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2023年の世界の旅行意欲、物価高でも旺盛。9割以上が年内の旅行を希望-トリップアドバイザー調査

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ここ数年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる旅行制限を経て、消費者の旅行に対する意識はどう変化したのか。トリップアドバイザーが、2023年に向けた消費者の旅行への展望と財政状況を探り、その各業界への影響をまとめたレポートを発表した。

調査は、2022年9月にアメリカ、イギリス、日本、シンガポール、インド、オーストラリアの6カ国で行われ、昨年1泊以上の旅行をした満18歳〜72歳までの消費者計4959人からデータを収集。その結果、パンデミックを経て、旅行需要は俄然高まっており、回答者の9割以上が今年中に旅行を検討していることがわかった。また、その期待値は、直近のインフレの影響を考慮しても余りあることも集まったデータから読み取ることができた。
(図表出典:An Economic Portrait of the Traveler)

 

経済状況が悪化しても旅行需要は衰えず

旅行に意向について尋ねたところ、回答者の65%以上が常に旅行を検討していると答えており、旅行は多くの人々にとってなくてはならない存在であるということが、今回得たデータから浮き彫りになった。下のグラフにあるように、今年中に旅行したいという意向を示した人が、パンデミック前の2019年に旅行した人の数値をわずかならが上回る国が多かった。

旅行需要は経済状況によって変化するものと考えられがちだ。だが、こうした数字が出るということは、世界的な物価上昇にもかかわらず、旅行に対する意欲が衰えていないことを示しているといえるだろう。

▶︎旅行意向の変化(対2019年比) 
 緑=2019年に旅行した人、深緑=2023年に旅行意向のある人
 国名は左より、アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本、シンガポール、インド

 

日常消費を削ってでも旅行費用は確保

下のグラフは2023年の旅行回数に対する回答だが、1回が減り、複数回と答えた人が多くなっているのがわかる。回答者の半数以上(55%)が今年中に3回以上の旅行を計画していると答えているが、これは2022年の45%を10ポイント上回り、ここでも旅行への旺盛な意欲が見て取れる。

▶︎旅行回数(対前年比)
 緑=過去1年間に旅行した回数、深緑=今後1年間に旅行予定の回数
 

事実、回答者の4人に3人は、インフレの影響が出ているとはいえ、日常の支出を減らすことになったとしても旅行に充てる費用は減らさないと答えた。さらには、95%の人が旅行のための費用を捻出するためなら、他の出費でより安いものを選択したり、セール品などを求めたりすると答えるなど、消費者の旅行に対する優先度が極めて高いことが伺える。

また、こうした旅行に対する需要の高まり傾向は、旅行にかける予定の消費金額からも読み取れる。全体の20%が前年の旅費に比べて減少、26%が同等、53%は前年以上の金額を今年の旅行に費やす予定であると回答した。

▶︎旅行費用(対前年比)
 薄緑=前年より増加、緑=変わらず、深緑=前年より減少

 

旅マエや旅ナカでの「買い物」も重要視

消費者は、旅行をしている時間だけを満喫するわけではなく、旅行前の買い物なども含めて広い意味で旅行を捉えている。一例として、旅行者は「次回の旅行のため」という名目で、新しい服や旅のアイテムなどを定期的に購入している。このように消費者が旅行を目的にお金を落とす先は、旅行先での宿や航空券など旅行に関するサービスだけではなく、日常生活の身近な場所にもあることがわかる。

これはすなわち、旅ナカを担う観光事業者のみならず、旅マエに関わる事業者にも大きなチャンスがあることを意味する。

また、多くの旅行者は、旅行先では普段の生活とは異なる消費行動になりがちだ。例えば、旅先での食事は2回に1回は外食と答えた人が74%いるなど、旅行中の食事代が増えることは、データでも示されている。

買い物については、旅行の重要な要素の1つであることが次の回答などからも明らかである。回答者のほぼ全員が「旅行中にレジャー関連の買い物をする」と回答したり、60%以上の人が旅費の中で買い物代を確保したり、旅行中に買い物する時間は重要と回答したりするなど、旅行と買い物は切り離すことができない。

 

旅行の一番の目的は「リラックスとリフレッシュ」

旅行の目的を問う質問には、全体の36%が「リラックスとリフレッシュ」と回答し、他の目的以上にこの項目が旅行において求められていることがわかった。中でもシンガポールでは、最も多い43%が旅行の最大の目的として挙げている。ちなみに日本では「日常からの脱出」の割合が最も多かった。

また2番目に多いのが「家族や友人との思い出作り」で、4番目が「友人や家族を訪ねる」だった。パンデミックの間、孤立を余儀なくされた旅行者が、人や場所との繋がりを求めていることの表れだろう。

▶︎旅行目的
上から順番に「リラックスとリフレッシュ」「家族や友人との思い出作り」「日常からの脱出」「友人や家族を訪ねる」「自然を楽しむ」

そのために「滞在先でゆっくり過ごしたい」というニーズがあり、それは希望滞在日数の変化にも表れている。旅行先での平均希望滞在日数は、パンデミック前の2019年と変わらず3〜6日だが、1週間やそれ以上を希望する割合は、2019年の数値を上回り増加傾向にある。

▶︎旅行日数(2019年比)
 緑=2019年、深緑=今後1年間で予定している旅行日数

このような消費者のニーズは、宿の予約の際に単泊ではなく複数泊の予約が増える可能性は十分にある。そうなれば、日本の宿では一般的な1泊2日の過ごし方とは異なる、長期滞在者でも楽しめる過ごし方が各宿泊施設や周辺施設で求められてくるのかもしれない。

 

現地の文化的繋がりを重視「スローツーリズム」の高まり

近年、旅行者の中で「ありきたりな旅」ではなく、より現地での文化的なつながりにフォーカスした「スローツーリズム」や「スロートラベル」と呼ばれる旅行のスタイルが人気になりつつある。その需要は特に頻繁に旅行する消費者層に見られる。

この旅行スタイルの需要拡大の背景には、2つの要因が考えられる。1つは、パンデミックによって一時的にできていなかった「バケットリストを叶える」旅行への欲求があること。もう1つは、人々の旅行に対する気持ちの変化にある。これまでのような可能な限り旅程を詰め込んだ観光旅行よりも、ゆったり過ごすことを好むようになっている。

このような旅行スタイルの需要は、これまでスポットライトが当たりにくかった「知る人ぞ知る」といった地域の魅力が外部の目に留まることになるチャンスになるかもしれない。

 

「旅好き」ほどより多くのお金を旅行に費やす予定

今回の調査では、2023年に3回以上の旅行計画のある旅行者を、頻繁に旅行する、いわゆる旅行好きとして、その消費行動に着目し、一般的な頻度の旅行者と比較もしている。

まず、頻繁な旅行客のうち、半数以上(53%)が昨年に比べて今年はより多くのお金を旅行に費やす予定と回答。この数値は、一般的な旅行者と比べて15ポイントも多い。

そうした差が出た要因としては、旅好きな旅行者は、ただ旅行するためだけにお金を使うのではなく、旅行前あるいは旅行先で旅行関連グッズを購入していることが指摘されている。例えば、頻繁に旅行する消費者の30%は、毎月ガジェット類を3つ以上購入しており、それは一般的な旅行者の約2倍に相当する。

このように、2023年に旅行に複数回行くと意気込んでいる人ほど、生活全体を通して旅行を中心に、より多くのお金を使っているといえる。

 

約7割がオンライン上の「良い」レビューを参考に宿を予約

回答者の約半数が「ホテル選びを間違えると旅行が台無しになる」と答えた。それだけ宿の満足度が旅行全体の印象に与える影響が大きいといえる。

それは実際に数値としても表れており、70%以上の人がオンライン上のレビュー評価をとても気にしており、その多くが良い評価の付いた宿を予約する傾向にあると回答している。

さらに、その内情を紐解くと、回答者の半数以上が、質の高いレビューこそが、実際に役に立つものであるかどうかの重要な指標となると答えている。実際に、3人に1人は旅行先でもトリップアドバイザーのようなレビューサイトを活用するほど、旅先での細かな意思決定にもレビューを参考にしているようだ。

 

パンデミックを経てより一層高まる旅行への情熱、今年は実行の年に

世界の旅行者は、限られた時間とお金を新しい発見や旅先に早く投じたいと強く望んでいる。その期待値は、パンデミックやインフレが支出を圧迫する中で、他の支出を抑えてでも旅費に当てる覚悟からも感じられる。それほど、旅行は人々に感動をもたらす買い物であり、その影響は、旅行そのものだけではなく、旅行前の準備や旅行から戻った後の余韻を楽しむためのな消費にも及ぶだろう。

今回の調査で、多くの消費者はパンデミックを経ても旅行への情熱をなお褪せることなく持ち続けていることがわかった。その想いは、遅かれ早かれどこかのタイミングで旅行への「ゴーサイン」に代わって叶えられることだろう。

 

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