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観光客の受け入れが進む国はどこ? 観光依存度が受け入れ開始のスピードに影響

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イギリスのザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)によるアジアの旅行準備完了指数が発表された(Asia’s Travel-ready index 2022)。「2022年のアジアの観光産業の展望を知る」との副題がついた本レポートの内容を紹介する。なお、ここで定義されている「アジア」には、オーストラリアなどオセアニアの国も含んでいる。
(表出典:Asia’s Travel-ready index 2022)

観光はアジアの大きな収入源

観光は多くのアジアの経済にとって重要な収容源であり、平均すると国際観光がGDPの10%以上に相当する。アジア諸国に関しては、タイ、シンガポール、日本、韓国、台湾、中国などへ世界各地から観光客が訪れているが、下のグラフにもあるようにモルディブ、バヌアツ、フィジーなどの島嶼国や、マカオや香港のような都市経済国家は特に観光への依存度が高い。

アジアでもっとも観光に依存している国や地域
(国際観光収入の名目GDPに占める割合、2015-19年平均)

アジア旅行準備完了指数、観光依存度の高い国は早く旅行を再開

アジア旅行完了準備(ATR)指数は、アジア経済全体の観光回復の見込みを評価するもので、外国人観光客の心理に影響を与える可能性のある「渡航先でのワクチン接種率」「渡航のしやすさ」「帰国後の検疫の必要性」3つの指標を基に算出している。この指数の特徴は、ワクチン接種率よりも、渡航制限に大きなウェイトを置いていることだ。

新型コロナウイルス感染症に対する一般的な認識は、ワクチン接種率と、重症度の低下により恐怖心が薄れている。一方で、入国後の隔離などといった渡航制限は渡航者にとって多大な時間と費用がかかり、旅行計画を複雑にする。

アジア旅行完了準備指数に基づくランキングは以下の通り。なお、入国規制の緩和などが進み、旅行準備が整っている国、地域ほど数値が高くなり上位にランクインしている。

ランキングによると、フィジー、モルディブ、スリランカなど、指数の上位国は2021年以前からビザや入国制限を緩和している。また、感染リスクの低下で国境閉鎖措置が意味をなさなくなったことから、タイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、フィリピンでは、3月から4月にかけて国境開放が加速した。

一方で、観光業への依存度が低い北東アジアは、国際観光の再開が遅れている。特に中国では、香港とマカオとともに、少なくとも現在までゼロコロナ政策を維持している。

日本の順位を見ると、ワクチン接種率は上位に位置しているが、旅行のしやすさと帰国時の利便性のスコアが悪く、下位になっている。ただし、この調査は3月24日時点のものであり、5、6月の入国規制のさらなる緩和があればスコアは変わってくるだろう。

アジア旅行準備完了指数
(スコアは0〜10点で、低いほど観光復興に有利な条件となる)

 

中国人観光客への依存は回復を遅らせる

パンデミック以前は、アジア経済にとってもっとも重要な役割を担っていたのが中国だ。アジアの28カ国中、日本を含む13カ国において、中国市場が最大のインバウンド客となっており、6カ国で2位となっている。しかし、2022年いっぱいは続くと見られる中国帰国時の厳格な検疫措置は、中国人観光客にとって強い抑止力となり、特にカンボジアやベトナムなどの多くの中国人観光客を受け入れてきた国の観光産業の回復を遅らせるとみられる。

一方、多様な国・地域からの観光客を集めている国では、その影響はそれほどでもない。スリランカやモルディブなどは、インドからの客が中国の代わりに訪れている。欧州からのロングホールの観光客は、インドネシアやタイなどの人気観光地を支えるだろう。

また、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシアの中産階級の所得が大幅に減少し、ルーブルの下落や外国の決済システムへのアクセスに対する制裁措置がアジアへの旅行に影響を及ぼしている。ロシア人観光客への依存度はアジア全域で見ると低いが、その重要性はウクライナ侵攻前から増していた。今年ここまでモルディブを訪れた客の11.6%はロシアからだった。ただし、3、4月にモルディブを訪れたロシア人の割合が減少していることからもわかるように、欧州へ行けなくなったロシア人がアジアに群がるということはないだろう。

中国における帰国時の厳格な隔離措置が、アジアの観光産業の回復に影響を及ぼす
(2019年の総到着数に占める中国とロシアからの入国者の割合)

中国からの入国者数              ロシアからの入国者数

観光業が本格的に回復するのは2024年

フィジーやモルディブのように完全に国境を開放した小さな島国を除く多くの市場で、2022年の観光客数は部分的な回復にとどまるだろう。観光収入が伸び悩めば、その地域のGDPの回復に水をさすことになる。国際収支危機に直面しているスリランカにとっては、観光業の回復の遅れは外貨収入に影響し、対外債務の返済を困難にする。

2022年の観光産業の回復を妨げるリスクはまだある。たとえば、新型コロナウイルスの変種株の発生で各国が規制の再導入を余儀なくされること、原油価格の高騰により航空運賃が上昇すること、世界的な物価高により消費者の購買力の低下、旅行者の資産を縮小させる金融危機などである。

2022年中に中国が国境を全面的に開放し、企業の旅行方針の見直しで出張が本格的に復活し、WHOが「パンデミック」の終了宣言をして各国が社会生活における規制をすべて撤廃する自信を持てば、回復が早まることはあるかもしれない。そうでなければ、アジアの観光業が本格的に回復するのは2024年がもっとも可能性が高いだろう。

 

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