米豪を誘客するのが大事だというのはもっともなことで、政府も欧米豪へ向けたキャンペーンを行なっている。ただし、UNWTOがツーリズムハイライトにて言及しているように、国際観光の観光客の大半(5人中4人)は旅行者の居住地域内におけるもの(地域内観光と呼ぶ)であるということを考えると、日本の地域内に当たるアジア圏で最も旅行支出が高いにもかかわらず、人口のわずか12%しか海外旅行をしていない(訪日客で言えば人口比0.6%に過ぎない)中国からの訪日客数を増やすことの方が、より現実に即していると言えるのではないだろうか。加えて、富裕層もターゲットとしてきちんと抑えておきたいところだ。

香港の美食家で自ら日本へのツアーも企画する蔡瀾(チャイ・ラン)氏によると、中国の富裕層グループを連れてくる場合、日本には贅沢な宿泊施設が少ないのが悩みの種だという。例えば、露天風呂付きの和洋室スイートが10部屋以上あるような旅館が望ましいが、そのような宿泊施設は少ないため、選択肢が狭められ、大きな展開が望めないとのことだった。そうした観点からも、日本における受け入れ態勢の整備が急がれる。

 

8兆円実現に向けた政府のマイルストーン

なお、田端観光庁長官は記者会見で、8兆円の目標達成のために、新たな訪日需要の掘り起こしと地方への誘客促進、滞在時の満足度向上が重要と捉えていると語った。地方への誘客には、デジタルプロモーションへの転換やスマートフォンを最大限活用した旅行環境整備、地方での満足度の向上には文化財や国立公園などにおける多言語解説の充実や、ナイトタイム活性化などの「コト消費」の拡大、地方での滞在日数を増加させるためには古民家活用による高付加価値な宿泊施設を創出するとともに、旅館における生産性向上を図ることで「稼ぐ」旅館への改革を後押しすることを挙げ、こうした施策については新たに導入した国際観光旅客税の税収も活用しながら取り組むとした。

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