データインバウンド
2026年の旅は“生き方”を映す Z世代がけん引する5つの変化 Trip.com×Google調査
2025.11.11
やまとごころ編集部かつて、日常からの「逃避」だった旅。いまは、人や場所、目的との深いつながりを求める行為へと変化している。
Trip.com GroupとGoogleが共同で実施した調査レポート「Why Travel?」では、Z世代・ミレニアル世代を中心に、旅が自己表現や心身の再生、深い学びの場へと変化している実態が明らかになった。
本調査は、日本、タイ、インド、インドネシア、オーストラリアを中心としたアジア太平洋地域における予約データと検索・アンケート結果を組み合わせて分析されたもので、「食・ファッションを通じた自己表現」や「ウェルビーイングと探求のための滞在型観光」など多面的に描き出し、2026年の5つの旅行トレンドを明らかにした。
旅は“自分を語る手段”へ 体験型消費やSNS発信が後押し
旅はもはや「行き先」を選ぶものではなく、「自分をどう表現するか」の手段となった。食体験を自己表現と捉える動きや、SNSのショート動画から旅先の着想を得る傾向が強まっている。
「スーベニア(お土産)」に代わり、体験や技術を持ち帰る「スキルベニア」―料理教室やワインテイスティング、職人のワークショップなど―が注目されているのもその表れだ。
「食事」が旅の主目的に
Googleトレンドによると、2025年前半の「フードトラベル」検索数は前年比18%増、「ミシュランガイド」は22%増と大きく伸びた。Trip.comでも料理関連予約が43%増加しており、香港、シンガポール、韓国、日本の“食通”旅行者が、中国本土やタイ、シンガポールなどでの食体験を積極的に予約している。
さらに「バレンタインデー×料理教室」「タイ料理教室」など、特定の文化・イベントと結びついた検索が増加。観光から地域文化に根ざした体験へのシフトが明確に進んでいる。
装い・都市・イベントを楽しむ“ファッション旅”の拡大
ファッションウィークは業界イベントから、都市全体の祭典へと進化している。ファッション旅行関連の検索は前年比190%増。クリエイターや著名人が発信する「現地での過ごし方」や「装い」「訪れたレストラン」など、個人の体験に注目が集まっている。
伝統的な開催地であるパリ、ミラノ、ニューヨークに加え、ストックホルム、クアラルンプール、ドバイなど新興都市も人気を集める。特にヨーロッパの旅行者の間では、ソウル(前年比319%増)、上海(同864%増)が急浮上している。
旅先選びにライブ配信が影響 SNSから予約へ直結
目的地の選択においてSNSが与える影響力は年々強まっている。 Trip.comによると、タイ、インドネシア、インドでは75%以上の旅行者が旅関連のライブ配信を視聴し、その最大76%が配信内リンクから直接予約する可能性があると答えている。視聴者のエンゲージメントが比較的低い市場であっても、オーストラリア(44%)や日本(25%)でもこのトレンドは見られる。ソーシャルメディアによって人気が高まっている目的地のトップには東京と京都がランクインしている。
▶︎SNSで人気を集めるトップの観光地 ▶︎旅関連のライブ配信を視聴する旅行者

観光から探求へ “学ぶ旅”が広がる
人々はありきたりな旅程に別れを告げているようだ。現代の旅行者は、より深い目的と探求心を育む体験へと旅程を書き換えている。日本の茶道からヨーロッパの城巡りまで、単に人気の観光スポットをチェックするだけではなく、インスピレーションを与え、探求心を深めてくれるユニークな体験を求めていることが明らかになった。
探求のための休暇
特にアジアの伝統文化への関心が高まっていることがデータから見て取れる。たとえば、「日本の茶道」は、2025年上半期のGoogle検索で前年比53%の増加を示した。この伝統的な儀式は、台湾、香港、韓国、中国本土を含む近隣の東アジア諸国の観光客を強く惹きつけている。
また、「城巡り(castle tours)」の検索関心は2025年上半期に世界中で4%増加した。Googleでの関連検索用語のトップは、国宝の天守をはじめ、江戸時代の城全体の姿を今もよく留めている彦根城だった。
▶︎Google検索で人気の「城巡り」
1 彦根城 日本
2 チャプルテペック城 メキシコ
3 グレンコース コットランド
4 セント・ポール大聖堂 イギリス
5 ニンフェンブルク城 ドイツ
自然の中で自分を整える エコ・スローな旅へ
旅行者は、せわしない旅行スケジュールから、よりゆっくりとしたペースの旅へと切り替えており、単に自然に近づくだけでなく、思索と内省の時間を持つように促す目的地を探している。世界初のカーボンネガティブ国であるブータンは、今年の上半期でフライト予約が前年同期比で7倍に急増した。
持続可能性を重視する意識も高まり、旅行者は移動手段から宿泊先の選択に至るまで、よりサステナブルな選択を行っている。「バイクパッキング(自転車によるバックパック旅行)」の検索は前年比33%増。電気・ハイブリッド車の予約も2024年7月以降、月平均14%の成長を見せている。
宿泊では「ホームステイ」「地方リゾート」など現地密着型滞在が好まれ、検索関心は前年比22%、予約は21%増加。地域の文化や暮らしを体験する“滞在型観光”が拡大している。
旅の目的は「再生」へ ウェルビーイング需要が拡大
旅の目的は「休息」から「心身の回復」へと深化している。
ウェルネスを中心とした旅程
スパ体験に関する検索は前年比140%増、「オールインクルーシブ・スパ」は250%急増した。さらに、医療や予防ケアを目的とした「メディカルツーリズム」も注目を集め、「メディカルツーリズムとは」の検索は90%増加。旅が「癒しと再生の場」として再定義されている。
運動とリラクゼーションの融合
新たな潮流として、運動とリラクゼーションを組み合わせる「スポーツ×スパ」型の旅が拡大中だ。
「ゴルフ&スパ」に関する検索は前年比300%、「スキー&スパ」は250%増となっており、激しい運動と深いリラクゼーションのバランスを取りたいというニーズが示されている。これにより、札幌と、世界最大級の露天風呂ブルーラグーンのあるレイキャビクの人気が急上昇。トリップドットコムグループの航空券予約はそれぞれ62%と25%増加し、ホテル予約は111%と35%急増。温泉とアクティブな冒険を組み合わせたこの二つの需要に応える場所として認識が高まっている。
▶︎スポーツとスパの組み合わせが人気(上:ゴルフとスパ、下:スキーとスパ)

入浴による癒しの再評価
温泉文化も再評価が進み、パムッカレ、前述したブルーラグーン、銀山温泉が「急成長する温浴地」として浮上。 ヨーロッパでは「温泉トレイル」の検索が28%増加し、アジアでは温泉(Onsen)の検索が20%増。シンガポール、タイ、オーストラリア、香港、ニュージーランドなどからの旅行者が日本の登別、定山渓、唐津を訪れ、温泉を“心身のリセット”の象徴として捉えている。
旅は“誰かと共有する時間”へ 共感が動機を後押し
旅は個人のものから「共有する時間」へ。家族や友人、ファンコミュニティとの体験を重視する傾向が強まっている。
コンサートやスポーツ観戦を組み込む「ステージケーション」
アジア太平洋地域の旅行者の63%が「コンサートのために旅行したことがある」と回答し、66%が海外渡航の意向を示した。 マカオ、ラスベガス、メルボルン、シンガポールでは、コンサートと宿泊・観光を組み合わせた「ステージケーション」が盛況。タイの旅行者の85%、マレーシアの66%が音楽イベントと家族旅行を組み合わせている。
▶︎ステージケーションの人気旅行先

挑戦と探求を両立する耐久スポーツのための旅行
また、マラソンやトライアスロンなど耐久スポーツを目的とした旅行はGoogle検索で前年比5倍に増加。ハイブリッド型耐久イベント「Hyrox」(1kmのランニングと8種類のファンクショナルエクササイズを組み合わせたサーキットレース)は香港、バルセロナ、マンチェスター、ドバイ、ミラノなどの拠点で爆発的に拡大中だ。2026年1月には大阪で初開催される。
Trip.comの旅行者の90%が「スポーツと文化体験を結びつけたい」と回答した。 スポーツ観戦から参加型イベントまで、挑戦と交流を融合させた新たな旅の形が広がっている。マレーシア人旅行者では、サッカー(62%)、F1(42%)、バスケットボール(31%)が旅行と組み合わせる最も人気のあるスポーツ。また、この傾向は単なる観戦にとどまらず、「上海マラソン2025」のようなパッケージにはレース参加権、ホテル、現地体験が含まれる。
多世代で楽しめるコミュニティとしてのクルーズ
クルーズ旅行は、多世代の家族向けに、すべての人に何かを提供する「水に浮かぶコミュニティ」へと変化している。東京、京都、済州、モルディブを通るルートが特に人気を集めている。
▶︎クルーズの人気旅行先

AIと没入体験で広がる“未来の旅”
AIはもはや旅行計画の補助ではなく、パートナーとして定着しつつある。
AIによる旅行計画の主流化
旅行計画におけるAIアシスタントの活用が急速に増加している。「help planning my trip(旅行計画の手助け)」のGoogle検索は前年比190%増加した。
Trip.comのAIアシスタント「TripGenie」は、トラフィックが前年比125%増加し、ユーザー数は242%増、会話数は234%増となった。特に、旅行中の言語サポートに役立つ翻訳機能の相談件数は214%増加しており、AIがリアルタイムな旅のサポートに不可欠になっていることを示している。
バーチャルと現実の融合
また、テクノロジーを活用した没入型体験も拡大している。Trip.comにおける「テック旅行」関連キーワードの検索数が急増し、予約数もこれに追随している。2023年9月にラスベガスにオープンした球体のエンターテインメント施設「Sphere(スフィア)」は予約数が前年比4014%増、インタラクティブ展示と多感覚体験で知られる「イマーシブ・フォート東京」も1627%増と急伸。さらに宇宙旅行への関心も高まり、「space travel」の検索は672%増加した。
旅行者はいま、単に場所を訪れるのではなく、最先端技術によって“物語の世界”に足を踏み入れようとしている。
▲ラスベガスのSpere。外壁と内壁の全体が巨大なLEDスクリーンになっており、360度の没入型映像体験や、コンサートなどが楽しめる。
【編集部コメント】
旅は「目的地」から「生き方」へ
Trip.comとGoogleの最新データが示すのは、「旅=消費」から「旅=自己表現・再生」への明確なシフトである。食体験やファッション、ウェルビーイングなど、旅行者の関心は個人の価値観や生き方を映す方向に向かっている。中でも“体験を共有する”行動がSNSやライブ配信を通じて旅行動機を形成しており、情報発信と予約行動が直結する構造が見えてきた。観光事業者にとっては、単なる観光プランではなく「物語性のある体験設計」や「共感を生む発信」が競争軸となる時代だ。自社の体験価値をいかに可視化し、旅の動機づけにつなげるかが今後の鍵となるだろう。
(出典:Trip.com, Why Travel? Report)
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