データインバウンド
一人旅市場71兆円、アジア太平洋で日本が人気首位。調査で見えた旅の動機と行動
2025.08.18
やまとごころ編集部かつてニッチな活動と見なされていた一人旅は、今や個人の成長やユニークな体験を求める多様な旅行者を惹きつける、急成長中のトレンドとなっている。2024年の世界の一人旅の市場は推定4823億4000万米ドル(約71兆2951億円)規模に達し、2025年から2030年にかけては年平均14.3%の成長を見込む。特にアジア太平洋(APAC)地域では同期間に16.1%の成長が予測され、世界全体の伸びを上回るとされている。
2024年の予約のうち40%が一人分の航空券だったシンガポール航空のLCC子会社スクートは、この動きを深く理解するため、世界的な世論・データ企業YouGovに調査を依頼。オーストラリア、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイの5カ国を対象に、過去12カ月以内に一人旅をした、または今後12カ月以内に計画している5000人以上を対象に、2025年3月に調査を実施。この調査によりソロトラベラーの特徴や動機、直面する課題、将来展望が浮き彫りになった。
独身者だけではない、多様化する一人旅の層
一人で旅をするソロトラベラーは、ここ数年で注目度が急上昇している。一人旅は「独身者だけのもの」というイメージを抱きがちだが、実際は、交際中でパートナーがいる人や既婚者が56%と最も多い。なお、独身と回答した人は36%で、全体の3分の1強を占める。残りは離婚、別居、寡婦などが7%だった。
なお、タイは、調査対象となったアジア太平洋5カ国の中で、独身一人旅の割合が最も高かった(46%)。男女比はほぼ均衡で、経済的にも自立している傾向があり、中でもミレニアル世代が目立つ存在だ。
▶︎アジア太平洋地域の国別ソロトラベラーのプロフィール
※国は左より、黄色=APAC平均、緑=オーストラリア、紫=マレーシア、濃いピンク=シンガポール、薄ピンク=インドネシア、青=タイ
※項目は左から、男性、既婚/交際中、独身、有職者、大卒以上。

年代別では、アジア太平洋地域で最も多いのは25~34歳(30%)、次いで35~44歳(23%)となっている。スクートの予約データでも同様の傾向が見られ、25~44歳が一人分の航空券予約の58%を占める。
▶︎アジア太平洋地域ソロトラベラーの世代別割合

調査対象国すべてで、ミレニアル世代が最大の割合を占めており、シンガポールではその割合が51%に達する。一方、団塊世代(1946~1964年生まれ)の一人旅割合が最も高いのはオーストラリア(30%)で、APAC平均(11%)を大きく上回る。Z世代(1997-2009年生まれ)の割合が高いのはインドネシア(39%)、マレーシア(30%)、タイ(28%)だ。
▶︎国別ソロトラベラーの世代 (上から、APAC平均、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ)
訪問予定国のトップは日本、近隣国人気が顕著
アジア太平洋(APAC)のソロトラベラーの73%は海外旅行を好み、特に近隣の国を訪れる傾向が強い。過去12カ月と今後12カ月の旅行先トップ10のうち、8カ国はAPAC地域が占めている。APAC以外でランクインしているのはアメリカとイギリスのみだ。
▶︎過去12カ月と今後12カ月の人気旅行先トップ10
日本は過去12カ月の訪問先では5位(17%)、今後12カ月の予定では26%が日本を訪れると回答し、最も人気の目的地となっている。 特に、シンガポール、インドネシア、タイでの人気が高い。
▶︎国別・人気の旅先トップ5(過去12カ月)

▶︎国別・人気の旅先トップ5(今後12カ月)

また、回答者の62%が過去1年で複数回旅行しており、そのうち32%は年3回以上の頻度で一人旅に出かけている。さらに3分の1は8日以上の長期旅行を楽しんでいる。
ソロトラベルが選ばれる理由、自由・自己探求・気付きの旅
一人旅が人々を惹きつける理由はさまざまだ。APAC地域のソロトラベラーの半数以上(52%)は、自分好みの旅程を自由に組み立てられる独立性と柔軟性を最大の魅力として挙げる。回答者の44%が、誰かに合わせる必要がなく、自分のペースで旅を楽しむことができることが、一人旅の醍醐味だと答えている。
また、自己成長や内省の機会として一人旅を選ぶ人も多い。47%は日常から離れて自分に集中する時間を得られることを重視し、43%は他人に妥協せず趣味や関心を追求できる点を評価している。孤独を楽しむことが異なる視点を学び、自分について新たな発見をもたらすと考える人も40%に上る。
さらに、一人旅は新たな人との出会いを生むきっかけにもなる。約3分の1(32%)は、同じ冒険心を持つ人々とつながりやすくなると感じており、普段はなかなか体験できない文化やアクティビティにも触れやすくなると答えている。そして、10人に3人は、日々の責任やルーティンからの解放を目的としており、日常から離れることで心身がリフレッシュされ、新たな視点で世界を見ることができる点を評価している。
最大の懸念は安全、計画重視で不安を解消
自由で魅力的な一人旅にも課題は存在する。APACのソロトラベラーが最も懸念しているのは「個人の安全・セキュリティ」(54%)で、次いで「予期せぬ変更への対応」(44%)、「言語の壁」(41%)が続く。
こうした課題に対し、多くのソロトラベラーは事前調査や計画、旅行先の人々とのつながりを保つこと、安全確保を重視している。
旅行計画については、96%が何らかの形で計画を立てており、そのうち47%は細部まで詰める「几帳面なプランナー」だ。一方で、3分の1強はフライトや宿泊といった必需品だけを事前予約し、5分の1未満(16%)は旅行中に予定を決めることを好む「最小限のプランナー」だ。そして、4%のごく少数は、全くの計画なしで旅行をしている。インドネシア人(56%)のソロトラベラーは几帳面なプランナーである可能性が高く、一方、オーストラリア人(43%)は部分的プランナーである可能性が高い。また、予期せぬ事態に備えて健康保険や旅行保険を重視する人も多い。
▶︎ソロトラベルの旅行計画別タイプ

航空会社選びの軸は価格と安心、柔軟性も重視
ソロトラベラーの多くは「価格」を最優先して航空会社を選び、86%がエコノミークラスを利用している。しかし、価格だけではなく、80%がサービスの質も重視している。特に人気が高いのは「リアルタイムでの旅行情報提供」(30%)や「柔軟な座席選択」(25%)だ。
今後は、コネクティビティの向上、コミュニティサポート、安全対策強化、そしてより一人ひとりのニーズに対応した体験が航空業界の差別化ポイントになるだろう。
アジア太平洋で主流化する一人旅、推奨意向も高水準に
ソロトラベルには多くの利点がある。新しい文化との出会い、唯一無二の思い出作り、自分のペースでの世界体験を可能にする魅力的なスタイルだ。APAC地域のソロトラベラーの間では一人旅への支持が非常に高く、83%が友人や家族、同僚に勧めたいと答えている。特にインドネシアではこの傾向が強く、94%のソロトラベラーが知り合いに推奨したいと回答した。
▶︎ソロトラベルを家族、友人、同僚に勧める可能性

もはやソロトラベルはニッチ市場ではなく、人々が世界と関わる方法を変える大きな潮流となっている。この成長市場で支持を得るためには、航空会社や旅行会社がソロトラベラーのニーズを深く理解し、独立性を尊重し、安全を保証しながら、旅をより豊かにするサービスを提供することが欠かせない。
【編集部コメント】
アジア太平洋で拡大するソロトラベル市場、差別化の鍵は安心とパーソナライズ
ソロトラベル市場は2024年に71兆円規模へ拡大し、今後もAPAC地域を中心に高成長が続く見通しである。旅人像は独身者だけでなく、経済的に自立した既婚者やミレニアル世代が多く、動機は自由・柔軟性・自己発見に集中している。日本は今後12カ月で最も人気の目的地となっており、訪日需要の追い風ともなり得る。
課題は安全・予期せぬ変更・言語の壁であり、旅行者は事前の計画や安全面を重視する傾向がある。事業者にとっては価格や利便性に加え、リアルタイム情報提供や柔軟なサービス設計、コミュニティ的なつながりの提供が差別化の鍵となる。今、この成長市場への戦略的アプローチを検討する好機と言えるだろう。
(出典:Scoot,Unpacking the Solo Travel Trend)
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