データインバウンド
旅行者のAI活用、期待高くも信頼低く。日本の活用率33%にとどまる ー世界33市場調査
2025.08.14
やまとごころ編集部AI活用への関心が高まる一方で、旅行者の間には懸念や不安も根強いことが明らかになった。Booking.comは、世界33市場・3万7000人以上の消費者を対象に行った調査(2025年4〜5月実施)に基づき、「グローバルAIセンチメントレポート」を発表。旅行におけるAIの役割や消費者の感情、信頼度、地域差などを分析している。本記事では、その主要結果と日本市場の特徴を取り上げる。
AI活用91%が期待も、完全信頼は6%にとどまる
調査によると、回答者の91%がAIに期待を抱いているが、AIを「完全に信頼している」と答えたのはわずか6%にとどまった。
全体の77%はAIをある程度信頼している一方で、生成された情報を「ほとんど、あるいはまったく信頼していない」とする層も23%存在する。人間の承認なしにAIが意思決定を行うことに対しては、大半が懸念を抱いている。AIの独自判断に安心感を持つのは12%にすぎず、25%は「非常に不安」と回答。AIの導入には慎重さと明確な判断基準が求められている。
こうした背景から、AIを「人間の判断を補完する支援ツール」として活用することが、今後の信頼構築に不可欠であると示唆されている。
AI理解度、ラテンアメリカ・アジアは高く欧米は慎重な姿勢
地域別に見ると、ラテンアメリカ(LATAM)とアジア太平洋地域(APAC)がAIに対する熱意と理解度の両面で先行している。
ラテンアメリカでは98%がAIに期待し、89%が仕組みを理解していると回答。APACもこれに続き、教育や交通分野を中心にAIの導入が進んでいる。また、AIの仕組みを理解している割合は、APACでは平均82%であるのに対し、日本は60%とやや低く、情報リテラシーの課題も示唆されている。

一方、北米(NORAM)と欧州・中東地域(EME)では、生成AIへの不信感を持つ割合が高く、それぞれ32%、29%がAIの出力情報を「信頼していない」と回答。APAC全体の16%と比べて顕著に高い。なお、日本はAPACに属しつつも26%が不信感を抱いており、地域内でも慎重派が多い傾向が見られた。

旅行者の67%がAI活用、計画段階から旅ナカ、旅アトまで広く浸透
調査によると、全体で67%の旅行者がすでに旅行中にAIを利用した経験があると回答しており、そのうち98%が計画・予約時に、96%が旅行中にAIを活用していた。
旅行計画における情報源としては、AIアシスタント(24%)が職場の同僚(19%)やインフルエンサー(14%)を上回り、信頼される情報源として地位を確立している。
▼旅行計画において、AIはより信頼される情報源に
左より、旅行計画にAIアシスタントを信頼(24%)、職場の同僚の情報を信頼(19%)、インフルエンサーを信頼(14%)

旅行中においてもAIの利用は拡大しており、翻訳機能(45%)、現地アクティビティの提案(44%)、ナビゲーション(40%)、レストラン案内(40%)など、タビナカでの利用が浸透。帰国後の写真編集でも38%がAIを活用しており、旅行全体を通じた関与の深まりが見られる。
ラテンアメリカ・アジア、旅行でのAI活用7割に
地域別に見ると、ラテンアメリカ(LATAM)とアジア太平洋地域(APAC)は旅行の各フェーズにおいてAI活用率が高い。旅行計画段階でのAI利用は両地域ともに74%、旅行中の利用率もLATAMが74%、APACが73%と高い。旅行後の活用もLATAMで69%、APACで68%と高水準だ。
「旅行のすべてのフェーズでAIを使いたい」と答えた割合も、ラテンアメリカ(LATAM)が98%、アジア太平洋地域(APAC)が95%と非常に高く、AIを一貫して活用する姿勢が顕著に表れている。翻訳機能の活用はアジア太平洋地域(APAC)で51%、ラテンアメリカ(LATAM)で44%、リアルタイム旅行情報の受信はそれぞれ44%、36%と、旅行中の実用的な利用も盛んだ。
一方、北米(NORAM)では旅行計画でのAI利用が49%、旅行中47%、旅行後39%と控えめで、欧州・中東地域(EME)も同様に各フェーズで50%前後にとどまっている。「全フェーズで使いたい」と回答した割合は北米が81%、欧州・中東が85%と高めではあるが、ラテンアメリカやアジア太平洋地域と比べるとやや慎重な姿勢がうかがえる。
▼旅行分野におけるAI活用の地域差
上から順に「旅行計画で使用」「旅行中に使用」「旅行後に使用」「旅行の全フェーズで使いたい」「海外での翻訳に使用」「リアルタイムの旅行情報を受け取るために使用」

47%がAIによる偏見助長を懸念、多様性の担保もネックに
旅行の利便性向上については、66%が「より簡単で効率的になる」と回答し、63%が「多様性や包括性(インクルージョン)の促進に役立つ」と前向きに評価している。
一方で、AI活用に対する懸念も根強く、47%が「AIがステレオタイプや偏見を助長する可能性がある」と回答。38%が「予算重視の旅行者が軽視される結果になるのでは」と懸念を示している。AIが生み出す情報や提案が、必ずしも公平性や多様性を担保していない現状が、旅行者の不安の要因となっている。
日本の旅行AI活用率33%、世界平均の半分以下にとどまる
日本市場においてもAIへの関心は高まっているが、実際の活用度は世界平均より大幅に低い。旅行のいずれかの段階でAIを活用している割合は世界では67%に対し、日本では33%にとどまっており、導入に対する心理的ハードルの高さがうかがえる。
また、日本の旅行者の62%が「近い将来、AIによる自動旅行プランニングが主流になる」と予測しているが、これは世界全体(65%)をやや下回る結果となっている。
旅行におけるAI活用のメリットとしては、66%(日本44%)の旅行者が「旅をより簡単かつ効率的にすること」を挙げており、利便性の向上に対する期待は共通している。旅行計画段階での活用意向も高く、全体の89%が将来的にAIを旅行計画に取り入れたいと回答。特に目的地や最適な旅行時期の調査38%(日本34%)、現地でのアクティビティや文化体験の検索37%(日本35%)、レストランの推薦情報36%(日本38%)といった場面でAIの活用が望まれている。
注目すべきは、AIの活用が旅の質の向上だけでなく、社会や地域への貢献という観点でも評価されている点だ。
たとえば、世界で71%(日本:65%)の旅行者が「混雑した観光地やピーク時の旅行を避けるためのAIによる提案」に価値を感じており、AIが快適かつサステナブルな旅をサポートする存在として期待されている。また、世界で60%(日本:35%)の旅行者が「訪問先の地域にポジティブな影響をもたらすような体験をAIが推薦してくれること」を望んでおり、旅行者の関心が地域社会への配慮にも広がっていることがうかがえる。

【編集部コメント】
旅行者と地域をつなぐAI活用の未来、効率化の先にある価値
世界33市場の調査から、AI活用への高い期待と同時に信頼不足が明らかになった。特に日本は活用率33%と世界平均67%を大きく下回り、理解度も60%と低め。APAC内でも慎重派が多く、信頼構築のための透明性と倫理性が課題だ。一方で、混雑回避や地域社会へのポジティブな影響をもたらす提案など、観光地マネジメントに資する可能性も示されている。
今後の旅行業界に求められるのは、AIを単なる効率化ツールではなく、「旅行者と地域の双方にとって価値ある体験を創出する支援技術」として位置づける視点だ。そのためには、AIの役割と限界を明確に定義し、利用者が納得できる透明性と倫理性を備えた設計が不可欠となる。先行するラテンアメリカやアジア太平洋の事例を比較検討し、心理的ハードルを下げる利用体験の設計を進めることが、地域競争力の向上につながるだろう。
(出典:Booking.com,The Global AI Sentiment Report)
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