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旅行・観光開発ランキング 「持続可能性」を考慮した2021年版で日本1位に —世界経済フォーラム

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世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が発表した2021年版の「旅行・観光開発ランキング(Travel & Tourism Development Index)」で、日本は総合評価で初の世界1位に輝いた。この調査レポートは2年に一度発行され、インフラ整備や安全性、観光資源、持続可能性などのさまざまな指標を数値化して評価される。パンデミック、ウクライナ戦争という不安定な社会の中、WEFはレポートのテーマを「持続可能で力強い未来への再構築」と題し、回復期の今、旅行・観光はグローバルなつながりと平和、社会・経済の進歩のための原動力になるという力強いメッセージを送っている。世界における日本のランキングを紹介しながら、日本、そして世界は旅行と観光の発展に寄与するために何を努力すべきかを伝える。

 

コロナ禍でランキングの評価指標に「サステナビリティ」「レジリエンス」を追加

WEFは2007年から隔年でレポートを発行してきたが、2019年までは「旅行・観光『競争力』ランキング」と称した評価基準を用いてきた。

2018年には国際観光客数14億人突破など、これまでは観光の成長や競争力が強調されてきたが、パンデミックで様相はすっかり変化した。旅行と観光が社会経済の発展に担う役割は大きく、この産業の成長にサステナビリティ(持続可能性)とレジリエンス(回復力)は不可欠だ。

こうした背景を踏まえ、2021年版では、進化版「旅行・観光『開発』ランキング」として、サステナブルでレジリエントな開発を行うための要因を評価する基準を採用することとなった。これまでは、「1.環境整備」「2.旅行・観光政策と実現条件」「3.インフラ」「4.旅行・観光の需要喚起」の4カテゴリーに分けられていたが、2021年版のランキングでは「5.旅行と観光の持続性」を追加。ここでは、これまで「4.旅行・観光の需要喚起」で考慮されていた環境の持続可能性を移行したほか、危機下での回復力や、オーバーツーリズムや需要分散への取り組み度合いなどの項目が加わった。(各カテゴリー、項目の詳細は後述)

 

欧州勢が上位にひしめく中、総合ランキングで日本が首位

117の国と地域が対象となった今回の総合ランキングは以下の表の通りだ。1位の日本のほか、アジア太平洋地域からはオーストラリア(7位)、シンガポール(9位)がトップ10入り。2位のアメリカ合衆国を除けば、スペイン(3位)、フランス(4位)、ドイツ(5位)、スイス(6位)、イギリス(8位)、イタリア(10位)と、10位までにはずらりと欧州勢が並ぶ。

2019年との比較で最もスコアを伸ばしたのは、4.7%アップしたベトナム(順位は60位から52位)。一方、順位を最も上げたのはインドネシアで、44位から32位へと躍進(スコアは3.4%アップ)。いずれも低中所得国に属する国々である。地域別では、この2カ国が属するアジア太平洋地域が、欧州・ユーラシア地域に次ぐ高い平均スコアを出した。アジア太平洋地域20カ国のうち12カ国は世界の平均スコア(4.0)を上回り、13カ国は2年前よりもスコアを上げている。

なお、今回の調査はウクライナ戦争開始前に行われたが、収集されたデータが現在の動向を正しく反映するものではないとの見解から、ロシアとウクライナはランキングから外されている。(全ランキングは記事の最後をご覧ください)

 

旅行・観光開発ランキング トップ10

World Economic Forum's Travel & Tourism Development Index 2021: Top 10 economies enabling Travel and Tourism Development

 

1位を獲得した日本の強みは「インフラ」と「観光資源」

次に、カテゴリー別のトップ10ランキングを見ていく。

「環境整備」「旅行・観光政策と実現条件」「インフラ」「旅行・観光の需要喚起」「旅行と観光の持続可能性」の5つのカテゴリーのうち、日本は「インフラ」と「旅行・観光の需要喚起」で3位にランクし、高い評価を得た。「旅行・観光の需要喚起」とは、いわゆるその国・地域に「旅行したい理由」があるかどうかを示す指標だ。

5つのカテゴリーは、下の表のように、17の項目に細分化される。17項目における日本の順位とスコアを見ていこう。「旅行・観光の需要喚起」では、「自然資源」が前回の18位から12位へとランクアップ。「文化資源」は4位、「非レジャー資源」は3位と、17項目中最も高い順位をつけている。「非レジャー資源」とは、レジャー以外のビジネス、教育、医療等を目的とした旅行需要があるかどうかを示す指標だ。

「インフラ」では、「航空輸送」が4位、「陸上・港湾」が6位にランク。宿泊施設やレンタカーなどの「観光サービス」に関しての順位は交通インフラと比べると低いが、前回の調査に比べてランキングは上がっている。ほかには、「安全・安心」「健康・衛生」のスコアが6点台を超え、治安のよさや清潔さが評価されている。

 

「価格」「環境の持続可能性」「オーバーツーリズム」への対応がカギに

一方、順位やスコアが低い項目である「弱点」に関して「価格競争力」が日本は96位、スコアも4.2と最も低い。ほかに、「環境の持続可能性」もスコアが4.2。気候変動への対応に関する評価が低く、改善が求められる。また、同じく4.2が「旅行・観光需要に対する圧力と影響」。これはいわゆる目的地の分散化やオーバーツーリズムの問題にいかに対処できているかを示す。旅行者と地域住民の双方が満足できる持続可能な観光への取り組みも今後の課題となる。

冒頭で述べたように、グローバルなつながりと開発において旅行・観光が担うべき重要性は非常に大きいということが、このコロナ禍で明らかになった。今回の結果が示すのは、日本にはその開発を促進する世界最大のポテンシャルがあるということだ。回復期にあたる今後数年の間に、旅行・観光を包括的で持続的、かつ、力強いものにするための戦略づくりは、世界全体で、そして日本において極めて重要になるだろう。

 

▼旅行・観光開発ランキング全順位はこちら 
*スコアは1~7の7段階評価(7が最もよい)
*世界平均は4.0
*表内の2019年度との比較では、2019年度の数値は2021年度の新しい評価基準に換算している。日本は2019年の発表では総合ランキング4位だったが、今回の基準では2位となる。

 

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