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旅行者の悩み コスト削減か、サステナブル・トラベルを選ぶか—ブッキング・ドットコム調査

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ブッキング・ドットコム(Booking.com)の「サステナブル・トラベル・レポート」2023年版が発表された。35の国と地域の旅行者約3万3000人を対象に、サステナブル・トラベルに対する意識を調査したところ、世界的な経済不安が、持続可能な旅行を選ぶ際に影響を及ぼしていることがわかった。

 

8割がサステナブル・トラベルを重要視

気候変動や生活費の上昇といった不安定な世界時勢を受け、サステナブル・トラベルは引き続き、旅行者が第一に考える事柄となっている。74%(2022年は66%)の人々が、「未来の世代のために持続可能に繋がる行動を今すぐにすべきだ」と考えている。また80%が、「よりサステナブルな旅をすることが自分にとって重要だ」と答えた。「自分にサステナブルな知識がある」としたのは43%、その情報源としてはニュース番組やSNSが、2大情報源ということだ。

なお、「サステナブル・トラベルが自分にとって重要だ」と最も多くの人が思っているのはインドで、99%がそのように回答、フィリピンが97%、ケニアとベトナムが96%だった。

 

サステナブルな行動は高くつく

過去12カ月で経済情勢は急激に変化、生活費の上昇による家計逼迫、そして気候変動というトピックが、人々の心を占めている。インフレが進み、旅行者はサステナブルな行動をとるか、節約するかの選択を迫られている。生活費や燃料危機の中、サステナブルな旅は二の次と思う人も多い。

調査の結果「サステナブル・トラベルは費用が高い」と回答したのは、全体の49%に上ったが、この数字は2022年から11ポイントも増えている。また、47%が「経済的な負担の少ない方法で、サステナブルな旅をする方法を知りたい」と答えた。43%が「サステナブル・トラベルの選択肢により多く払ってもよい」と答えたが、国別に見ると、ここでもインドが80%と高く、日本はベルギーと並んで下から3番目の22%だった。

 

選択肢の不足

コストだけがサステナブル・トラベルの障壁と見なされているのではない。データの不足を感じたり、旅の選択肢が足りないなど、特にここ12カ月でサステナブルな選択へのハードルが高くなったと思う人が増えている。 74%が「旅行会社にサステナブルな旅の選択肢の提案を増やしてほしい」と回答し、この数字は昨年の66%から増加している。「そうしたい気持ちはあるものの、どこでそのようなオプションを見つけることができるか分からない」との答えも全体の44%に上った。

 

変化する旅行者

旅行者には、節約志向に加えて、サステナブルな旅の選択肢を見つけられないという障壁があるが、同時に解決策を見つけたいという意欲も高い。全体の3分2近い59%が、「1年前に旅をした時よりも、もっとサステナブルな選択をしたい」と考えていることがわかった。「旅行の移動手段は徒歩や自転車、公共交通機関の利用を計画している」としたのは43%。「混雑を避けるためピークシーズンを避ける」「地元にお金を落とすためにローカルな店舗で買い物をする」も同じく43%となった。単なる「ツーリスト」から「チェンジメーカー(変える人)」となりつつある旅行者の姿が窺える。

2022年のレポートで日本におけるサステナブル・トラベルへの意識が世界平均より低いことが指摘された。今回の調査でも旅行中にサステナブルな行動をしているかどうか、項目別に尋ねたところ、日本は大多数が平均値以下であることもわかった。例えば、「宿泊施設を留守にするときはエアコンを切るかどうか」という問いに対して、世界平均で67%が「Yes」と答えたが、日本は最も少なく、54%だった。「宿泊施設を留守にするときは電気のスイッチを切る」という問いに対し、世界平均で見ると77%が「Yes」と答えたが、日本は25%と最も少なかった。

 

リジェネラティブ・トラベルの台頭

気候変動への懸念が広がる中、昨今の旅行者はリジェネラティブ・トラベル(再生型の観光)をして、旅行先によい影響を与えられる旅をしたいと考えていることが分かった。全体の69%が「地元に還元するお金の使い方をしたい」とし、「訪問前よりも旅行先を良い状態にして立ち去りたい」とする人は66%となった。特にケニア、ベトナム、インドネシア、タイでは80%以上が、「旅行先をより良い状態にしたい」と答えている。やまとごころ.jpでもリジェネラティブ・トラベルについて解説しているので参照されたい。

 

旅行業界に求められること

旅行者は気候変動に対する不安から、宿泊先や交通機関の選択に責任を感じるようになっている。そのため、サステナブルな旅に対して、確信を持って選択し予約することを求めている。「サステナブル認証などがある宿泊施設に泊まることができれば安心する」と答えたのは65%、「検索条件にサステナブル認証であることを求める」と答えたのは59%、「サステナブルな旅の選択肢に対し、その理由を知りたい」としたのは69%だった。

また、「サステナブルなアプローチを積極的に行うブランドを常に探している」と答えたのは30%、「サステナブルな旅のオプションに対して、それが本当かどうか信頼できない」と答えたのは39%だった。「サステナブルを促進するブランドのみから商品を購入する」と回答したのは全体で11%だったが、国別の統計を見ると、日本はわずか2%だった。旅行業界としては、環境に敏感な旅行者の期待に応え、信頼を得るために不断の努力をすることが不可欠と言える。

 

旅行者が感じるジレンマ、コストか環境か

今回の調査結果から、「旅のコストを削減する」あるいは「多少予算を割いてでもサステナブル・トラベルを選択する」の間でジレンマを感じる旅行者の姿が浮かび上がってきた。

サステナブル・トラベルは旅行費が高くなることを意識する人がいる一方、サステナブル・トラベルをすることで環境へ好影響を及ぼすことに価値を見出す人もいる。 今回の調査からも「エアコンの電源を切る」「宿泊施設でタオルを繰り返し利用する」などといった消費スタイルを妨げない方法や、環境負荷の少ない交通手段の利用や、ローカルなお店で買い物するなど、人々の意識の中に「サステナブルに繋がる選択をする」ことへ積極的な姿勢がうかがえた。これはつまり、経済活動から環境に至るまで、旅行者は自身にとって「何が価値あるものなのか」を再考していると言える。

さらに、訪れる地方の環境保護や地元の人々に利益をもたらし、道徳的な体験や地方への奉仕などを積極的に行いたい、という人々も増加していることから、2023年はサステナブルな視点のある価値ある旅にお金を使いたい、という旅行者が増えることも予測される。

とはいえ、旅行者の中には気候変動の差し迫った状況を受け止めながらも、実際の行動に至っていないところもある。

このレポートを基に、観光事業者はデータ不足を補ったり、サステナブルな旅の選択肢を増やしていくなど、旅行者からの信頼を得る方法を考えるきっかけになるだろう。

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