データインバウンド
「豪華さ」よりも「意味ある旅」へ、変化するアジア太平洋富裕層の旅行動向
2025.08.05
やまとごころ編集部アジア太平洋地域(APAC)の富裕層旅行者は、旅に対する価値観を「豪華さ」から「目的や体験の充実」へとシフトさせている。この傾向は、マリオット・インターナショナル・ラグジュアリーグループが発表したレポート「The Intentional Traveler」により明らかになった。
調査はオーストラリア、インド、シンガポール、インドネシア、タイ、韓国、日本のアジア太平洋地域7カ国の上位10%の高所得者層1750名を対象に、2025年3〜4月にかけて実施された。
レポートからは、個人の価値観に合った体験や精神的・文化的な豊かさを重視する傾向が強まり、今後の旅行商品には、より柔軟できめ細かな設計が求められると示唆されている。
支出増の背景、ブランド信頼と家族志向
調査では、回答者全体の72%が今後1年以内にラグジュアリートラベルへの支出を増やすと回答。「信頼あるブランドホテル」(37%)、「プライバシーと特別感」(30%)、「ユニークなロケーション」(30%)、「ミシュラン級の食体験」(29%)が重視され、投資に見合う体験設計が求められている。
支出増に関しては下のグラフにあるように、特にオーストラリア(85%)、インドネシア(81%)、シンガポール(80%)の意欲が高く、全体の47%は家族旅行への支出を優先する意向を示した。また、ブランドの信頼も高まっており、認知度の高いブランドホテルがプライベートヴィラよりも評価されている。一貫性のある厳選された体験、高水準のサービスへの期待があることが伺える。
旅行は「数より質」、数カ月前から緻密に計画
2025年の旅行動向としては、旅行回数を抑えつつも、より深く、慎重に計画された旅を求める傾向が強まっている。平均的な旅行者は、2025年に国内旅行を6回、海外旅行を4回計画している。これは2024年と比較して海外旅行が2回少ない。また、回答者の93%がパーソナライズされた自分独自の旅行体験を求めており、62%が「事前にすべての詳細を計画している」と答えている。

国内旅行の平均宿泊数は従来の3泊から4泊に延び、旅程は数カ月前から緻密に立てられている。海外の長期旅行では出発の2〜3カ月前、短期旅行でも1〜2カ月前には予約を完了させるケースが多く見られる。
一人旅の旅行者は最も計画的で、73%が旅行時期よりもはるかに前に予約し、新しい場所を訪れたり自分のペースで探索したりする願望が強い。この変化に伴い、自分でリサーチを行う旅行者が増え、ホテルウェブサイトのような公式で信頼できる情報源により信頼を置くようになっている。一方で、口コミへの信頼は前年比で34%から26%に低下。特に、旅行者の5人に1人(20%)が、AIを活用して贅沢な旅行計画を立てていることもわかった。
ウェルネスがラグジュアリートラベルの中心に
旅行の予約時に「ウェルネス」を重視する層は90%にのぼり、前年の80%から10ポイント上昇。特に「心身の回復」「精神的なリフレッシュ」を求める旅行が増加し、26%がスパやウェルネスリトリートへの参加を予定している。「ラグジュアリー=非日常の癒し」という価値観が際立ってきたと言えるだろう。彼らは、従来のスパ中心プログラムを超え、森の中の瞑想、オーダーメイド型栄養管理、サウンドヒーリング、睡眠セラピーなど、心身のバランスを取る統合ウェルネス経験を望む。
なお、レポートでは、日本が「癒し」や「ウェルビーイング」を求める旅行者にとって理想の目的地とされ、韓国・オーストラリア・インドからの評価が特に高かった。伝統文化、落ち着いた雰囲気、自然との共生が高く評価され、「信頼できる旅先」「安心感ある滞在」「質の高い食文化・サービス」に対する期待も大きい。再訪意向が強い国として名が挙げられている。
サファリや田舎滞在、自然をめぐる体験が新定番に
旅行の主な動機は今でも美食にあるが、最近、富裕層旅行市場で自然を巡る経験が急速に関心を集めている。「田舎での滞在」希望は2024年の19%から2025年には28%に上昇。サファリ旅行も30%が予約予定と回答した。孤立したロッジやワイン畑での滞在など、都市から離れた自然と洗練を融合した体験が新たなハイエンドトラベルの主流となりつつある。
また、「日中のアクティビティを重視する」と回答した人は2024年の48%から2025年には61%へと増加。一方で、「夜はホテルでゆっくりする」という層も19%から28%に増えており、旅における“オンとオフのメリハリ”が明確になってきている。
親しみある場所へ再訪、新たなデスティネーションも急浮上
回答者の93%が気に入った旅先への再訪を計画している。 89%は、「真のつながりを感じられる場所であればあるほど、再び訪れたい」と答えた。これらの場所への再訪は単なるリピートではなく、現地に対する理解を深めたり、地元コミュニティと再びつながったり、家族や友人と大切な時間を過ごしたりすることを目的とした、意図的な再訪であることが多い。
地域別では、アジア太平洋(57%)、欧州(47%)、南米(41%)の順に人気が高い。また、アジア太平洋地域の訪問先トップ10の上位は、オーストラリア(38%)、日本(29%)、中国(27%)の常連が顔を揃える。
▶︎富裕層旅行者に人気のデスティネーション(上は世界の地域別、下はアジア地域の訪問先トップ10)

一方で、新興市場にも関心が集まっている。バングラデシュ、ニュージーランド、カンボジアが訪問先トップ10にランクイン。例えば、バングラデシュはタイの旅行者(33%)から特に注目され、歴史あるダッカや緑豊かな森の自然体験が評価されている。ニュージーランドはドラマチックな自然と洗練された施設の融合が人気。カンボジアはプノンペンへの直行便が多方面から就航し、象徴的な文化遺産と高いアクセス性が魅力となっている。
価値観で旅を選ぶ時代、富裕層の3タイプが台頭
今回の調査結果を受けて、3つの新たな旅行者像が浮かび上がってきた。
1. ひとり親と子どもの旅行
「ガーディアントレイルセッター」と呼ばれる、子どもを連れて旅行するひとり親の旅行者が、この1年で15%から24%に大幅に増加。この層は特に、宗教的イベント(41%)、学習旅行(38%)、サファリやアドベンチャー(各35%)など、子どもたちを快適な環境から連れ出す機会を提供する旅程を好む傾向がある。
2. 自然志向・少人数型のZ世代冒険者
Z世代の旅行者は、オーストラリア、スリランカ、タイといった自然・文化・冒険に富んだ目的地に惹かれる傾向がある。従来のレジャー型旅行とは異なり、この世代は目的意識をもち、アクティブな体験を求めており、「自然との触れ合い」(47%)、「野生動物との出会い」(45%)、「体験型旅行」(43%)などを重視。5名未満の少人数旅行や一人旅(31%)にも関心が高い。

3.ビジネスと旅を両立するベンチャー旅行者
2024年のマリオット調査に初めて登場したベンチャー旅行者は、旅行先でのビジネス・投資機会を重視する層を指す。このカテゴリーは2025年に入り急速に拡大しており、2024年の69%から、2025年には86%が「旅行中に投資・ビジネスを探る」と回答した。中でもインドネシア(92%)、タイ(91%)など東南アジアの富裕層旅行者にその傾向が強い。

【編集部コメント】
富裕層旅行は「癒しと体験」の時代へ、変わるラグジュアリーの価値
今回の調査では、アジア富裕層の旅行支出増とともに、ラグジュアリーの価値観が大きく変化していることが明らかになった。ウェルネス重視は90%に達し、自然体験やサファリ、少人数旅行への関心も拡大している。旅のリズムも「日中アクティブ・夜は静かに」というメリハリ型へと進化している。
日本は精神的癒しや文化的洗練を提供できる国として高評価を得ており、再訪意向の高さは大きな追い風だ。観光事業者にとっては、豪華さ一辺倒ではなく、「心身の回復」「学びや発見」「プライバシー」を組み合わせた体験設計が重要である。自社のサービスや地域資源をどう組み合わせれば、この新たな需要に応えられるかを考えるタイミングと言えるだろう。
(出典:Marriott International, The Intentional Traveller)
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